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ディープインパクトはたぶん世界最強の馬だった

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競馬を知らなくても、ディープインパクトという名を覚えている人は多いだろう。日本馬として凱旋門賞初優勝という私たちの夢をのせて、ディープが武豊騎手と共にフランスのロンシャン競馬場を全力で駆けたのは2006年のこと。あれから足掛け10年になる。あの時、ディープは勝てなかったのではなく、どうやら勝たせてもらえなかったらしいのだ。

ロンシャン競馬場のもうひとつの顔

競馬ファンには馬券派とロマン派がいるという。先に断っておくが私はそのどちらでもないし、競馬に詳しいわけでもない。私たち家族はたまたまロンシャン競馬場の近くに暮らしていた時期があったので、馬好きの娘の付き添いで馬を見に競馬場に通っていた、ただそれだけだ。

桜花賞、皐月賞、天皇賞、そして日本ダービーと日本の競馬ファンが熱くなる4月から5月。同じ季節、パリ・ブローニュの森にあるロンシャン競馬場は遊園地と化している。フランスでは冬の間は競馬がなく春にシーズンを迎える。オープニングを華やかに、またより多くの人々を競馬場に向かわせるべくフランスギャロ(フランス競馬統括機関)は、『日曜日のギャロップ』という子供向けイベントを毎年恒例で開催しているのだ。会場はロンシャン競馬場と、ブローニュの森にもうひとつある競馬場オートゥイユで、競馬開催日に合わせて交互に行われている。

ロンシャン競馬場へは最寄の地下鉄の駅から無料のシャトルバスに乗るのだが、『日曜日のギャロップ』のときは、ベビーカーに赤ちゃん、幼い子どもの手を引いた家族連れでいっぱいになる。競馬場の入り口ではサラブレッドの着ぐるみキャラクターがお出迎え。中に入るとスタンド裏には、メリーゴーランドをはじめ馬と競馬をテーマにしたアトラクションがいっぱい。さらに名門乗馬クラブがシェットランドポニーを連れてきていて乗馬体験までさせてくれる。入場はもちろん無料で、アトラクションも乗馬もぜんぶタダ。お金を使うのは馬券派の競馬ファンだけだ。

競馬は7~8レース行われるのだが、レースの合間にはスタンド前の直線で馬の曲乗りショーや子ども競馬があったり、芝が荒れちゃて大丈夫なの?と思ってしまうほど。それでも日本でもおなじみのペリエ騎手やスミヨン騎手たちが、見事な手綱捌きで美しきサラブレッドを勝利へと導いていく。

秋には世界最高峰のレース、凱旋門賞が行われる格式高きロンシャン競馬場だが、春にはラフで、のどかな表情も持ち合わせているのだ。

ディープインパクトに勝たれては困る人々がいた?

さて、話をディープに戻そう。『光陰 馬のごとし』(芳野星司・著/ゴマブックス・刊)を読むと、ディープインパクトが特別な馬だったことがよくわかる。

極東の「血統の墓場」からチャンピオンホースがやって来る。さてお手並み拝見だ。(中略)ディープインパクトの調教を見た者は、そのランニングフォームに「衝撃」を受けたはずだ。そして新しい環境に馴れ、調教が進むにつれ、誰の目にもディープインパクトの凱旋門賞優勝は間違いないと思われたはずだ。

(『光陰 馬のごとし』から引用)

当時、在仏日本人たちもディープの話題で持ちきりだった。そんな中で在仏年数が長い日本男性が「たぶん勝たせてはもらえないよ」とひとり呟いていた。かつて挑戦した日本馬はフランス人の装蹄師によってロンシャンの芝に合わない蹄鉄をはかされたことがあるというのだ。

ディープインパクトに栄光を持っていかれるだけならまだいい、フランスのいや欧州の競馬関係者がいちばん困るのはその先、世界最強の種馬が極東に行ってしまうこと。それだけはビジネス上なんとしても阻止しなければと考えた人々は確かにいたらしいのだ。

真実は闇の中だがディープに対しては二重三重の策が立てられていたのかもしれない。3着にしかなれなかったのにも何かがあり、そして挙句の果てにはドーピング失格というシナリオまであらかじめ用意されていたなんて、ディープがかわいそうすぎる。

誰もが認めていた世界最速の馬

それでもそれらの事柄は、ディープインパクトがとんでもなく速かったという証拠でもある。欧州の競馬関係者がビビってしまい、慌てふためいたのだから。

レース後に引き揚げてくるディープインパクトは、自らの不甲斐なさに茫然自失の体であった。そんなディープインパクトを初めて見た。彼は始終伏し目がちであった。

(『光陰 馬のごとし』から引用)

14歳になったディープインパクトは今、北海道の牧場にいるそうだ。できれば会いに行って、彼の鼻筋を撫でながら言ってあげたい。「ヨーロッパの競馬関係者だってきっとわかってる。世界最速の馬はキミだったってことをね」と。

(文:沼口祐子)

光陰、馬のごとし

著者:芳野星司
出版社:ゴマブックス
ビギナーからオールドファンまで楽しめる!! 気軽に読める競馬エッセイ、でも単なる競馬本ではありません。 この本は競馬をまったく知らない方でも楽しめます。あ、可愛い名前。なんて小粋な名前…新聞やスポーツニュースで聞いたことのある名前だ。たしか、フランスの大レースに遠征したってニュースだった。もちろん、大の競馬ファンも楽しめます。おお、なつかしい名前だ。…いたいた、いたなあ、こんな馬。お、ビギナーズラックを贈ってくれた馬だ。 今年の3歳牝馬は例年になくレベルが高いらしい…。

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