中国人を雇う前に知っておきたいこと

中国人の労働者をよく見かける。飲食店やコンビニでは当たりまえのように留学生らしき若者が働いている。顔つきは日本人と変わらない。しかし、名札や言葉づかいで気がつく。

かれらは有能だ。そうでない人もいるが、日本のアルバイト労働をそつなくこなす人がほとんどだ。母国語と日本語の2ヶ国語以上を理解して、しかも働いていないときは勉強をしているのだから、知力や学習能力については推して知るべしだ。

日本国内で見かける中国人留学生には勤勉で優秀な人が多いようだ。だからといって中国の若者すべてが同じように有能であるとは限らない。留学生はふるいにかけられているが、中国本土にいる若者はまさに玉石混交であるからだ。

中国ビジネスにおける人材育成の実態を知るためにうってつけの本がある。『なんで私が中国に!?』(日野トミー・著/イースト・プレス・刊)は、陝西省西安市で100人体制のアニメスタジオを新設したときの体験をコミックエッセイ形式で記録したものだ。

 

面接はドタキャンや途中退席あたりまえ

著者の日野トミーさんは、日本人のアニメクリエイターだ。あるとき、会社から中国行きを命じられる。新スタジオの立ち上げメンバーに選ばれたからだ。

日野さんに与えられたミッションは、中国本土で放映される子供向けアニメを制作するため、わずか3ヶ月のあいだに100人体制の制作ラインを構築することだった。

すでに現地での拠点づくりは済んでおり、人材の採用とチーム育成が日野さんの仕事だ。求人募集をおこなったところ、つぎつぎと履歴書が送られてきたという。

しかし、面接に来ない。応募者の半数がドタキャンするからだ。いまの中国では珍しくない光景だ。なぜなら、中国のイマドキの若者とは「90后(ジュウリンホウ)」と呼ばれる世代であるからだ。

1990年代に生まれたかれらは激しい学歴社会を通過してきたので、自分の市場価値について不安を抱えがちだという。だから、興味がない会社にも履歴書を送りつけて、書類選考に通過したことを精神安定剤がわりにしている。

たとえ面接にやってきたとしても、1時間以上の遅刻はあたりまえ。試験の途中でいなくなる。人口が多いので応募も多いのだが、そのぶんノイズも増えるので、採用コストは日本の数倍にもなりそうだ。

就業時間なのに仕事以外のことを優先する

アニメ制作は専門職だが、単純な作業も多い。だから飽きてしまう。仕事なので飽きてもやらなければいけないが、日野さんのアニメスタジオで働いていた中国人は「仕事だからガマンする」ということができなかった。

日野さんのアニメスタジオでは、就業時間中に居眠りをする中国人が多かったという。パソコンでアニメを視聴していたり、ケータイで談笑しはじめたり、届け出もせずに勝手に早退したり。当然、スケジュール通りに仕事が進まなくなる。

どうするか? 中国では、すぐにクビにする。そんな状況が日常茶飯事なので、人の入れ替わりがとても激しい。

ミスや不手際を指摘したら言い訳をはじめる

また、とにかく言い訳が多い。日野さんのアニメスタジオで働いていた中国人は、ありとあらゆる理由をつけて自己正当化した。

頼んでいた仕事を忘れていたことを指摘すると「さっき停電したせい」「ほかにやることがあったから」など、すごい剣幕でまくしたてるように反論する。しまいには「お腹が痛かったせい」などと幼児じみた言い訳をはじめる。

ほかにも、課せられた業務を放り出して帰ろうとした従業員を呼び止めると「きょうは実家に帰らなければいけない。バスに間に合わないのでこれ以上は仕事ができない」と言い訳をはじめたという。事前連絡ということを知らないようだ。

デキる中国人を見つけてリーダーを任せる

日野さんのアニメスタジオは中国の西安にある。旧名は長安であり、近郊には秦の始皇帝稜がある。有名な兵馬俑を一目見ようと世界中から観光客が訪れるにぎやかな土地だ。

中国アニメ産業の本場は、北京や上海であるとされている。西安市も行政がクリエイティブ産業に対して優遇政策をおこなっているものの、本場に比べて圧倒的にアニメーター人材が不足していた。

日野さんのアニメスタジオがある西安周辺にまったく人材がいないかといえば、そうではない。北京や上海から経験豊富なアニメーターが引っ越してくることがあるからだ。事情はさまざまだが、なかには「彼女が西安に住んでいるから北京の住まいを引き払って追っかけてきた」という優秀なアニメーターもいた。

玉石混交の「石」ばかりを引かされていた日野さんにとって、優秀なワケあり中国人アニメーターは絶対に獲得したい人材だった。制作スキルを買っているのはもちろんのこと、現場の中国人たちを統率するためには、信頼のおける中国人リーダーが欠かせないからだ。

「彼女の尻を追っかけて来た」という男性アニメーターは、見事に100人体制の要(かなめ)となってくれた。ほかの中国人たちとも、時間をかけて共に働くうちにチームワークを築くことができたという。

文化や歴史認識にちがいはあるけれど、おなじ人間なのだから、一緒に働くうちにいつか通じあえる。中国人にかかわらず、異文化に対しては「おおらかな気持ち」と「気長な心がまえ」が欠かせないようだ。

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