学校給食「牛乳廃止」の衝撃

平成25年度における「児童・生徒1人当たりの給食食べ残し」は、年間で7.1キログラムだった。学校で出された給食の約1割が食べ残されている。(環境省調べ)

「給食の食べ残し」を減らすことは重要な課題だ。食べ残しがあると、文部科学省が定める「栄養摂取基準」を下回ってしまうからだ。食べ残すような給食内容では、子どもの健康維持や成長が危うくなってしまう。

食べ残しの原因はさまざまだ。ピーマン、ネギ、ブロッコリーなどの嫌いな野菜を残す。いまの子どもは「家庭で食べたことがない和食料理」に手をつけない。「給食時間が短いせいで食べ残してしまう」という意見もある。

食べ残しだけでなく、給食で出される「牛乳」も飲み残しが多い。乳製品にふくまれるカルシウムは骨の成長に欠かせないものだから、牛乳の飲み残しは改善すべき問題だ。

牛乳が学校給食に出される理由

給食のフォーマットは法律で決まっている。日本の小中学校で出されるものは「完全給食」と定義づけられているものだ。

完全給食とは、給食内容がパン又は米飯(これらに準ずる小麦粉食品、米加工食品その他の食品を含む。)、ミルク及びおかずである給食をいう。

(『学校給食法施行規則』から引用)

つまり、牛乳(ミルク)がなければ「完全給食」と認められない。いまの学校給食法は、一般市民の感覚とズレているのではないか? じつは、必ずしもそうとは言い切れない。

完全給食(ミルク必須)の歴史

日本の法律で「ミルク」が重要視されている理由は、終戦~昭和25年ごろまでの学校給食が「スープ類とミルク(脱脂粉乳)」のみであったからだ。米飯どころかパンも無かった。当時の「ミルク」は、給食における最上位の栄養源だった。

学校給食法が定められた昭和29年の前後からは、給食メニューに「パン」が登場する。コッペパン、揚げパン、食パン、昭和40年代からはソフト麺も登場して、子どもたちの空腹を満たせるようになってきた。

昭和50年までの給食は「パン」や「麺類」が主流だった。学校給食法の「完全給食(ミルク必須)」の規程に違和感はなかった。

しかし、昭和51年から「米飯給食」が始まったことにより、学校給食におけるミルク(牛乳)の立場がビミョーになってきた。カルシウムをふくむ食材としては有用だが、米飯や米飯向けのおかずと相性が良くないからだ。

いまでは、平均で週3回の米飯給食が実施されている。全国の95%が米飯給食に移行している現状においては「学校給食に牛乳は不要」という意見も出てきた。

2015年に大きな動きがあった。「お米と牛乳の相性は良くない」「牛乳のせいで米飯給食を食べ残すのではないか」という観点から、完全給食(ミルク付き給食)を廃止した地方自治体が現れたのだ。

「牛乳廃止」の衝撃

現行の給食制度に一石を投じたのは、新潟県三条市だ。市内の小中学校あわせて30校で「牛乳抜きの完全米飯給食」を実施している。週5回すべて米飯メニューであり、牛乳ビンや牛乳パックの姿は見当たらない。コメ生産量が日本一の新潟県ならではの事例といえる。

三条市のチャレンジは、平成15年(2003年)にさかのぼる。このときから「原則米飯給食(月に1~2回だけパンや麺類が出る)」を開始した。まだ牛乳は出ていたが、せっかく地元がコメの名産地なのだから、パンや麺類ではなく、子どもたちに米飯を食べてもらおうという想いがあった。

平成20年(2008年)からは、ついに「完全米飯給食」を開始した。主食からパンや麺類が完全に姿を消したのだ。じつは、このときも牛乳を廃止することはできなかった。学校給食法に罰則はないが、戦後の慣習である「完全給食(ミルク必須)」を無視するのは難しいからだ。カルシウム摂取量の問題もあった。

そして、平成26年(2014年)の12月。三条市は、試験的に4ヶ月間だけ学校給食における牛乳提供を停止する。子どもたちの反応や市民から寄せられた意見を参考にして、ついに三条市は「完全給食(ミルク必須)」の廃止を決断する。NHKニュースや新聞各紙で報じられたので話題になった。

平成27年(2015年)4月からは、三条市の小中学生は給食の時間に牛乳を飲まなくても良くなった。おかずの内容を見ると、カルシウムが多いとされている小松菜がほぼ毎日のように採用されている。ほかにも「ワカメ」「ひじき」「ちりめんじゃこ」や、味噌汁に煮干し粉を入れる、野菜がすくないキーマカレーの日には「フルーツのヨーグルトあえ」を出すなど、カルシウム摂取のための工夫をおこなっている。

具体的な給食メニューは、三条市が毎月発表している「給食だより」にて誰でも確認できる。

小中学校 給食だより – 三条市

上記リンクにアクセスすると、三条市内で児童数がもっとも多い嵐南小学校(約900人)と第一中学校(約500人)の給食献立をPDFファイルにて閲覧できる。たしかに「牛乳」が見当たらない。なかには、米飯にそぐわない「シチュー」「チーズ」もあるが、すべては子どもたちの成長と健康のためだ。給食の食べ残しは減ったという。

三条市の給食 食べ残しが減少|新潟日報モア

三条市がコメの名産地であるからといって、三条市の人たちがパン給食や牛乳を憎んでいるわけではない。じつは、いまでも三条市の子どもたちは学校で牛乳を飲んでいる。廃止したはずではないか?

種明かしをすれば、三条市では「ドリンクタイム」を実施しているからだ。給食以外の時間に、学校で牛乳を飲んでもらおうという新しい試みだ。

ドリンクタイムの長所と短所

現在では、全国の5%ほどの小中学校が「週5回の米飯給食」を実施している。三条市にかぎらず、給食から牛乳をはずす「ドリンクタイム」という仕組みは、全国の教育現場でも採用例がある。

10年間にわたって学校給食の現場を調べたルポタージュ集『吉原ひろこの学校給食食べ歩記〈3〉食べ残し編』(吉原ひろこ・著/サテマガ・ビー・アイ・刊)によれば、ドリンクタイムは一定の成果をあげているという。たとえば、汗をかいた体育授業の後に提供することで飲み残しが減ったという。

ただし、ドリンクタイムも万能ではない。吉原さんのルポタージュによれば、昼休み後に提供したものの「おなかいっぱいで飲めない」という声があった。女子児童のあいだで「牛乳は太るらしい」という説がまことしやかにささやかれていたり。

牛乳の飲み残しや給食の食べ残しは、一朝一夕には解決しないようだ。いずれにしても、新潟県三条市がいままでの学校給食のありかたに一石を投じたのは良かったと思う。将来、日本国内において牛乳の供給が途絶えたときのためのノウハウ蓄積にもなる。

子どもたちが口に入れるものだから、学校給食について議論したり試行錯誤をしすぎるということはない。

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