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好きなことなら、笑われてもいい。

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私の娘は絵がとても好きだ。高校生になった今は、毎週画塾に通い、1日に何時間も石膏像をデッサンしている。バレエもフラダンスも3日でやめてしまったのに、絵の習い事だけは小学校時代から続いている。けれど、実は娘は美術の成績が良いわけではない。10段階で4だったこともある。周りからは「絵以外の道もあるよ」などとやんわり諭されることもあっても気にせず、今日まで毎日、絵を描き続けてきた。

好きなことに、全力投球。

娘が通う画塾には、芸術大学に合格した生徒さんの作品が飾ってある。写真でも見ているかのようにリアルで見事だ。私は娘の絵は嫌いじゃないけれど、彼女はどうも描く気力が続かない。この間は、ワインのボトルと、その隣に毛糸玉みたいにくしゃっと丸まっているものが描かれていて、これは何?と聞くと、ミカンだという。ミカンには見えないなというとむくれて、ワインの瓶にがんばったから時間がなかったのだと言い訳してきた。

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子どもは、時間配分がうまくできない。気に入ったものに全力投球してしまうので、気に入ってないものについては雑になってしまう。私の息子は数学が好きで、模試の第1問目に超難問が出た時に、その問題に夢中になって時間いっぱい使って解き続けた。なので他の問題を解くことができず、散々な成績だったことがある。でも本人は、あの問題を置いて次に行くことはできなかったという。そして娘もそう。画塾の時間めいっぱいワインのボトルに費やしてしまい、ミカンを描く時間も気力も残っていなかったのだそうだ。

好きなことで、強くなる。

子どもとは、不器用な生きものだ。好きなことにのめりこめばこむほど、不恰好になる。夢中になりすぎると子どもは前かがみになったりして軟体動物みたいに変な姿勢になるので、見ていて笑ってしまうこともある。でも娘も息子も全然平気だ。笑われても構わないのだ。彼らの目の先には、大きな目標があるのだから。好きなことだからこそ、体当たりし、全力でぶつかり、そしてたとえ良い結果が出なかったとしても、懲りずにしつこく続けることができるのだ。

『表参道高校合唱部!涙の数だけ強くなれるよ』(櫻井剛、桑畑絹子・著/学研プラス・刊)という青春小説には「好きなことだったら、笑われてもいい」という言葉が出てくる。合唱部のために前向きにがんばるヒロイン・真琴が、歌うのを恥ずかしがる友達を励ます時に発した言葉だ。彼女は合唱部がつぶれそうでも、学校から冷たくあしらわれても、まっすぐ前を向いている。そして彼女が向いている先には合唱と歌がある。彼女はある目標があって、歌っているのである。

好きだから、胸を張る。

彼女はどんな状態でも楽しそうに、小鳥のようにさえずる。やがてその歌声に、ひとりまたひとりと心を動かされていく……。時には全校生徒の前で恥をかかされそうになることもある。生徒たちの嘲笑を浴びることもある。けれど彼女は歌さえあれば、くじけないのだ。歌が大好きだから胸を張っている。まさに「好きなことだったら、笑われてもいい」状態なのである。そして合唱にのめり込むあまり、お勉強のほうは追試になるのも、時間配分がニガテなタイプだからなのだろう。

彼女のような真っ直ぐなキャラが実在したら、醒めた東京の生徒達のなかには「やりすぎ」と冷たい目線を送る人がいるだろうし、小説でもそこがリアルに描かている。でも皆が彼女のことを、どこか羨ましそうに見ている。それは「大好きなもの」がある子とない子の違いでもあるのかもしれない。

中1の時に美術の成績が4だった娘は、先日、初めて7をいただいた。満面の笑みを浮かべる娘。おそらく7だとクラスで真ん中くらいだろうと思うのだけれど、彼女には勲章を得たかのように感じるらしい。相変わらず娘はまだまだ立体感がないほっこりする石膏像を描き続けている。それでも彼女は楽しそうだ。だからこれでいいんじゃないかと思えてしまう。表参道高校合唱部の真琴が、歌っている時に最高に幸せそうなのと同じように。

(文・内藤みか)

表参道高校合唱部!涙の数だけ強くなれるよ

著者:櫻井剛(脚本) 、桑畑絹子(著)
出版社:学研プラス
表参道高校に転校した主人公・香川真琴は、合唱部に入部する。ところが、合唱部は人数不足で廃部寸前。はたして部員は集まるのか…。歌の力が奇跡を起こす青春感動ストーリー。TBS系で放映され中高生に大人気となったテレビドラマが、小説として蘇る!

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