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葬儀のプロに教わる人間の死

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先日の夜のことだ。
つけっぱなしになっていたテレビを消そうとリモコンを手にしたとき、面白そうな映画が始まった。
翌日、早起きしなくてはいけないので、寝なくちゃと思ったのだが我慢できず、結局、最後まで観てしまった。
それは『おみおくりの作法』という作品だった。
イギリスとイタリアの共同製作で、原題は『Still Life』。
孤独死を取り扱った映画だ。

映画「おみおくりの作法」

ロンドンのケニントンという地区を担当する民生委員ジョン・メイは、その地区で孤独死した人を弔う仕事をしている。
身寄りがない人たちなので、適当に処理しても誰にも文句を言われないのに、彼は心をこめて故人を弔い、遺品などから宗教を調べ出し、宗派に従って葬式を出す。アルバムなどから、その人の人生を推いはかり、お別れの言葉も書く。
主役を演じたイギリス人俳優エディ・マーサンが素晴らしく、私は彼が演じるジョン・メイが好きで好きでたまらなくなった。
そして、思った。
日本にもジョン・メイみたいな人がいるはずだ。
誰も知らないところで、精一杯、見知らぬ人を心をこめて弔っている人が・・・。
そこまでしなくてもいいのにと言われながらも、徹底して頑張っている人が・・・。

日本のジョン・メイ

そして、見つけた。
私にとってのジョン・メイを。
彼の名は小林和登。
民生委員ではなく、高校を卒業した後、ふとしたきっかけで葬儀社に入社した人だ。
「葬儀」という仕事』(小林和登・著/平凡社・刊)の中で、彼は「とくに好きな仕事と思っていたわけではなく、給料がいいからという理由で始めた」と打ち明ける。こういう正直なところも好ましい。
軽い気持でこの業界に入った彼だが、大手の葬儀社で活躍した後、納得のいく葬儀をしたいと願うようになった。
ちょうど退職したところだった父親の助けも得て独立し、自分の会社を立ち上げたのだ。

遺族に寄り添う葬儀のプロ

何事にもプロがいるが、小林和登は葬儀のプロである。
ジョン・メイのように役所から派遣されているわけでもなく、宗教的に奉仕する義務があるわけでもない。
彼にとって、葬儀はあくまでも仕事だから、きちんと利益を生む仕事として行う必要がある。
それでいながら、彼は理想の葬儀を行おうと必死だ。
納得のいく値段で、満足してもらえるような葬儀を行おうと頑張る。
ジョン・メイが孤独死した故人のための仕事だとすると、小林和登は、遺族に寄り添い、遺族の悲しみを癒す仕事のように、私には思える。

すさまじい体験

小林和登は多くの死を見てきた。葬儀を仕事とする人の宿命かもしれないが、常人には理解できないような毎日だろう。
人は必ず死ぬ。それは誰もに共通することなのに、死の様相は実に様々だ。
すさまじい死を目撃した経験も持っている。
廃墟のような家のトイレで、首つり自殺があったという知らせを受け、駆けつけたときのことだ。
亡くなってから日にちが経っていたため、腐敗が進み、首だけがロープにひっかかっていたという。
胴体はというと、重みに耐えきれず、床に落ちてしまっていたのだ。
それだけでも充分に衝撃的なのに、葬儀社の社長がとった行動はさらに上をいくすごさだった。

社長は宙に浮いている遺体の頭部にむかって合掌すると、素手のまま右手の人差し指と中指をVの字に曲げるや、溶けてなくなっている両眼の穴にグイッと差し込んで頭蓋骨をはさんで頭部をロープからはずしたのです。
「こうでもしないと、皮膚は溶け出しているから持てないだろう」
社長は、唖然としている私に、そんなことをいいました。
(『「葬儀」という仕事』から引用)

言いのこしておきたいこと

人は1人で生まれてきて、1人で死んでいく。
私はそんな風に思っていた。
けれども、実際には、多くの人の助けを得て、私たちは生まれてくるのだし、多くの人に支えられて何とかこの世を生きぬき、最期は多くの人の手を煩わせて死んでいかねばならない。
例え、孤独死と呼ばれる死を迎えようとも、やはり完全に1人で骨になるわけではない。
誰かが何かをしてくれて、やっと骨になれるのだ。
なるべく迷惑をかけないように準備をしておきたいと思うが、いつ、どこで、どのように死ぬか、自分で決めることはできない。
ただし、葬儀の手順や葬儀を任せる人を見つけておくことはできる。
「もし、私が死んだら、この方にお願いしてね」と、家族に伝えておくだけで、遺族の負担が減るのではないだろうか。
だから私も、私のジョン・メイの名を書き残しておくことにしよう。

(三浦暁子)

「葬儀」という仕事

著者:小林和登
出版社:平凡社
葬儀業界に革命を起こし続ける著者が、その知られざる世界の裏側を赤裸々に描く。

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