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「視聴率1%=100万人」は間違い? 視聴率の真実とは

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テレビに携わる業界の皆々は押し並べて視聴率を気にしている。とりわけ連続ドラマの陣営は気の毒ですらある。昨今、ドラマの初回放送時の視聴率が翌朝のネットニュースで取り上げられることが多くなった。振るわなかった場合、そのドラマの不出来が、あたかも初回の視聴率で烙印を押された格好になってしまう。

視聴率はまだまだバロメーターとして信頼されている

「○曜○時ドラマ『○○○』、初回視聴率わずか6.4%」という記事が出てしまうと、そのドラマを見てすらいない多くの相手に、内容すら知らないというのにネガティブイメージだけが先に植え付けられてしまう。こうならないために、なんとか初回にチャンネルをあわせてもらう装置を盛り込まなければいけない。とはいえ、装置など限られている。毎度同じような俳優勢の並び、前のクールの組み直しではないかと思えるほど既視感のある出演者になりがちなのも、こうして即座に結果を求められる風潮と無関係ではない。

紅白歌合戦ではこれまでアーティストごとの視聴率がスポーツ新聞に事細かに掲載されるのが通例だったが、昨年の紅白からは上位のアーティストのみが掲載されるようになった。下位のアーティストのイメージにかかわるから、という業界内の配慮が働いたようだが、逆に言うならば、それほどまでに視聴率は一般的にバロメーターとして信頼されているのだ。

「8400万人熱狂」という見出しの誤り

視聴率について、極めてざっくりと抱えたままにしている「で、視聴率って信頼できるの?」という問いに答える藤平芳紀『視聴率の正しい使い方』を読むと、メディアで使われる視聴率を信用し過ぎることの危うさも、視聴率を「あんなのは少ないサンプルで抽出しただけ」と軽んじる危うさも同時に教えてくれる。

例えば「視聴率1%=100万人」という定説は正しくないという。2000年のシドニー五輪の女子マラソンで高橋尚子が金メダルを穫ると、スポーツ紙は「尚子 金 8400万人熱狂」と見出しを打ったが、これは定説通り「地上派と衛星放送の視聴率をすべて合算した値に100万人を掛けたもの」だった。しかし、この「×100万人」が使えるのはNHKが年に数回実施している「全国個人視聴率調査」の「全国視聴率」の結果を基にした場合だけで、この手の記事のおおよそのソースとなっているビデオリサーチ社の「世帯視聴率(関東地区)」の数値から視聴人数を出すのは間違っているという。確かに、使う側の誤用で視聴率の信憑性が落ちるのは酷である。

「サンプルが少なすぎる」は問題ではない

サンプル(モニター世帯)が少なすぎるという評判についても、著者は「議論の経済性を無視している」「視聴率調査の限界や弱点ばかりをあげつらい、効用の部分を見逃している」と手厳しい。サンプル人数の多少でどれほどの誤差が生じるかを調べ上げ、サンプルが少なかろうがその信憑性に差はさほど生じないし、国勢調査並みの調査の精密度を視聴率に求めるならば、総務省などの国家機関に拡充して調査をするしかなく、となると往々にして国税が投入されることになる、という著者の指摘に頷く。

これまで、「どうせ、視聴率なんて買収されているんじゃないの?」という下世話な意見に呼応してしまう案件がなかったわけでもない。2003年に発覚したのが、民放キー局のバラエティ番組のプロデューサーが、探偵会社に依頼して視聴率のモニター世帯を探し当て、金銭を渡して番組を見るように依頼していた事件。こういった事例は極めて限られているが、モニター世帯の数が少なければ少ないほど、制作者にとっては危ない蜜として機能してしまう。

録画した人たちのどれくらいがCMまで見ているのか

ワンセグや録画での視聴が増えている中、そもそも現状の視聴率の枠組み自体が視聴行動に合っていないという指摘も根強い。ビデオリサーチ社は今年から、ハードディスクやビデオレコーダーで録画して視聴する「タイムシフト視聴率」の計測を導入するが、この対象世帯は通常の視聴率のモニター世帯とは異なるので、通常の視聴率+タイムシフト視聴率でのパーセンテージを単純に算出することは難しい。広告スポンサーにとってみれば、録画した人たちのどれくらいがCMまで見ているのかの実数を算出することは難しく、頭を悩ませる数値が更に増える結果となるかもしれない。

そもそも作る側も見る側も視聴率にとらわれてすぎていること自体に疑義を向けるべきなのだろうけれど、もはやこのスパイラルを逆流する手段は易々とは探し出せない。ひとまずは、視聴率の根本的な誤解については本書で振り払っておきたい。

(文:武田砂鉄)

視聴率の正しい使い方

著者:藤平芳紀
出版社:朝日新聞出版

「番組Aの視聴率は10%、Bは12%。Bが『勝った!』」「視聴率1%は100万人相当だから、Aは1000万人が見たことになる」。これ、どちらも間違いです! 知っているようで知らない、摩訶不思議な数字「視聴率」を、この道40年のベテラン調査マンが「読み方・使い方」とともに、やさしく教えます。誰も知らないテレビの“神”の正体がわかる、業界関係者も必読の入門書。「視聴率トリビア」も満載!

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