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一流ブランド、シャネルの水はおいしい!

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10代の頃からシャネルに憧れていて、40代になったらシャネルスーツが似合う女になりたいと思っていた。しかし、その夢は未だ実現していない。貧乏な私にとってはシャネルの洋服は永遠に高嶺の花かも? 使ったことがあるのはシャネルのオーデコロンくらいなのだから。

それでも、私はガブリエル・シャネルというひとりのフランス人のファンで、彼女こそ働く女性の鏡だったと思っている。

カンボン通り31番地のおもてなし

タイトルを間違えたわけではない。シャネルの水ってどういうこと?と思った皆さんに、ある初夏の日の出来事を紹介しよう。

シャネル本店は1921年以来、パリのど真ん中、カンボン通り31番地にある。そこは世界中の女性の憧れのメゾンであり、パリを訪れた日本人観光客も大半はその扉をくぐる。

その日、私は日本から来たふたりの友人をシャネルへ案内した。が、入り口でガードマンに私だけが止められた。犬連れが入店拒否の理由だった。普通、フランスではブティック、デパート、ホテル、レストラン、カフェとどこも犬はOKなのに変だなとは思ったが、外で待つことにした。

すると1分もしないうちに店の中からピシッとスーツを着こなしたマネージャーの男性が飛び出してきた。「マダム、大変失礼いたしました、どうぞお入り下さい。さぁさぁワンちゃんもこちらへ」となったのだ。たぶん監視カメラを見ていて慌てたのだろう。

広い店内を大型犬のラブラドールを連れてうろうろ、すれ違う店員たちはみんな犬の頭を撫でてくれた。そして靴売り場にいた友人を見つけソファに座ると、さっきのマネージャーが左手にしわひとつない真っ白のランチョンマット、右手に水を入れた真っ白の一目で高価なことがわかる陶磁器を持って登場。大理石の床にそれを置くと、「さぁ、喉が渇いたでしょう、お飲みなさい」と犬に言ってくれたのだ。

うちの犬は水の味にうるさく、よそで水を出されても舌をちょっとつけてやめることも多いのにシャネルの水は特別においしかったらしく、ベシャベシャとまわりに水滴を撒き散らしながら全部飲み干し、空になった陶磁器を舐めまわすほどだった。

一流店の思いがけないおもてなしに私は感動した。さすがシャネルだ!

シャネルは成り上がりだった

20世紀のファッション界をリードしたデザイナーたちで、ディオールはパリ政治学院で学んだエリート、サンローランも中産階級の家の出身だったのに対し、シャネルは田舎の貧困家庭の生まれで、しかも親に捨てられ孤児となり修道院で育ったのだ。

シャネル-最強のブランドの秘密』(山田登世子・著/ 朝日新聞出版・刊)にもあるが、親に捨てられた少女ガブリエルは自活する以外、生きるすべがなかったのだ。それでも、出会った上流階級の男達の援助もあり、また天性の才能を生かしファッションデザイナーとして大成功をする。

第二次世界大戦後は14年間のブランクはあったもののシャネルは70歳でカムバックしメゾン再開、そして87歳で亡くなる前日まで仕事をしていたというから、まさに仕事一筋に生きた女性だった。

抑制の美学

今、私たちが身につけているファッションアイテムの多くはシャネルが創造したのをご存知だろうか。

「わたしはジャージーを発明して女のからだを自由にした」「レースやコルセットや下着や詰め物で着飾って、汗をかいていたからだを自由にしてやったのよ」(中略)機能的なジャージーは彼女にとって「解放」の衣装であった。そんなジャージーは当時、馬の調教師たちの衣服に使われていたものだ。

(『シャネル-最強のブランドの秘密』から引用)

20世紀のはじめ、社交場だった競馬場。そこに集まるドレスや宝飾品で着飾った貴婦人達への挑戦がシャネルの出発点だった。シンプルな美しさ、そして着やすさはやがて多くの女性達に受け入れられることになった。厩舎のファッションが競馬場のファッションに勝ったわけだ。

宝石ではないイミテーションのアクセサリーをはじめて作ったのもシャネル、両手を自由にするためにショルダーバッグを最初に世に送り出したのもシャネルだった。

また、悲しみを表す色でしかなかった黒をエレガントな色に変えたのもシャネルだ。

黒はすべての色に勝つとわたしは言ってきた。白もそう。二つの色には絶対的な美しさがあり、完璧な調和がある。

(『シャネル-最強のブランドの秘密』から引用)

シャネルはコピーを肯定していた

永遠のエレガンス、シャネルスーツのニセモノは世界のあちこちで出回ったが、シャネル自身はそれをむしろ喜んでいたらしい。コピーもされないようなデザインはもともと魅力がないと言い、朝市で行商人が売る偽シャネルスーツを見つけた時などは、自分のファッションがストリートで生きていることが自慢でならなかったという。

いっぽう、「本物」は一目でわかるクオリティでなければならないというこだわりがあり、シャネルはコピーされるのが一番むずかしい最高級の生地しか使わなかったそうだ。

何はともあれ、シャネラーを自称する女性にはもちろん、そうでない人たちにも、シャネルの驚異的な人生がすべてわかるこの本をぜひ読んでみてほしいと思う。

(文・沼口祐子)

シャネル 最強ブランドの秘密

著者:山田登世子
出版社:朝日新聞出版
動きやすくて機能的な働く女性のための服を次々つくりだして貴族趣味を時代遅れにしたシャネルは、女性の社会進出と大衆消費社会を先取りした近代初の女性起業家だった。ひた隠しにした出自とセレブとの交流、大国アメリカへの親愛感と侮蔑。ファッションブランド研究の第一人者が、永遠にオーラを放って女性たちを魅了する「最強ブランド」の秘密を、伝説に彩られたその生涯と辛辣で知性に満ちた「シャネル語録」から探る。まるごと一冊シャネル論!

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