地方創生にまどわされないために読むべき1冊

地方創生。地方活性化。耳ざわりの良いことばだが、政治家が地方の有権者に向けてアピールするためのリップサービスにも聞こえる。日本の地方には、本当に活性化が必要なのだろうか?
答えは「イエス」だ。地方の衰退は、今後の経済発展どころか現状維持すら危うくするおそれがあるからだ。大都市圏の景気ばかりに目を奪われていては足元をすくわれてしまう。たかが地方、されど地方。来たるべきニッポンの危機について説明しよう。
地方は、東京の尻ぬぐいをしてきた
平成26年度における東京都の出生率は「1.15」。全国平均が「1.42」なので、本来ならば他の地域よりも人口の減りが激しいはずだ。それなのに、東京都の人口は毎年数万人ずつ増えている。それはなぜか。進学や求職のために、地方から人が流入してくるからだ。
東京が経済的に恵まれているのは、地方から働く人がやってくるおかげだ。必要な働き手の頭数がそろっているから商売ができる。いわば地方は、自力で労働者を生産できない東京の尻ぬぐいをしている。
地方からすれば、生産年齢(15~64歳)の人たちに東京へ行ってもらっては困る。地方で働く人が減るぶんだけ、地方経済が衰退するからだ。たしかに東京は、地方で職にあぶれた人たちの受け皿になっている側面はある。しかし、有用な人材まで奪われては困る。地方がいつまでも東京都の低出生率の尻ぬぐいをできると思ったら大間違いだ。
いわゆる「消滅可能性都市」(2040年までに20歳~39歳の女性人口が半減すると予測される自治体)は「896市区町村」も存在する。日本全体(1742市区町村)の約50%に相当する。このまま人口減が止まらなければ、そう遠くない将来に地方経済は壊滅して、東京は必要とする労働者を確保できない状況におちいる。
※参考文献『地方消滅』(増田寛也・編著/中央公論新社・刊)
地方創生のキーパーソンは出産適齢期の女性たち
地方自治体が逃したくないと考えているのは、労働者と女性だ。将来の生産年齢人口を含めて予測できる「消滅可能性」というデータは、各自治体における「20歳~39歳の女性」の人口をもとに算出している。なぜなら、子どもの95%が「20歳~39歳の女性」から生まれるためだ。
人口を再生産できる「20歳~39歳の女性」の増減数を測ることによって、それぞれの地方自治体の魅力や競争力がわかる。「20歳~39歳の女性」が増えている(減らない)地域は、なんらかのメリットがあるから女性たちが住み続ける、あるいは、よそからの転入があると見なせるわけだ。
一方で「20歳~39歳の女性」が減り続けている地方自治体は、どこかで歯止めをかけなければ致命的な水準に達してしまう。日本の危機だ。
地方は活性化するか否か
日本の人口のおよそ7割は、地方で暮らしている人たちだ。日本の命運は、1700を超える地方自治体がおこなう「活性化施策の成否」にかかっている。
『地方は活性化するか否か マンガでわかる地方のこれから』(こばやしたけし・著/学研プラス・刊)は、硬派なタイトルとは裏腹に、かわいい女子高生たちが活躍するマンガだ。元はWebマンガであり、親しみやすさとわかりやすさが評判になって、インターネット上に公開したのち数百万ページビューを記録した人気作品として知られている。
一読した感想を述べるならば、『けいおん!』『ひだまりスケッチ』のような萌えマンガ風であるけれど、マジメな新書1冊分の情報が詰まっていると感じた。なぜなら、彼女たちがキャッキャウフフしながら語っていることは、実際の日本各地にておこなわれた地方活性化事例を反映したものであるからだ。
本書で論じられているのは、高校生の彼女たちが暮らしている人口30万の地方都市にておこなわれた「行政主導の活性化事業」についてだ。しかも「失敗事例が、なぜ失敗したのか」を的確に分析しながら論じている。幕間には文章コラムによる解説があるので、詳細についても学ぶことができる。例えるなら「石ノ森章太郎のマンガ日本経済入門」と同じくらい役に立つ。
「にぎわい」と「にぎやかし」のちがい
地方活性化において、もっとも耳にするであろうキーワードは「にぎわい」だ。
「にぎわいを作って駅前や商店街を盛り上げよう。そうすれば町全体が活性化する!」
間違ったことは言ってない。しかし、やり方を間違えれば、それは一時的な「にぎやかし」で終わってしまう。行政からの助成金をつかって利益を度外視したイベント開催すれば、閉店だらけのシャッター商店街といえども一時的な「にぎわい」を取り戻せるだろう。しかし、カネが尽きれば元の閑散として場所に戻る。
そんなものは「にぎやかし」にすぎないというわけだ。
いま日本中の市区町村には、自然な「にぎわい」が存在している。郊外の大型ショッピングモールだ。しかし、それは地元の資本ではない。「地方消滅」の流れで人口が急減していけば、採算が取れないと見切りをつけた全国チェーン店は容赦なく撤退するだろう。身近な「にぎわい」の場であるコンビニエンスストアはどうだろうか。
同様に、地元のレストランや喫茶店を閉店に追いこんだ町のファストフード店が今後も営業してくれるとは限らない。地元以外の資本をやみくもに敵視すべきではないが、保険はかけておいたほうが良い。あくまでも「居場所」や「にぎわい」は、なるべく地元の資本や住民たちで維持運営できるようになりたいものだ。
地方創生の助成金をうまく活用してほしい
本書『地方は活性化するか否か』においても、助成金消化と雇用創出を兼ねて「駅前活性化ホームページ」事業を立ち上げた事例が紹介されている。
地方活性化の助成金を財源として地元の求職者を雇うのは意味があったが、あろうことか、事業そのものを東京の企画会社に委託してしまった。その後、助成金交付が終了した年度いっぱいで地元民は解雇されてしまったのは、わかりきった結末だ。
繰り返しになるが、地方の人口増のカギをにぎっているのは「出産適齢期である20歳~39歳の女性」だ。この人たちが住みたい、続けたいと思う地域をつくらなければ、人口は減少していくばかりだ。せっかくバブリーな助成金を使えるのであれば「保育園受かった! 産んで良かった!」という声が聞こえてくる未来のために活用してほしい。
現実のわが国では、「地方創生」にまつわる今年度予算に加えて、1000億円規模の補正予算が成立した。その名も「地方創生加速化交付金」だ。どうぞ好きに使ってくださいと言わんばかりのネーミングだが、なるべく「死に金」になりませんように。
(文:忌川タツヤ)


地方は活性化するか否か
著者:こばやしたけし(漫画)
出版社:学研プラス
前代未聞の「地方活性化WEBコミック」が待望の書籍化! 疲弊する地方都市「みのり市」を舞台に、「みのり高校地域活性研究部」が日々奮闘する姿を描く。描き下ろしエピソードやコラムも満載で、「地方創生」について考えるきっかけとなる一冊。
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