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ロンドンの地底都市をさぐるファンタジー小説

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世界40カ国で大人気のイギリス発ファンタジー小説が、このたび新訳で復刊した。

トンネル 迷宮への扉』(ロデリック・ゴードン、ブライアン・ウィリアムズ・著 橋本恵・訳/学研プラス・刊)は、アルビノの少年が、異世界へと失踪した父親を追いかけるなかで世界の秘密を知るというあらすじだ。魔法が登場しないシリアス・ファンタジーであり、海外ファンタジーになじみがない読者でも楽しめる世界観だ。

不遇の考古学者が発見したもの

イギリス人であるバロウズ博士は、歴史学と考古学の博士号をとっている。新たな発見への情熱も持ち合わせていた。しかし、ロンドン市内の大学に空きが無かったので、さびれたハイフィールド地区にある博物館の館長職についた。腰掛けのつもりだったが、学者として業績が残せないまま12年を過ごしてしまう。

若き日のバロウズ博士がさえない館長職を選んだのは、幼い子どもを抱えていたせいだ。子育てには安定した収入が必要だった。子どもの名前はウィル。生まれつきのアルビノ(メラニン色素欠乏)で、物心つくまえに生みの母とは別れている。学者としての野心よりも、バロウズ博士はウィルを育てることを優先した。

それでもバロウズ博士は、学者として名を上げることをあきらめていなかった。あるとき、ハイフィールド博物館に「おだやかな光を放つ球体」が持ち込まれる。不思議なことに、その球体は「暗い場所ほど光り輝く」性質をそなえていた。

穴掘りが好きなアルビノの少年

14歳に成長したウィルは、学校でいじめられていた。アルビノ(先天性メラニン色素欠乏)のせいだ。白すぎる肌と白い髪だけでなく、淡いブルーの瞳を日差しから守るためにいつもサングラスをかけていた。それが生意気に映るのか、同級生たちからは「チョーク人間」などとからかわれた。

しかし、ウィルは弱い人間ではなかった。考古学者の父親ゆずりの好奇心によって、ウィルは穴を掘ることに喜びを感じていたからだ。シャベルさえあれば、父親の手伝いで何時間でも穴を掘っていられた。

チェスターという親友がいることも、ウィルにとって心強かった。同級生のなかでチェスターだけがウィルの味方をしてくれた。

ロンドンの地下には知られざる街がある

あるとき、ウィルの父親であるバロウズ博士が失踪する。残されていた書き置きには「今夜、実行する。入り口はすでに見つけてある」という記述や「名を成す最後のチャンス。わたしの出番だ!」とあった。

バロウズ博士は「暗い場所ほど光り輝く」あの不思議な球体から、まだ誰も見つけてない歴史的発見の手がかりを得たのだ。父親ゆずりの勘の良さを働かせて、ウィルは博士の地下書斎にあった隠しトンネルを見つける。野心を抑えきれなかったバロウズ博士は、球体の手がかりをもとにして地下トンネルを掘り進めて行ったようだ。

トンネルは深く、どこへつながっているかわからない。親友のチェスターと共に、ウィルは父親であるバロウズ博士を追ってトンネルの先へ行くことにした。

長いトンネルを抜けると、驚くべきことに広大な鍾乳洞があった。さらに奥深く進んだウィルとチェスターは、ロンドンの地下に誰も知らない「街」があることを知る。スティックスと呼ばれる者たちが支配する地底都市「コロニア」だった。

地底都市コロニアとウィル出生の秘密

地底都市コロニアに住んでいる人々は、チェスター(ウィルの親友)だけを「地表人」と見なした。なぜなら、日光が届かない地底で生まれたコロニア人はウィルと同じようなアルビノの外見をしているからだ。地表人であるチェスターだけがコロニア警察の監獄に収監されてしまう。

アルビノであるウィルは、じつはコロニア人の血を引いていたのだ。父親のバロウズ博士は「地表人」だが、母のサラが「コロニア人」だったことを知る。じつをいうと、サラは地表(ロンドン)へ逃亡することに成功した唯一のコロニア人だった。

地底都市コロニアでは恐怖政治による圧政がおこなわれていた。ウィルの母であるサラは、コロニア反体制派にとってのシンボルになっていた……と、ここまでが『トンネル 迷宮への扉』の半分くらいまでのあらすじだ。このほかにも紹介しきれないほど数多くの謎に満ちている。

ところで「異世界へと失踪した父親を追いかける息子」というプロットは、2016年にリメイク版が発売される名作ノベルゲーム『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』を彷彿とさせる。父親が歴史学者であることや母親がじつは異世界人であるという設定も重なる。

同じように「冒険家の父親の行方を追っていくなかで世界の秘密を知る」という物語構造をそなえているRPGソフト『Sa・Ga2 秘宝伝説』についても語り尽くしたいところだが、長くなるのでやめておく。

『YU-NO』や『Sa・Ga2 秘宝伝説』を引き合いに出して何が言いたいのかといえば、『トンネル』も同様に「父親(あるいは母親)を、追いつけそうで追いつけない存在」として描いていることだ。子どもには追いかけたくなる目標があったほうが良い。父や母には、どこか底知れないところがあるいつまでも追い越せない存在であってほしいと思う。

(文:忌川タツヤ)

トンネル 迷宮への扉(上)

著者:ロデリック・ゴードン(著) ブライアン・ウィリアムズ(著) 橋本恵(訳)
出版社:学研プラス
世界40カ国で大人気のイギリス発ノンストップ・エンタメが新訳で登場! 突然失踪した考古学者の父親を探しに、自宅の地下室で見つけた謎のトンネルに親友のチェスターと入っていく少年ウィル。暗いトンネルを抜けた先には想像も絶する世界があった!!

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