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花火大会、悲喜こもごも

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静岡出身の私にとって、子供時代、夏休みの最大のイベントは“安倍川花火大会”だった。親族が集まり安倍川の河原で飲み食いをしながら、夜空を彩る花火に歓喜の声を上げていた。

安倍川花火大会は昭和28年からはじまったものだが、その意味を教えてくれたのはお寺の住職だった。「静岡大空襲のとき、山に逃げた人々は助かりましたが、河原に逃げた人々は犠牲になったのです。打ち上げられる花火は戦没者を慰霊するものなのですよ」と。

空襲の時、12歳だった私の母は、頭から布団を被り、落ちてくる焼夷弾を避けながら必死で山へ駆け登った。私はその恐怖の体験を何度も何度も聞かされて育った。家は河原と山のちょうど中間にあったから、もし母が河原に向かっていたら、私は生まれてこられなかっただろう。

日本各地、世界各地で打ち上げられる花火には、それぞれの歴史、そして意味がある。

フランス革命記念日の花火

714日はフランス共和国の建国を祝う日だ。1789714日のバスティーユ襲撃をきっかけにはじまった市民革命はフランス全土に広がり、やがて平民による国民議会が発足、絶対王政と封建制度が崩壊した。

714日の夜にはフランス全土で花火が打ち上げられるが、この季節は日没が遅いため、どっぷり暮れるのを待つと2230分か、ところによっては23時になる。普段なら赤ちゃんや幼児は夢の中の時間帯だ。

それでも、この日だけは特別で、フランスのどの地域でも、幼児の手を引き、ベビーカーに赤ちゃんを乗せた家族連れが花火を見るために夜の町へと繰り出す。

フランスでの子育て時期、私も幼かった娘を早めに一旦寝かせて、花火大会の直前に起こして見物に出かけたものだ。

ニースのトラックテロ事件

今年の714日の夜、南仏ニースの海岸沿いの花火大会にはバカンス客、市民、そして一年に一度だけ夜更かしを許された子供たちも集まっていた。広い歩道を埋め尽くした人々は去年までと同じように夜空を見上げ、花火の美しさに酔い、幸せな気持ちのまま家やホテルに帰るはずだった。

が、そこにトラックに乗ったテロリストが突っ込んできた。人々は逃げる場も間もなく、まるでボーリングのピンのように跳ね飛ばされたそうだ。

パリ同時多発テロの時とは違い、今回は幼い犠牲者が多く出た。そこに子供がいるとわかっていながらテロを計画し実行した犯人たちには強い憤りを感じる。

祝いの花火が、このテロにより来年からは追悼の花火に変わる。それはあまりに悲しい。

片貝まつりの花火

さて、日本の花火大会に話を戻そう。

新潟県小千谷市片貝町は人口わずか5000人の小さな町だが、花火で有名なところだ。毎年99日、10日に開かれる“片貝まつり”では、2万発もの花火が打ち上げられ、見物客が20万人も集まるという。

おにいちゃんのハナビ』(西田征史・原案 小路幸也・著朝日新聞出版・刊)は、20109月に公開された映画の脚本を元に小説化されたもの。片貝町に生きた一人の少女と彼女への思いを花火に託した兄の事実に基づいた物語だ。

片貝まつりは、花火の美しさや華やかさを愛でるものではない。打ち上げられる花火はすべて奉納花火なのだ。

一発ずつ、願いを込めて打ち上げる花火。そのすべての花火を制作し打ち上げる費用を出しているのは片貝町の人たちです。入学、卒業、結婚、出産、定年退職、還暦と、人生の節目節目を祝って花火を打ち上げるのです。特に、他では滅多に観られない正三尺玉正四尺玉というとてつもなく大きな花火は、地元の片貝中学校の卒業生が節目ごとに、成人、還暦祝い、厄払いを願い、同級生で会を作って集まり、それぞれ費用を出し合って順番に上げていきます。町を離れた人たちもこの花火を上げるために、観るために、皆と共に生きている喜びを味わうために帰ってきます。片貝の町に生きる人たちにとって、花火は文字通り特別なものなのです。

(『おにいちゃんのハナビ』から引用)

おにいちゃんのハナビ

片貝まつりでは、悲しみを込めた、逝ってしまった人たちの思いを慰める花火も上がる。

これは、妹の喘息を治すために東京から片貝町に引っ越してきた一家の物語。兄は中3の夏に片貝中学校に転校したものの町にも学校にもなじめず、引きこもりになってしまう。いっぽうの妹は都会を離れ、喘息はよくなったものの白血病に冒されてしまう。しかし、妹は持ち前の明るさで兄を引きこもりから救い再生へと導くが、そのとき、すでに彼女は余命いくばくもなかった。

花火に思いを託した妹のために、兄は自分の手で花火を作り、打ち上げることを決意する。

片貝の夜空に上がる悲しくも美しい供養の花火。泣ける一冊だ。

(文:沼口祐子)

おにいちゃんのハナビ

著者:西田征史、小路幸也
出版社:朝日新聞出版
16歳の華が入院生活を終え自宅に戻ると、19歳の兄・太郎は「引きこもり」になっていた。兄を立ち直らせるため、華は無理矢理に新聞配達のアルバイトを始めさせる。太郎は心を開き始めるが、華の病は再発し帰らぬ人に。華が語った、新潟県小千谷市の花火大会「片貝まつり」への“思い”を胸に、太郎は花火作りを始める。実話を基にした感動作を、「東京バンドワゴン」シリーズで注目を集める著者が完全にノベライズ。

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