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今こそ考えたい、「日本人は人を殺しに行くのか」という問いかけ

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日本人2人が「イスラム国」による極めて陰惨な手口で命を奪われてから、未だ全貌を掴ませようとしない謎めいた組織への憤怒と恐怖が渦巻いています。2人が殺害された後、「イスラム国」の支配地域であるシリアに入国しようとしたフリーカメラマンに対し、外務省がパスポートの返納命令を出し、国外に出られない措置を取りました。

パスポートの返納命令は妥当だったのか

シリアが置かれている状況を考えれば当然の措置である、とする論調が目立ちますが、現行憲法では第22条で「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」と規定されており、これまではこの条項を根拠に、海外渡航の自由が認められてきました。ジャーナリスト勢は、このように政府の権限で取材場所が制限されるような事態があってはならない、と懸念を表明していますが、世間の賛同は得られていません。

「イスラム国」での忌まわしい事件の後、一部のメディアや政権が、どうにも強硬な姿勢を好むようになってきています。メディアの例として代表的なのは、2月7日の産經新聞『産經抄』です。「仇をとってやらねばならぬ、というのは人間としての当たり前の話である」と直接的に報復を促しています。そして政権内では、自民党・高村正彦副総裁が後藤健二さんについて「3度にわたる日本政府の警告にもかかわらず、テロリスト支配地域に入ったのは、真の勇気ではなく、蛮勇と言わざるを得ない」と述べました。「蛮勇」は大辞林によれば「周囲への配慮をも捨てて、事をなす乱暴な大胆さ」と説明されていますから、政権側から、亡くなった人の行動に対して苦言を呈す発言が出たことになります。

「最終的な責任は本人にある」が83%

読売新聞は、ある世論調査を行いました。今回のように、危険とされる場所へ渡航しテロや事件に巻き込まれた場合、「『最終的な責任は本人にある』とする意見についてどう思うか」を問うたところ、「その通りだ」が83%となり、「そうは思わない」の11%を大きく上回ったといいます。しかし、よくよく考えると、そもそもの質問が「どちらだと思う?」ではなく、「こう言われているけれど、どう思う?」と、明らかな誘導尋問になっています。よほどの反対意見を持っている人でなければ、「そうは思わない」とは答えないでしょう。

日本以外の国が攻撃されても武力行使できるように

首相は今回の事件を受けて、海外で邦人が危害を加えられる可能性がある場合に、自衛隊を派遣できるようにするための法改正について言及しました。今回の事件がまだ膠着状態にあった段階での発言です。大手メディアの多くは、どうしてだかこの発言を積極的に報じませんでした。昨年7月の集団的自衛権行使を可能にする憲法解釈で、「新3要件」が提示されました。日本ではなく、日本と密接な関係にある他国が攻撃された場合でも、「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由と幸福の追求権が根底から覆される明白な危険がある」「日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない」「必要最小限の実力行使にとどまる」を満たしていれば、武力行使できるようになりました。しかしこの新3要件、改めて読んでいただければ分かりますが、とても抽象的な言葉ばかりが並び、その時々のトップがどのような判断を下すかわからない規定になっています。

日本人は人を殺しに行くのか?

昨年の集団的自衛権の閣議決定をふまえて刊行された、伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』は、とても刺激的なタイトルですが、今回のような事件を経て、自衛隊の紛争地域への派遣に具体的に踏み込もうとし始めている現在では、刺激的というよりも現実的な示唆に思えてしまいます。本書では、「戦地には行かない」という定義がいかに曖昧かが指摘されています。例えば南スーダンのPKOには、2012年1月から陸上自衛隊が派遣されていますが、ここでは2013年12月に政府軍に対して反政府軍がクーデターを起こすという事件がありました。国連PKOは、本来の「国づくり支援」から「住民の保護」の活動に重点を移すとし、より危うい現場に晒されることとなりました。しかし、日本は自衛隊を撤退させることはありませんでした。「撤退すると、住民を見捨てたものとみなされ、『人道上、卑怯な行い』とされる風潮」があるからだそう。

これと、昨年の閣議決定で決まった「『積極的平和主義』の立場から、国際社会の平和と安定のために、自衛隊が幅広い支援活動で十分に役割を果たすことができるようにすることが必要である」とされたことはリンクします。そして、今回の事件を経た上での現政権の振る舞いを見ていると、昨年、著者がおそらく少し刺激を強めに、という意識で投じたであろう書籍のタイトルが、より切実な問題として迫ってきていると言わざるを得ないのです。

(文:武田砂鉄)

日本人は人を殺しに行くのか

著者:伊勢崎賢治
出版社:朝日新聞出版
「9条」も「日米同盟」も現場では役に立たない! 国連PKO上級幹部としてアフガニスタンなど紛争地の武装解除を指揮した著者による、フラットに考える「1冊でまるわかりの集団的自衛権入門」の本。

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