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できる! 40代からはじめる警備員アルバイト生活

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思いがけぬ失業が避けられない世の中になってきた。明日は我が身。30代ましてや40代以降で職を失った場合、ふたたび正規雇用にありつくのは困難をきわめる。だが悩んでばかりはいられない。食うためにカネを稼がなければ。

そんな時には、警備員アルバイトがおすすめだ。
警備業界はつねに人員が不足している。ほかの業種にくらべて年齢制限は無きにひとしい。まさに狙い目といえる。

警備員アルバイトのくわしい体験談がある。
その名は『警備員日記』。やむにやまれぬ事情で2年間の警備員アルバイトを体験したノンフィクション作家が書いた自伝的小説だ。

採用のハードルは低い

パソコンやスマホを使って「希望地域名 アルバイト 警備員」というキーワードでネット検索すれば、すぐに見つかる。職業安定所(ハローワーク)経由で申し込んでもいい。

日給などの条件をチェックして、いざ応募。連絡がとれたら、履歴書を持参して面接にのぞむ。健康体であれば、たいてい採用される。

採用後、すぐに働けるわけではない。たかがアルバイトといえども、警備業法により「30時間の法定研修」が義務付けられている。昼には弁当が支給され、四日間で2万5千円の日当が発生する。

事業者にもよるが、その中から「装備費」の名目で天引きされることがある。上下の制服・ベルト・夜光チョッキ・ヘルメット・靴・腕章・誘導灯などが支給されるかわりに、1万円が差し引かれていたという。ただし退職時に返してもらえるというから、あこぎとはいえない。

研修はこれが最後ではない。半期に1回、かならず「現任教育」というものを受講しなければ警備員を続けられない。内容は、初めにおこなった「法定研修」と同じ。

普通じゃない同僚たち

「警備会社で働くのが子供のころからの夢だった」という人は、ほとんどいない。ほかの職業にくらべて給与が高いわけではなく、肉体的にも精神的にもキツい仕事なので「やむにやまれぬ事情」で働いているワケありの人が多い。

会社が倒産した元事務職の45歳男性。既婚者で、大学生と高校生の子供をかかえており、あと10年残っている住宅ローンを返済するために警備員を選んだ。

国立大学を卒業したあと市役所に就職。病気になってしまい公務員を続けられなくなり、妻とも離婚した。流れ流れて警備員になった40歳男性。

40代以降の人は、借金がらみの場合が少なくないようだ。

「師匠」と出会う

借金返済のためだけに働いて寝てまた働くを繰りかえす日々。温厚な性格だった人も、つくづくイヤになって人格が変容していく。

警備業には4種類ある。そのなかでも「2号警備」の現場がもっとも過酷かもしれない。「雑踏警備」や「交通警備」と呼ばれるもので、とくに後者は重機や大型車両の差配をおこなうものだから緊張と危険をともなう。心身ともにクタクタになり、心がすさんでいく。

勤めが長く続きやすい条件のひとつに「信頼できる仲間の存在」がある。働きはじめて1ヶ月もたたないうちにもう辞めようかと思いはじめたとき、著者は幸運にも「師匠」に出会う。

なにもかも他のやつらとは異なっていた。ほとんどの同僚が不健康な顔つきをしているなか、師匠は「まるで太陽と潮風にさらされて作り上げられた漁師の面貌のよう」だったという。

師匠は「きづかい」の人だ。集合時間よりもすこしだけ早く着いて、トイレの場所や昼食でつかえそうな店をリサーチしておく。それらの情報を、ほかの隊員に惜しげもなく教えてくれる。

交錯するヘッドライトの光芒を受けて、西崎の夜光チョッキが光っている。チョッキの黄と点滅する誘導灯の赤が、前後左右に細かく軽やかに動いて、押し寄せる黒い塊を導き、あしらっているようだった。その滑るような動きは、練達の踊り手が舞うのに似て、見る者に心地よさを覚えさせた。
(『警備員日記』から引用)

いかがだろうか、この描写は。
引用中の西崎というのは「師匠」の本名だ。オッサンがオッサンの働くすがたを眺めてこれほど感傷的になるのだから、よほど感銘を受けたにちがいない。男が男に「惚れた」瞬間ともいえる。

「師匠」のおかげで、著者は2年3ヶ月(295回)の勤務をやりとげることができた。

まとめ

著者の手塚正己(てづか・まさみ)さんは、元はといえば映像業界で働いていた。独立後の1991年に映画『軍艦武藏』を制作したのち、それに飽きたらず、大著のノンフィクション『軍艦武藏』(新潮社)を出版して作家デビューをはたす。

あるとき手塚さんが経営していた製作プロダクションが倒産してしまい、追い打ちをかけるように離婚を経験した。すでに執筆依頼はあったものの、完成させてから印税を受け取るまでには時間差が生じる。生活費を稼がなければいけない。

そのような事情により、手塚さんは未経験だった警備業界で四苦八苦しながら、2年以上の歳月をかけて『凌ぐ波濤 海上自衛隊をつくった男たち』という本を書いた。前述の『軍艦武藏』とおなじく骨太のノンフィクションとして読者から高い評価を受けている。

『警備員日記』は、手塚さんの実体験をもとに書かれたものだ。さすが作家が手がけているだけあって取材が行き届いており、トラックを誘導するときの手順など細部の描写にもこだわりがある。警備員アルバイトに興味がある人は、読んでおいても損はない。働きはじめてから「こんなはずではなかった」と泣かないためにも。

(文:忌川タツヤ)

警備員日記

著者:手塚正己(著)
出版社:太田出版
私は生活費を稼ぐため警備員になった。作家と警備員の二足のわらじを覆きながら、慣れない仕事に悪戦苦闘の日々が続く。どこか常識の欠落した警備の仲間たちに振り回され、仕事を辞めようかという矢先、私の前に「師匠」が現れた。警備員の織りなす奇妙奇天烈な群像劇。傑作「軍艦武蔵」の著者が、実体験をもとに書き下ろした警備員小説。

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