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欧米人の憧れの土地、南仏プロヴァンスの魅力

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夏のバカンスシーズンがやってきた! 

英国のEU離脱が国民投票で決まろうが、今後EU内での混乱が予想されようが、7月半ばから8月にかけて、ヨーロッパの庶民たちは、いかにバカンスを楽しく過ごすかということしか、たぶん考えていない。

イギリス人も、北欧の人も、ドイツ人も、オランダ人も、そしてパリジャンやパリジェンヌたちも、太陽がいっぱいの南仏のプロヴァンスやコートダジュールを目指し、高速道路の大渋滞もなんのそので南へ南へと車を走らせるのだ。

ブラピもジョニデも南仏好き

南仏に憧れるのはアメリカ人も同じで、それは望郷の念にも似た思いがあるようだ。

ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが南仏プロヴァンスのシャトー・ミラヴァルを60億円で買い取って別荘とし、結婚式を挙げたのもこの地だった。彼らが所有する葡萄畑で採れた葡萄で作られたワイン、シャトー・ミラヴァル・コート・ド・プロヴァンス・ロゼは一躍有名になった。

また、ジョニー・デップが長年のパートナーだったヴァネッサ・パラディとかつて暮らしていた豪邸も南仏のサントロペ近郊のル・プラン・ド・ラ・トゥールという村だった。

ふりそそぐ暖かな太陽の光、目の前に広がる葡萄園ののどかな風景、そしてその土地でとれたおいしい食べ物などなどが、都会人を魅了してやまないのだろう。

バブル期の癒し本

日本のバブル期の真っ只中の1989年、イギリスで出版された南仏本が世界的なベストセラーになった。

南仏プロヴァンスの12か月』(ピーター・メイル・著、池央耿・訳/河出書房新社・刊)の日本語訳が発売されると、私はすぐに都内の書店に走り、その日のうちに一気に読んだ。読んでいるだけで癒されるので、二度も三度も読み返し、プロヴァンスにハマッていったのだ。

著者のピーター・メイルはロンドン生まれ。広告業界に入り、コピーライターとして活躍していた。バカンスで南仏を何度も訪れていたメイル夫妻は、ある日、中世の村メネルブとボニューを結ぶ街道を見下ろす丘陵に築200年の石造りの家を見つけた。そして1986年にイギリスを脱出し、南仏プロヴァンス移住を果たした。

私たちは家を買い、フランス語を習い、親類や友人知人の別れを告げ、二匹の飼い犬を別口の飛行機で送り出して異邦人になった。躊躇も何もあらばこそ、ほとんど衝動的にことを運んだのは家のせいだった。私たちがその家を見つけたのは、ある日の午後のことだったが、夕食の頃には早くも気持ちが先に引越しを済ませてしまっていた。

(『南仏プロヴァンスの12か月』から引用)

本書は1989年度イギリス紀行文学賞を受賞し、その後、BBCがテレビドラマ化し、日本でもNHKで放送された。私はドラマもビデオに録画して何度も観て「あぁ、南仏の豊かな暮らし、いいなぁ」と東京の狭いアパートの部屋で呟いていたのだ。

田舎の人々との触れ合いがおもしろい

田舎暮らしの中では、近所付き合いが大きな意味をもつ。隣同士、お互いが生活の一部だとピーター・メイルは書いている。この本ではプロヴァンスの四季を通じての風景や人々の暮らし、行事などを紹介しているが、いちばんおもしろいのは登場するプロヴァンスの人々との触れ合いだ。隣人にしてメイル家の葡萄園を管理する農夫のフォースタンとその妻のアンリエット、鉛管工のムッシュ・メニクーシ、村の変わり者のマッソー、そしてカフェやレストランの主人たち、それぞれのやりとりはどれも痛快だ。

キスに戸惑うイギリス人、日本人

相手の体に触れて親愛の情を表わすプロヴァンス流の挨拶に馴れるには私自身、多少時間がかかった。

(『南仏プロヴァンスの12か月』から引用)

プロヴァンスだけでなくフランスでは挨拶にキスをする習慣があり、これには私たち日本人だけでなく、イギリス人もドイツ人も戸惑うようだ。互いのほっぺたをくっつけて、唇は付けずに音だけで「チュッ」とする。これはBISOU(ビズー)と呼ばれ、家族でも毎朝毎晩する習慣があるのだ。

挨拶のビズーはパリなどの都会では両頬の2回だが、ピーター・メイルによるとプロヴァンスでは左右左の3回、しかも男同士でもするので最初は面食らったそうだ。

フランスで暮らしていた時、日本の女子留学生が「ホームステイ先の主人からセクハラ行為を受けた」と聞かされたことが何度もあったが、そのほとんどがこの親愛の情を込めたビズーだったのは言うまでもない。

おいしいパンとトマトとオリーブ油

さて、南仏の魅力は気候や風土だけでなく、おいしい食べ物が豊富にあることも大きい。それは南仏だけではないけれど、フランスのパンはたぶん世界のどこよりもおいしいのではないかと思う。焼きたてのバゲットや田舎パンの素朴な味は格別で一度食べたら忘れられないものとなる。

長年パンには特別の関心を払わず、どこで買おうと似たようなものだと思ってきた私たちにとって、これはまさに新しい食品の発見だった。

(『南仏プロヴァンスの12か月』から引用)

そして南仏ではとびきりおいしい香り豊かなオリーブ油があり、真っ赤な枝付きトマトがマルシェに山積みになっている。

パンに新鮮なトマトをのせ、オリーブ油を垂らして試食した。口中に輝く太陽の味が広がった。

(『南仏プロヴァンスの12か月』から引用)

ああ、おいしいそう! 気持ちだけでもすぐに南仏に飛んで行きたい!

(文:沼口祐子)

南仏プロヴァンスの12か月

著者:ピーター・メイル(著) 池央耿(訳)
出版社:河出書房新社
オリーブが繁り、ラヴェンダーが薫る豊かな自然。多彩な料理とワインに恵まれた食文化。
素朴で個性的な人々との交流。本当の生活、生きる歓びを求めてロンドンを引き払い、
プロヴァンスに移り住んだ元広告マンが綴る珠玉のエッセイ。
BBCがTVドラマ化し、NHKでも放送されて話題を呼んだ、世界的ベストセラー。一九八九年度イギリス紀行文学賞受賞。

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