ハウツーが満載のコラム
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風邪の友でもあり、読むロールプレイングでもある

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今は亡き伯父は、季節の変わり目になると、必ず言った。
「流感になったら電話をしなさい。どんなに朝、早くても、真夜中でもかまわないから、遠慮せずに言うんだよ」、と。
せっかくの親切な言葉だったのに、私はあまりちゃんと聞いていなかった。まだ若く、毎日が楽しく、風邪なんてひいている暇なんかないものと、思っていた。それに、たとえ風邪をひいても、電話をするのは伯父ではなくボーイフレンドにしたいもんだと思っていたのだ。

えらそうなことを言ってはいたが

大学2年生になった頃、ちょっと寒いなと思い、次に暑いなと思ったら、どかんとばかりに熱が出たことがある。
困ったときの伯父頼みというわけで、私は下宿から電話をした。「伯父様、風邪ひいたら連絡しろとおっしゃったでしょ。私、風邪、ひいたの。熱があって、どうしたらいい?」
すると伯父は待ってましたといわんばかりに、ロウ紙で大事に包んだ小包を郵便で送ってきた。
何か特別の漢方薬かといそいそとあけると、中身は本が2冊だった。1冊は題名を忘れてしまったが、インドの虎狩りの話で、もう1冊は黒岩涙香の『幽霊塔』だ。大正期に出版されたもので、達筆すぎて判読できないような手紙も入っていた。どうやら「これで治癒せよ。お大事に」ということらしかった。
こんなんで治るのか?
私としては白桃の缶詰とか期待してたのだが・・・。

風邪の友

下宿のベッドに潜り込み、水だけ飲んでフウフウ言いながら、本を読みふけっているうち、確かに熱が下がっていった。読書に夢中になることが、風邪を撃退するらしい。
『虎狩り』も『幽霊塔』もめっぽう面白かった。
しばらくすると、伯父から電話があり、「風邪はどうだ?治ったか?ああ、よかった。今度は、俺が流感だ。虎の方だけ返してくれ」と、はぁはぁしながら言うではないか。
なぜか『幽霊塔』は「そのまま持ってろ」というので、我が家には今も流感時に読むための『幽霊塔』が保管してある。

『The LOCK』、その新鮮さ

ところで、今、この瞬間、私はひどい風邪をひき、フウフウ言っている。
最近、ずっと元気で飛び回っていたというのに、突如、39度も熱が出たのだ。今までなら「へへへ、流感用の本を読んで布団に埋没・・・」と、行きたいところだが、私も大人である。締め切りもあるし、夫もいる。
伯父に本をねだっていた娘時代が懐かしい。
解熱剤で無理矢理、平熱を得た私は、『The LOCK ぼくたちが”世界”を変える日』(ピエルドメニコ・バッカラリオ・著/学研プラス・刊)を読み始めた。
そして、熱くなった。また熱が出てきたかと思ったほどだ。
今までなじみがなかった物語世界が広がっていて、ひどく新鮮なのだ。

私の知らない物語の始まり

そもそも最初から、私にはしたくてもできない、書きたくても書けないような事件が勃発する。
物語は、主人公の一人であるピット・サマーが、担任のナディア先生の携帯をハッキングしてよびだされるところから始まる。
ハッキングですって?
先生の携帯を?
言うに事欠いて、退屈だからやってみただなんて。
だめでしょ?そんなことするなんて許されないでしょ。
私は頭を抱えないではいられない。
私にはハッキングなんて芸当はできず、先生には逆らえず、そして人生に退屈していない。

近くにいるでしょう?こういう男の子・・・

まして、夏休みが始まる日だ。
若者ならワクワクして当然でしょう?
けれども、ピットの心はうつろだ。

誰かを信じるなんて、意味がない。

(『The LOCK』より抜粋)

家に帰っても、誰もいない。
両親は仕事をもって充実した暮らしをしており、やる気のない息子に関心はない。ピット自身もそれに不満があるわけではなく、ただただ「面倒くさいな~~、生きるのってよ」て感じ。
あなたの周囲にもいませんか?
こういう男の子。

新しい世界への誘い

そこへ届いた1枚の招待状。

世界を変えるのは、あなた。勇気を試せ。

(『The LOCK』より抜粋)

ピットはそれまで勇気とかやる気には無縁の男の子だった。
知るかよそんなこと。それが彼の人生すべてに対する反応だった。
しかし、ピットは前進する。退屈しのぎだと、自分に言い訳をしながらも、やはり彼も、今とは違う世界を求め、新しい友達を渇望していたのだろう。

風邪を忘れる力があるみたい

いったん、始まってしまった旅である。後戻りは許されない。
私も風邪など忘れて、グングン読んだ。
随所にちりばめられている謎解きと,突如出現するイラストにびっくりしているうち、エンディングとなった。
もっとも『The LOCK ぼくたちが”世界”を変える日①仕かけらえたなぞ』は、シリーズの1巻目であり、2巻目の『The LOCK ②洞窟にひそむ物体』へと物語は続いていく。
きっとこれかさらに波瀾万丈な物語となるのだろう。
巻末にはピットを筆頭に10人の勇者たちの説明とイラストがあるので、この先の物語の展開を想像したり、お気に入りのキャラクターを見つけるのも楽しい。
次に風邪をひくのを待ってはいられないので、私は、早速2巻目も読んでみたいと思っている。

(三浦暁子)

THE LOCK ぼくたちが”世界”を変える日 1

著者:ピエルドメニコ・バッカラリオ
出版社:学研プラス
イタリア×学研の共同制作!謎の招待状によって、とある村へ集められた、10人の子どもたち。世界の存亡をかけたゲームが、今、始まる。大人気イタリア人作家が日本の読者へ贈る、スリル満点の謎解き冒険ミステリー!

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