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なぜ、あの人には友達がいないのか?『バーナード嬢曰く。』考

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「本好きを自称する人」に、あえて問いたい。

あなたは「読書愛好家」なのか? それとも「趣味をきかれても読書しか思い当たらない人」なのか?

本を読まない

『バーナード嬢曰く。』という漫画をご存じだろうか? ばーなーどじょういわく、と読む。脱力系の絵柄からは想像できない鋭い洞察をもとに「本好きあるある」をおもしろおかしく描いたギャグ漫画だ。

バーナード嬢はニックネームであり、劇作家でノーベル文学賞作家のバーナード・ショーをもじっている。考案したのはバーナード嬢本人で、つまり自称だ。本名を「町田さわ子」という。

バーナード嬢は学生であり、放課後や昼休みにはかならず図書館を訪れて、本をひらく━━ひらいているが、じつは読んでいない。なぜなら、バーナード嬢こと町田さわ子は「読書愛好家のフリ」をする目的で図書館に通っているからだ。

『バーナード嬢曰く。』は、面倒くさがり屋の女子学生が「いかに本を読まずにいっぱしの本好きをきどることができるか?」を研究している漫画なのだ。

名言をドヤ顔で

バーナード嬢こと町田さわ子は、本を読まないくせに読書家をきどりたいという変わり者だ。そんな彼女にしてはめずらしく通読しているのが「使ってみたい世界の名言集」という本であり、チャンスがあれば得意げに引用してみせる。

たとえば、世界史の追試がせまっているときにつぶやいた一言。

「歴史は単なるゴシップにすぎない」
オスカー・ワイルド

だから世界史のテストはゴシップクイズであり、世界史の教師は単なるゴシップ好きにすぎない、と。

ほかにも、おなじ図書館仲間に「衝撃のラストが待ちうけているSF小説」をオススメされて読み始めたものの、数ページも進まないうちにラストが気になってしまい、

「もう先に堂々とラストを読もう! SF小説だけに許された時間軸を歪ませるタイムトラベル読書だ!」
(『バーナード嬢曰く。』から引用)

などという屁理屈をこねて読まずに済ませようとしたり。
さらには、図書館仲間がバーナード嬢のために名作SF小説を何冊もリストアップしてくれたにもかかわらず、

「SF作家スタージョン曰く

SFの90%はクズである
ただしあらゆるもの90%はクズである

クズばっかならテキトーでいいよ」
(『バーナード嬢曰く。』から引用)

と言っちゃったり。破滅的なまでに「本」や「知識」に対するリスペクトを欠いている。しかしながら、そんな反教養的なスタンスや発言が笑いを誘うのだから不思議で味わいぶかい。

本好きは「うざい」のか?

ここからが本題だ。

バーナード嬢こと町田さわ子には友人がいないらしい。いつもひとりで行動しており、昼休みになれば図書館に姿をあらわして、放課後も入りびたっている。クラスメイトになじめない、いわゆる「ぼっち」なのかもしれない。

さわ子だけではなく、ほかの図書館仲間たちも同類らしいことがうかがえる。
追っかけの遠藤くん、SF小説好きの神林さん、図書委員のスミカちゃん。同年代の子たちにくらべて、すこしだけ読書に対するこだわりが強いせいで、もしかすると他の同級生たちと話がうまく噛み合わないのかもしれない。優越感は知識の副作用であり、人間関係における毒だ。

バーナード嬢こと町田さわ子ほどの「ぼっち」ではないものの、教室に居心地の悪さを感じているから図書館へ足が向いてしまうのか。いずれにしても、さわ子を囲んで図書館の片隅でワイワイやっているときは、みんな楽しそうだ。

先に紹介したとおり、バーナード嬢こと町田さわ子は身勝手でトンチンカンな人物なので、けっして彼らの会話が「かみあっている」わけではない。それなのに、さわ子たちはとても楽しそうなのだ。せっかく彼らとおなじ学校に通っているのに友達にならないなんて、じつにもったいない。青春における機会損失だ。仲間にいれてほしい。

町田さわ子や遠藤、神林やスミカたちは「共感」によってつながっているわけではないらしい。本をきっかけにして、相手のことをよく理解できていないけれど、ゆるやかにつながっている。『バーナード嬢曰く。』は、そういう物語なのだと思う。

あと戻りできない

冒頭の問いにもどる。

「読書愛好家」なのか? それとも「趣味をきかれても読書しか思い当たらない人」なのか?

わたしは後者だ。履歴書の特技や趣味を記すところに「英会話」とか「サーフィン」とか書きたい人生だった……。

さあて、気分転換するために『世界幻想文学大系』(国書刊行会)の『第19巻 サラゴサ手稿』でも読み返そうかなー。かなー。でもなー、国書刊行会のやつは抄訳だからなー。東京創元社から完訳版が出るって話、あれ、どうなったんだろう。まだですかー!

(文:忌川タツヤ)

バーナード嬢曰く。

著者:施川ユウキ(著)
出版社:一迅社
読むとなんだか読書欲が高まる“名著礼賛”ギャグ! 本を読まずに読んだコトにしたいグータラ読書家“バーナード嬢”と、読書好きな友人たちが図書室で過ごすブンガクな日々──。 『聖書』『平家物語』『銃・病原菌・鉄』『夏への扉』『舟を編む』『フェルマーの最終定理』……古今東西あらゆる本への愛と、「読書家あるある」に満ちた“名著礼賛”ギャグがここに誕生!!

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