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昭和20年の日本。7階建ての巨大アパートが完成した場所はどこ?

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第二次世界大戦末期、昭和20年。日本は深刻な物資不足に見舞われていた。不足していたのは食料だけではない。日本は資源がない国だ。輸入に頼っており、軍艦や戦闘機の材料だった鉄の不足は想像を超えるものであった。そのため、鉄筋の替わりに“竹”を用いた、その名も“竹筋コンクリート造り”なる建築が造られている。国民の生活は崩壊していたといっていい。

そんな困窮した状況下にあって、例外的に、鉄筋コンクリート造りの建築が完成した場所がある。しかも、地上7階建ての高層アパートだ。そんなゴージャスな建築が建てられた場所はいったいどこだろう?

建設されたのは三大都市ではない!

そんな高層アパートに住んだ人たちは、どんな人なのだろうか。有名な軍人? ひょっとして、天皇陛下? まったく違う。なんと、ごく一般的な日本国民なのだ。

では、建設された場所はどこだろう。東京? 大阪? もしくは名古屋? ぜんぶハズレ。正解は、長崎県にある端島、通称「軍艦島」である。

「軍艦島」には昭和20年、「報国寮」という名称の地上7階建てのアパートが完成している(後に9階建てに増築された)。戦前には、東京にも高層アパートなどほとんど建設されておらず、極めて珍しい存在だったといえる。これほどの破格の建物が造られたのは島から豊富に採れる石炭にあった。軍需物資として不可欠なものだったのである。日本を支える存在として、「軍艦島」は特別扱いされていたのだ。

近未来都市

「報国寮」だけで驚いてはいけない。「軍艦島」には、大正5年に地上4階建て(後に7階建てに増築)のアパートが完成しているが、これは日本初の鉄筋コンクリート造りのアパートなのだ。その外観は、現在の我々の住む集合住宅と比較してもほとんど差がないどころか、私がかつて暮らしていたボロアパートよりもはるかに上質に見える。

もともとは、狭い島のなかに多くの住民を住まわせるための苦肉の策として提案されたのだが、当時としては圧倒的に先進的な生活であったことは間違いない。

一般的に、アパートやマンションが都市生活に普及し始めたのは昭和30~40年ごろとされている。軍艦島は海上の近未来都市といっていいものだった。そして住人は、東京をはるかに凌ぐ、時代の先をゆく生活を送っていたのだ。

炭鉱の暮らしは豊かだった

「軍艦島」に限ったことではない。あの北海道の「夕張」も炭鉱の利益で潤って、街は活気に溢れていた。当時の炭鉱の労働者は確かに肉体労働で、ブラックな処遇もあったと思う。しかし、そのぶん演芸場などの娯楽施設は整備されていたし、各家々に電気が通るなど、充実した生活ができる環境があったのである。

ちなみに「軍艦島」にも、映画館、パチンコ屋、スナック、郵便局、お寺まであらゆるものが揃っていた。島の中心にある“端島銀座”には定期的に行商が訪れ、生活用品はすべて揃えることができたという。島のなかですべての生活が完結するようになっていたのだ。

地上の楽園もいつかは滅びる

ワンダーJAPAN Collection 軍艦島と世界遺産』(三才ブックス・刊)は、「軍艦島」の現在の写真がたくさん掲載されている。ページをめくると、多くの住民が暮らした「報国寮」も廃墟と化し、鉄筋がむき出しになってしまっていることがわかる。崩壊するのも時間の問題だという。

最盛期の昭和35年には5,267人が生活し、東京よりも人口密度が高かったという、地上の楽園であった「軍艦島」。まさか閉山に陥るとは、当時の住民たちは思いもしなかったのではないだろうか。閉山は昭和49年のこと。エネルギーの転換によって、石炭が必要とされなくなったことがきっかけだった。文明は急速に進歩していくが、その一方で急速に衰退してしまうものもある。

現在、繁栄を誇っている大都市も、いつかは滅びるかもしれない。世界遺産にも登録された「軍艦島」は、文明の儚さを私たちに教えてくれる存在なのだ。

(文:元城健)

ワンダーJAPAN Collection 軍艦島と世界遺産

著者:三才ブックス
出版社:三才ブックス
巨大工場や地下空間、廃墟、珍寺・大仏、B級スポット、不思議な宗教建築、赤線跡など日本の《異空間》を紹介し続ける日本で唯一の雑誌「ワンダーJAPAN」。写真が大きくて見応えたっぷりなあのワンダーJAPANが創刊10周年を記念してCollectionシリーズとして復活。今年は廃墟ファン・建築ファンの聖地・軍艦島が、世界文化遺産に登録されたこともあり、軍艦島を大々的に特集した3号を中心に、東北3大鉱山、奔別炭鉱、赤平炭鉱、曽木発電所跡など日本各地のワンダーな産業遺産で再構成しています。もちろん、軍艦島の空撮画像や、今回同時に世界遺産に登録された三池炭鉱(宮原坑&万田坑)や高島炭鉱、ジャイアントカンチレバークレーン、小菅修船場跡、韮山反射炉など新たに取材した魅力的な産業遺産も掲載。

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