ハウツーが満載のコラム
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木を知ると、世界が広がる

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気づいたときは、藤の花が好きだった。
庭に藤棚があり、長い花の房が揺れている・・・。というような、優雅な環境で育ったわけではない。
私が育ったのは団地形式の社宅で、庭にはツツジがいっぱい植えてあった。
それはそれで綺麗だとは思ったが、特にツツジが好きだとは思わなかった。
ただひたすらに藤が好きで、お花見といえば、桜なんかいいから、藤を見に行きたいと言っては、両親を困らせた。

神秘的な藤の美しさ

父が転勤が多い職場だったので、新しい社宅に引っ越すと、あちこちほっつき歩いてめざとく藤棚を見つけ、見逃すことのないように注意しながら、開花を待った。
藤というのは、花をつける前はただの茶色い枯れた木に見えるから、ぼやぼやしていると、見逃してしまうのだ。
ある日、いきなり、たわわに咲く、それが私の藤への印象だ。
突如として絢爛たる花をつけるとしか思えないので、よけいに神秘的に思った。
その綺麗さにうっとりしながらも、どこか怖い。油断できないなという感じがする。

神戸に越してきたものの

32年前、私は今も住んでいる神戸のマンションに引っ越して来た。
山にへばりつくように建っているので、ベランダに出ると、正面には遠く海が見渡せ、振り向けば裏は山だ。
東京のゴミゴミした町で育った私にとっては、初めて暮らす緑豊かな場所で、「何だか保養所みたい」と言いつつ、喜んでいた。
それなのに、引っ越し荷物が片付く前に、私はベランダでため息ばかりつくようになった。新しい環境になじめなかったのだ。
夫は新しい職場に夢中だったし、息子は外で楽しそうに遊んでいた。
それはそれで結構なことだとわかってはいたが、私一人が家に取り残されているようで、寂しかった。

裏山が藤色に

そのとき、私は知らなかった。
裏山には、藤が野生化していることを。他の常緑樹に取り紛れて気づかなかったのだ。
大好きな藤が、そこにあると知っていたら、もう少し元気に引っ越しの片付けをしたであろうに。
引っ越しをしてから一ヶ月後、相変わらずため息をつきながら、洗濯物を干しているとき、何気なく裏山を振り返った私は、言葉を失った。
いつもの山が藤色に染まっている。
一夜にして、藤が満開になったように見えた。

藤は『古事記』にも載っていた!

以来、裏山には、私の藤があると勝手に思って生きて来た。
冬の間も、目をこらせば、そこに藤のツルがあるのがわかる。
私はただ春を待てばいい。
こうして、私には私の藤がある、などと、偉そうに言ってはいるが、ただ好きなだけで、藤について何の知識もないことに、『知っておきたい100の木』(田中潔・文&写真/主婦の友社・刊)を読んで、気づいた。
藤は、『古事記』にも記さているという。繊維植物で、マメ科に属する。さらには

「日本産のフジにはノダフジとヤマフジの2種類がある。つるがS巻きなのがノダフジ、ヤマフジはZ巻き」

「フジの実がはじけるとき、秒速10メートル以上。莢が乾燥してねじれることにより、その力が生じるのだが、一見、枯れているような豆の莢に、それほどの原動力が潜んでいる」

(『知っておきたい100の木より引用』)

いずれも今まで知らなかったことだ。
そう言われてみると、真冬、あたりがシーンとしているとき、山からバキッと謎の音がして、何かが落ちてきていたような気がする。
あれは藤の莢がはじけていたのかもしれない。

とりあえずは100種に触れてみたい

著者・田中潔は長い間、森林行政と樹木の研究に携わってきた方だ。
日本で生育する樹木は、外国産まで含めれば、軽く1000種を越すと言うが、著者は樹木を好きになってもらいたいという願いをこめて100種を選び、以下の8種類に分類して記している。

1祈りの木(クロマツ、ユズリハ、ミズキ、サカキなど)
2匠を支える木(アオダモ、ツバキ、ツゲ、サワラなど)
3薬になる木(チャ、アオキ、ハゼノキ、ムクロジなど)
4食を支える木(カキ、クリ、ザクロ、ウメなど)
5布や紙になる木(コウゾ、ミツマタ、フジ、シナノキ)
6建築材料になる木(ヒノキ、スギ、エゾマツ、カラマツなど)
7街路樹になる木(スズカケノキ、セイヨウハコヤナギ、ソメイヨシノ、シダレヤナギノキなど)
8庭園樹になる木(イロハカエデ、サザンカ、ジンチョウゲ、アジサイなど)

花に酔い、樹木に酔う

野山に出かけるとき、この 『知っておきたい100の木』を持っていくと、景色が違って見えることだろう。
恋人や家族に説明することもできる。
せっかく樹木豊かな日本に住んでいるのだから、もう少し知識を身につけたいと思う。
藤が好きだ好きだと言いながら、私が知っていたのは、藤の花だけだったことにも気づいた。
樹木としての藤はもっと深いものだったのに。
藤の花言葉は「至福のとき、恋に酔う」だそうだ。
花だけではなく、樹木そのものを知れば、さらなる至福の時を過ごし、恋に酔うとはどんなことかを感じることができるだろう。
あぁ、やっぱり、藤って、色っぽくて、複雑で、いいな~~と思う。

(三浦暁子)

知っておきたい100の木

著者:田中潔
出版社:主婦の友社
シイ、カシ、ブナ、ケヤキなど、意外と知らない「木」の知識。古くから人と深いかかわってきた「木」100種を選び、その用途や特徴、伝承・伝説などを紹介した樹木の入門図鑑。美しいカラー写真と著者の興味深い解説で、読み物としても楽しめます。紹介するのは、神事、仏事に関わりのある木、仏像になる木、家具や細工ものに使われる木、バットや木刀に使われる木など、身近なものが中心。身近な「木」の名前を知るだけで、その木に愛着がわき、日々の暮らしも豊かなものになるでしょう。

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