路上生活で出会い結婚したホームレス夫婦のはなし

ホームレス。定まった住居を持たない路上生活者のことだ。世間には誤ったイメージが広まっている。

第一に、ホームレスは怠け者ではない。働いている人が多いからだ。大半の人が廃品回収やアルミ缶集めなどで現金収入を得ている。

毎日の食事は働いたおカネで買っている。ごみ袋をあさるホームレスはきわめて少ない。服は日替わりというわけにはいかないが、清潔をたもつために銭湯へ行けるくらいの稼ぎはある。

路上生活には悲しいこともあるけれど、楽しいことだってある。結婚だ。ホームレスだってマリアージュできる。東京上野公園のホームレス夫婦を紹介したい。

ホームレスの恋愛事情

意外に思われるかもしれませんが、ある程度の規模を持つテント村を訪れてみると、夫婦で暮らすホームレスは決して珍しい存在ではありません。たとえば、多摩川沿いに数軒、上野恩賜公園にも数軒……といった具合です。

(『ホームレスが流した涙』から引用)

ただし、多くのホームレス夫婦は、住まいを失うまえから婚姻関係にあったケースがほとんどだ。

『ホームレスが流した涙

心に余裕がなく、着飾ることも難しいため恋愛が成就しにくい。お互いが路上生活者として出会った男女の結婚は、奇跡にひとしいと言える。

大西由紀さん(仮名)と岩田治朗さん(仮名)は路上生活中に出会い、路上で結婚式を挙げた。出会いは、先輩ホームレスだった由紀さんがホームレス1年生の治朗さんを怒鳴りつけたことから始まった。

ある路上生活者たちの経歴

ホームレス夫の岩田治朗さんは30代後半の男性だ。20代のときはアルバイトや日雇いの肉体労働をして暮らしていた。

仕事が長続きせず30代で住む場所を失ってしまう。上野公園のテント村にたどりついたが右も左もわからない。人づきあいが苦手なので先住の路上生活者ともうまくいかなかった。

そんな礼儀知らずの治朗さんを見かねたのが、由紀さんだった。たよりない治朗さんに、スパルタ式でホームレスとしての仁義を叩きこんだという。

ホームレス妻の大西由紀さんは50代前後の女性だ。むかしは路上雑誌売りをして生計を立てていた。使用許可のないゲリラ的な商売のため、厳しくなった警察の取り締まりによって廃業した。

福祉施設には長くいられず、由紀さんも上野公園へ流れついた。

世界でいちばん小さな結婚式

由紀さんのガミガミ説教からはじまった2人の出会い。治朗さんは腹を立てるどころか、それをきっかけに心を入れ替えた。

由紀さんは足が不自由だった。それなのに世話を焼いてくれたことを治朗さんは感謝した。路上生活のなかで、ふたりはお互いを気にかけて支え合うようになっていく。

プロポーズの言葉は「結婚しようか?」だった。30代男性と50代女性の歳の差があるので、はじめ由紀さんは断ったという。治朗さんは引き下がらなかった。心が通じあい、ふたりは家族になった。

こうしてめでたく婚約にこぎつけた2人は、周りに住むホームレスのテントを一軒ずつ訪ね、挨拶に回ったそうです。するとみんな自分のことのように喜んでくれて、公園のなかでささやかな結婚式をすることになりました。

(『ホームレスが流した涙』から引用)

酒とツマミを持ち寄り、路上生活者たちはふたりの新たな門出を祝った。ご祝儀にはタバコや支援ボランティアからもらったTシャツなどが寄せられたという。

ホームレス夫婦の後日談

世界一小さな結婚式から数カ月後のこと。治朗さんと由紀さんの姿が上野公園から消えていた。

じつは、ふたりはアパートに引っ越していたのだ。必要なお金は、治朗さんが日雇い現場に通って貯めていたようだ。治朗さんは大手居酒屋チェーンの契約社員として働きはじめていた。

路上で出会った夫婦は、ついにホームレス生活から脱することに成功した。あの日、生きる希望を失っていた治朗さんを由紀さんが怒鳴りつけていなかったら……。支えてくれる相手を得られず、ふたりとも路上生活者のままだったかもしれない。

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