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亡き夫(息子)の実家を出ていかない嫁。どう思いますか?

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寺山徹子さんは、寺山連太郎さんと共同生活を送っている。名字は同じ「寺山」であるけれど、ふたりに血縁関係はない。

連太郎さんは、徹子さんの義父にあたる人物だ。徹子さんの夫はいない。死別したからだ。連太郎さんも妻を亡くしている。つまり、おなじ屋根の下で寝起きしているのは、徹子さんと連太郎さんのふたりだけ。

徹子さんは28歳だ。まだ若い。子どもがいるわけでもない。それなのに、亡き夫の実家に住み続けている。

義父と嫁のふたり暮らし。ちょっと変じゃないだろうか。あなたはどう思いますか?

常識では考えられない

「夫が亡くなったあと、子がいなければ、ふつうは出て行くもの」と考えるのは、前時代的すぎるだろうか。

徹子さんが夫と死別したのは21歳のときだ。いくらでも人生をやり直せる年齢だ。子どもがいるわけでもない。たとえ「愛していた人のことを忘れたくないから」という理由だったとしても、義父と一緒に暮らすことはないと思う。7年間も。常識では考えられない。ご近所で変なウワサが広まってもおかしくない。

もっとも不可解なのは、徹子さんに恋人がいることだ。義父も知っている。それなのに徹子さんは亡き夫の実家に住み続けている。ますますわからなくなる。

大切な人が死別した後のこと

夫の実家から出ていかない嫁。実話ではない。徹子さんは小説の登場人物だ。

テツコの夫、一樹が亡くなったのは七年前で、その後も、ギフとテツコは同じ屋根の下で、働いては食べ、食べては眠ってと、ただただ日々を送ってきた。

最初に割り振りされたはずの立場や役割は、今やすっかり忘れ去られている。なぜ一緒にここにいるのかという理由も、暮らしているうちに曖昧になりつつあった。

(『昨夜のカレー、明日のパン』から引用)

昨夜のカレー、明日のパン』(木皿泉・著/河出書房新社・刊)は、死別したあとに残された者たちの生活を描いている。奇妙な7年間の共同生活は、死別を乗り越えられないふたりの「停滞」をあらわしている。

「義父と嫁のふたり暮らし」はいつまで続くのか

はたから見れば「停滞」かもしれない。夫を亡くした妻。ひとり息子を亡くした父親。一樹の死後ふたりが選択したのは「大事な人がいた場所にずっと居続ける」ことだった。ふたりが住んでいる築80年の庭つき木造家屋の居心地の良さも捨てがたかった。

あるとき、テツコは恋人から「そろそろ結婚しないか」と迫られる。

なぜ岩井さんは、自分と結婚するものだと思い込んでしまったのだろう。テツコは、そのことに無性に腹が立った。そんなふうに思われないよう、かなり気をつけてきたつもりだったからだ。

(『昨夜のカレー、明日のパン』から引用)

「停滞」を望んでいたテツコにとって、恋人は欲しくても、家族が欲しいわけではなかった。かなり複雑だ。恋人から「ヘンだよ、死んだ夫の父親とふたりで暮らしてるなんて、人にヘンに思われるって」と言われて、テツコはちょっと機嫌が悪くなる。

このあと小説本編では、ゆっくり時間をかけてテツコが「停滞」から抜け出していくさまが描かれる。やっぱり「義父と嫁のふたり暮らし」は変なのだ。

姑がヨメに「出て行かないでくれ」と懇願した話

わたしは、20代の未亡人が50代の義父とふたりだけで暮らすという「テツコとギフ」のような実例はまったく聞いたことがない。死別ではないけれど、わたしの母が離婚したときに一悶着あったエピソードを紹介する。

義母つまり「お姑さん」はイジワルな人だった。母は後妻だったので、わたしだけではなく、相手の連れ子の世話もしなければいけなかった。商家だったのでそちらの仕事もあった。とにかく苦労した。

結婚生活が25年をすぎたあたりで離婚することになった。原因は、旦那(母の夫だが、わたしの父ではない)の不貞だった。常習犯だった。さすがの母も堪忍袋の緒が切れたらしい。

家族を集めた場で、母は「けがらわしい。この家から出ていく」と宣言した。すると、あれほど母をイジメ抜いていたはずのお姑さんが必死の形相で言ったらしい。「離婚するのは仕方がないが、頼むから出て行かないでくれ」と。これほど頼りにされている場合ならば、たとえ夫と死別したあとにも義父や義母との共同生活はありうる。

わたしの母は献身的な嫁だった。もはや前妻の評価を上回っており、お姑さんにとって居なくてはならない存在だった。そのときの様子を、母は「ざまあみろと思った」と笑顔で語っていた。

(文:忌川タツヤ)

昨夜のカレー、明日のパン

著者:木皿泉
出版社:河出書房新社
若くして死んだ一樹の嫁と義父は、共に暮らしながらゆるゆるその死を受け入れていく。本屋大賞第2位、ドラマ化された人気夫婦脚本家の言葉が詰まった話題の感動作。書き下ろし短編収録!文庫版解説=重松清。

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