日本の昔ばなしには「屁をこく嫁」という一大ジャンルがある

子どもは笑い話が好きであり、下品なことばが出てくると大喜びします。
話題の『うんこ漢字ドリル』が200万部超えのベストセラーになったことでもわかります。

日本各地につたわる民話のなかには、「屁(へ)」「おなら」にまつわる笑い話があります。
なかでも、日本の昔ばなしには「屁をこく嫁(よめ)」という一大ジャンルがあるのをご存じでしょうか。

「屁をこく嫁」の代表的あらすじ

小学校低学年向けのおはなし集『10分で読めるわらい話』(熊谷多津子・選/学研プラス・刊)には、イラスト付きで『へっこきよめさん』という昔ばなしが収録されています。

昔、ある村に、へを、よくこくむすめがおった。
しかも、こくへ、こくへが、たいそう大きかった。
でも家の中でこいていたので、むすめに、へっこきぐせがあるとは、家族以外、知らなかった。

(『10分で読めるわらい話』から引用)

平助という男に嫁いだむすめは、生活しているうちに、ついに屁をガマンできなくなります。

「どうしたい、顔が真っ青だよ。」
「へ……、へ……」
「へ? どこか、ぐあいが悪いのかい。」
「へが、こきたいのです!」

(『10分で読めるわらい話』から引用)

まさかの「屁がこきたいのです!」宣言に、お姑さんは「かまわないから、どんどんこきな」と言ってくれます。
お嫁さんが遠慮なくおならをしたところ、お姑さんは家の外まで吹き飛ばされてしまったのです。

お姑さんは戸惑いますが、夫の平助はやさしい男なので離婚には至りません。
それは正しい判断でした。お嫁さんの屁は、たくさんの柿をいっせいに落としたり、畑の農作物をいっせいに掘り起こすことができたりと、いろいろ役立ったからです。
こうして、屁こき嫁はしあわせになりましたとさ。めでたし、めでたし。

日本の昔ばなし「屁こき嫁」には、さまざまなバリエーションがあります。
『いまに語りつぐ日本民話集 第2集(4) 』(作品社・刊)に収録されているものを、5つのパターンに分類してみました。

A. 死人がでるパターン

・屁ひり姫(愛知県)

お姫様が許嫁(いいなずけ)と潮干狩りをしているとき、海水にぬれないように、岩と岩のあいだをジャンプしたときに「ブーッ」と屁をこいてしまう。
それを恥じたお姫様は、海に身を投げて死んでしまったとさ。

感想:許嫁の男が「気にするな」と言ってくれたにもかかわらずの悲劇!

・屁ひとつで三人死ぬ(宮城県)

嫁いだあと、大きな屁をたれることが発覚する。
舅(しゅうと/結婚相手の父親)の苦情を受けて、仲人が屁こき嫁を叱って責める。
それを苦にした屁こき嫁は、川に身を投げて死んだ。

屁こき嫁の死を悲しんだ夫は、愛する人を死に追いやった仲人や仲人の母に抗議する。
すると、それを苦にした仲人の母が、首を吊って死んだ。

世間は「屁こき嫁や仲人母が死んだのは、夫のせいだ」とウワサをする。
誹謗中傷に耐えられなくなった夫は、村の堤防から身を投げて死んでしまったとさ。

感想:「八つ墓村」ならぬ「三つ屁村」です。はたして真犯人は……。

B. 離婚が検討されるパターン

・屁っぴり嫁(宮城県)

美人で健康で性格のいいお嫁さんは、じつは「屁こき嫁」だった。
家のなかで大きな屁をするものだから、囲炉裏の灰が舞って、たいへんなことになってしまう。
嫁ぎ先の家族は、屁こき嫁に実家に帰ってもらうことにした。
しかし、嫁の実家へゆく途中で、大きな屁をすることによって、梨の木から実をたくさん落としてみせたり、沼の魚を一気にさらってみせたりと、嫁は大活躍する。
離婚は取りやめになり、屁こき嫁はしあわせになりましたとさ。

感想:実益があれば屁こきでもかまわない。合理的精神!

C.「部屋」の語源とするパターン

・へやのいわれ(埼玉県)

すごい屁をするけれど、実家に帰すほどではない。
でも屁をするたびに吹き飛ばされては困るので、家の奥座敷に「嫁が屁をするための場所」つまり「屁屋(へや)」を作ったとさ。

感想:納屋のような離れを「屁屋」にしたパターンも存在します。
ほかにも、迷惑をかけないように山奥で屁をさせたことから、ある川魚が「山屁(ヤマヘ)」と呼ばれるようになり、やがて山女(ヤマメ)に転じたというパターンも。

D. 重宝されるパターン

・屁たれ嫁(山形県)

屁たれを隠して嫁いだものの、やっぱり発覚してしまう。
しかも大きな屁をしたときに、嫁ぎ先の「神棚」をひっくり返してしまったので、ついに「出ていけ!」と追い出されてしまう。

屁こき嫁がひとりで実家にむかって歩いていると、お祭りの神楽舞にでくわした。
それをみた屁こき嫁は、おならで「ブッコブジマノッブッブップ、ピピッピイ」と楽器の音のマネをして、見物人たちを大喜びさせる。
それは見事なものだったから、神楽舞の演者たちは、みんな屁こき嫁の手下になってしまう。
その後、屁こき嫁は全国興行によって大金持ちになったとさ。

感想:「ピピッピイ」のくだりは、実が出ているっぽい。

E. 子どもには聞かせられないパターン

・勘違い(高知県)

縁談のときに「うちの娘には、人に言えない癖がある」とほのめかされる。
くわしくたずねると「ひとつきに一度、かならず屁が出る」という癖だった。
仲人も結婚相手も「1ヶ月に1度ならば少ないくらいだ」と承知して、婚姻が成立する。

結婚生活が始まったあと、夫が浮かない顔をして仲人のもとへやってくる。
「どうした」と仲人がたずねると、驚きの事実が明かされる。
嫁のおかしな癖についてだが、「ひとつき」というのは「ひと月」ではなくて、「ひと突き」という意味だった。

つまり、夜の営みにおいて、夫が「ひとつき」するたびに、嫁は屁をこいてしまう。「月」と「突き」の聞き違いだったとさ。

解説:仲人が「音楽入りで結構なこと」と言ったのには笑いました。

おなじ「屁こき嫁」でもビミョーに異なる

冒頭で紹介した、学研『10分で読めるわらい話』に収録されている『へっこきよめさん』は、BとCが融合したパターンに当てはまります。

いちばん多いのは、Bのパターンです。
屁のせいによって離婚が決定したものの、嫁が実家に帰される道すがらに大きな屁がさまざまなことに役立って、離婚が取りやめになる───。

たとえば、『へっこきよめさま』(令丈ヒロ子・著 おくはらゆめ・著 / 講談社・刊)が当てはまります。

ほかにも、「屁をこく嫁」を題材にしたものは、絵本としてたくさん出版されています。
おならの描写と擬音において、それぞれの作家の創意工夫がみられます。
お子さんと一緒に、読み比べてみてはいかがでしょうか。

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