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宮沢りえを追いつめた「あの女優」は、10年前に小泉今日子も……

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2014年に公開された『紙の月』という日本映画をご存じだろうか。宮沢りえが「巨額の横領をおこなった銀行員」を演じたことで話題になった作品だ。この映画を初めて観たとき、わたしは大喜びした。

なぜなら、女優の小林聡美が登場するからだ。劇中では、銀行の有能なベテラン女性職員(お局さま)という役柄であり、多くの観客に「この人が、宮沢りえ演じる横領犯に引導を渡すんだろうなー」という物語のクライマックスを予感をさせてしまうほど、貫禄たっぷりのオーラを放っていた。

金融機関。横領事件。小林聡美。これらの組み合わせに、わたしは「ピンッ」ときてしまった。新作映画を観ながら、別のテレビドラマを連想せざるを得なかったのだ。

小林聡美と横領犯のくされ縁

映画『紙の月』と結びついたのは『すいか』というテレビドラマだ。放映は2003年。日本テレビ系列の土曜ドラマ枠にて全10話が製作された。主演は小林聡美。脚本は木皿泉。

小林演じる早川基子(はやかわ・もとこ)は、信用金庫に勤める34歳の職員という役どころだ。あるとき、基子の勤め先で3億円の横領事件が発覚する。その横領犯は、基子と仲が良かった同期の女性職員であり、いまだ逃亡中という役どころを小泉今日子が好演していた。「元アイドルが横領犯を演じる」という特徴的なギミックも、わたしが2つの作品を結びつけてしまった要因だ。

映画『紙の月』のなかで銀行制服を着こなす小林聡美が登場したとき、わたしは思わず「基子だ!」と声を出さずに叫んでいた。「10年後の基子」が現れたとしか思えなかった。

キョンキョンの時には見抜けなかったが、今度のサンタフェは決して見逃さない。『紙の月』の中盤以降において、宮沢りえとの対決姿勢を強めていく小林聡美からは、『すいか』時代のリベンジを果たすための闘志のようなものが感じ取れる。気がつけば、わたしは画面に向かって「基子がんばれ、ガンバレ基子!」とエールを送っていた。

日テレ土曜夜9時ドラマの思い出

冗談はさておき、小林聡美がテレビドラマ初主演をつとめた『すいか』は、日本のテレビドラマ史を語るうえでは欠かすことができない作品だ。

90年代の日本テレビ系列土曜夜9のドラマといえば、なんといっても『家なき子』(脚本・野島伸司)が挙げられる。94年の第1シリーズに続いて、95年『家なき子2』が放映されたあと、同年には堂本剛主演のテレビドラマ『金田一少年の事件簿』がスタートする。

金田一少年を演じる堂本剛がハマり役だったこともあり、視聴率は毎週20%を超えていた。放送当時、中高生の多くがテレビドラマ版『金田一少年』を楽しみにしていた。ドラマ演出を担当していたのが堤幸彦だったことも大好評の一因だろう。のちに他局で製作した『ケイゾク』『TRICK』『SPEC』が大ヒットしたことからもそれは明らかだ。

『家なき子』や『金田一少年』の好評によって、日本テレビの夜9時といえば「過激で先鋭的なテレビドラマ枠」の代名詞になっていた。同じドラマ枠で96年に放映された『銀狼怪奇ファイル』(主演・堂本光一)は忘れられない作品のひとつだ。

1999年放映の『蘇る金狼』『サイコメトラーEIJI2』あたりを区切りとして、日テレ土曜9時枠のテーマカラーに変化がおとずれる。2000年初頭からは、お笑いやハートフルドラマ路線にもとづいた作品が目立ちはじめたからだ。

かつてジャニーズ枠だったはずの土曜夜9時という番組枠に、『伝説の教師』(松本人志と中居正広のW主演ドラマ)や『明日があるさ』のような吉本芸人枠が生まれるなど、いまいち特色を見いだせない時代が3年ほど続いた。

「変なテレビドラマが観られる時間帯」としての日テレ土曜夜9時にまったく期待しなくなっていた2003年の夏。テレビドラマ『すいか』の第1話が放映された。

ハピネス三茶よ、永遠に

『家なき子』のようにセンセーショナルでもなければ、『金田一少年の事件簿』のようなミステリーでもない。一連の堤幸彦ドラマのように、次週放送が激しく気になる内容というわけでもなかった。しかし、なぜか頭の片隅に残るらしい。放送時の視聴率は低かったものの、放送後に評判が高まり、『すいか』の脚本は「第22回向田邦子賞」に選ばれた。

小林聡美演じる早川基子が、34歳になってはじめて親元を離れて「食事付きの共同アパート」に引っ越してくる。三軒茶屋のどこかにある、広い庭と野菜畑に囲まれたアパート「ハピネス三茶」では、ガーリーな若い管理人をはじめとして、売れない女性漫画家、定年まぎわの大学教授たちが共同生活を送っていた――。

すいか 合本版』(木皿泉、山田あかね・著/河出書房新社・刊)というシナリオブックが電子書籍化されたと知ったので、懐かしさのあまり手にとった。読んでいるうちに映像のほうも見たくなった。DVDが発売されており、全4巻をレンタルビデオ店で借りてきた。

シナリオブックでは、セリフだけでなく「ト書き」という記述を読むことができる。状況や小道具、場面において登場人物が何を考えているかを、俳優や現場スタッフに伝える役割を果たすものだ。

わたしは本編を見終えたあとに、あらためてシナリオブックを読み返した。愉快なことに、頭のなかで小林聡美やともさかりえや浅丘ルリ子が喋りだした。いわゆる「脳内再生」というものだ。シナリオブックならではの体験といえる。

シナリオブックには、ドラマ最終回から10年が経過した『すいか』の登場人物たちの後日談を収録している。この「第11話」を映像化するのは野暮というもので、DVDで全10話を見終えた人には、ぜひとも脳内再生による鑑賞を試みてほしい。

(文:忌川タツヤ)

すいか 合本版

著者:木皿泉、山田あかね
出版社:河出書房新社
伝説的ドラマの脚本、ついに電子化。 東京・三軒茶屋の下宿「ハピネス三茶」を舞台に描かれる、血のつながりのない女性4人のなにげない日常と、3億円を横領して逃走している主人公の同僚の非日常。彼女たちが語る、等身大の言葉が胸をうつ、向田邦子賞受賞作。10年後のハピネス三茶を描いた、書き下ろしのオマケは「すいか」ファン必見。

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