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ペットの医療費。死にかけたネコを助けるのにいくら必要か?

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わたしたち人間は、罪ぶかい。住まいを建てるために自然を破壊する。肉を食うために動物を殺している。時には、おなじ人間同士で傷つけあうことすらある。

古今東西の人間は、自分たちの「どうしようもない悪性」を自覚して生きてきた。キリスト教における「原罪」であり、仏教では「業(ごう)」と呼びならわすものだ。

ペットの猫や犬を飼うことだって、人間の原罪であり業だと思う。ペットショップとは、動物を金銭によって売り買いする場所だ。さまざまな種類の動物たちが、人間たちの勝手な都合によってせまいショーケースのなかに閉じ込められている。残酷な光景だ。

ニャンコやワンコを見て「かわいい」「愛らしい」と感じることは、わたしたち人間の傲慢にすぎないのだろうか? 弱い生き物に対する支配欲を「ごまかす」ための、いつわりの感情なのだろうか?

そんなことは信じたくない。だが、完全に否定することも難しい。

死にかけの猫を見つけたらどうするか?

野良猫が、道のど真ん中で横たわっているのを見つけた。近づいても逃げなかった。頭をツンツンと触ってみたけれど反応がない。毛がひどく汚れている。くさい。すでに死んでいるのかと思ったら、ピクリと耳が動いた。かろうじて生きているらしい。

もしも野良猫ではなくて「人間の子ども」が行き倒れていたなら、誰もが119番に電話をして救急車を呼ぶだろう。命を救おうとする。だが、行き倒れているのは野良猫だった。当然のことながら救急車は引き取ってくれない。

ケガをして死にかけている野良猫に、ふつうは誰も関わろうとはしない。拾ってもらえるのは、ケガをしていたとしても軽症の野良猫だけだ。高くつきそうならば拾ってもらえない。

三毛猫ミケさん』(猫沢太陽・著/アドレナライズ・刊)という本がある。著者の猫沢さんは、もうすぐ死ぬであろう野良猫を見つけたとき、見捨てずに自宅から猫用のキャリーケースを取って戻ってきた。そして行きつけの動物病院へ駆けこんだ。外でさみしく死ぬはずだった三毛猫の運命が変った。

助かるかわからない野良猫を救うということ

獣医の応急処置を受けて、かろうじて次の日の朝をむかえることができた三毛猫は「ミケさん」と名付けられた。単純すぎるのは、愛情が欠けているせいではない。なるべく感情移入しないためだ。死亡率が高い「肝リピドーシス」と診断されたミケさんは、長く生きないと見られていた。

ミケさんを死なせないためには、高価な医薬品や特別なペット食を必要とした。動物には国民健康保険が適用されない。費用は全額負担。完治するまでに数十万円を要することが予想された。しかし、ミケさんを拾ったときから覚悟していたという。

拾い主である猫沢さんは、もともと3匹の猫と暮らしていた。だからペット用キャリーケースを用意できたわけだ。夫婦共働きなので、費用をどうにか捻出できる見込みがあった。猫沢さんは会社員ではないので、ミケさんに付きっきりで看病することができた。

昼夜、我が子にするような看病をおこなう

人間の患者ならば、点滴やチューブを挿管して栄養成分を流しこむことができる。同じことを猫にはできない。飼い主が高栄養食をピストン注射器につめこんで、暴れるミケさんの喉にむりやり流し入れるしかなかった。当然のことながら手や腕は傷だらけになった。

朝昼それぞれ7錠の薬を飲ませる必要もあった。猫沢さんは粘りづよく看病をした。ミケさんもよくがんばった。看病記である『三毛猫ミケさん』には、いくつも写真が収録されている。瀕死の状態だったミケさんが、日に日に回復していく様子を見ることができる。

同居している3匹の猫ちゃんたち「いなり」「サン」「フワフワちゃん」との交流も記録している。負けん気の強い「フワフワちゃん」と「ミケさん」のやりとりは、思わず噴き出し笑いをしてしまうほど微笑ましいものだ。

死にかけの野良猫が全快するまでの費用は?

死にかけていたミケさんは、約2ヶ月間にわたる献身的な治療によって全快した。そのあいだ何度も獣医の診察を受けて、高価な治療薬や特別ペット食を購入している。

総額32万円。死にかけの野良猫を生かそうと思えば、これだけの費用が必要なのだ。

猫沢さんは、選り好みしなかった。たとえば里親募集やペットショップで選んだ猫ちゃんならば、数十万円の治療費を受け入れる飼い主はいるだろう。一方の猫沢さんは、たまたま見つけたにすぎない瀕死の動物を、なんら選り好みせずに受け入れたのだ。

猫沢さんの示した慈悲心は、人間の「罪業」を超越する尊いものであると感じた。たとえ「人間が優しい」ことを信じられなくても、ミケさんの看病記を読めば「優しい人間がいる」ことを信じられるはずだ。

(文:忌川タツヤ)

三毛猫ミケさん

著者:猫沢太陽
出版社:アドレナライズ
ある日、行き倒れていた野良猫を見つけた。駅から自宅に向かって歩いている途中、ふと横目に見た路地に、三毛猫が倒れていたのだ。思わず拾って動物病院に駆け込んだはいいが…。
肝リピドーシスという重病を患った三毛猫ミケさんとの生活が始まった。3匹の家猫たちの冷たい視線を浴びながら、必死に看病していた著者が思ったこと、感じたこととは?
すべての愛猫家に贈る、写真エッセイ。

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