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度肝を抜く12人のじいさんは日本のピカソだろうか?

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TV局に勤める友人のもとに、ある時、ひとつの企画が持ち込まれた。
高齢になっても健康な暮らしを続ける人を取り上げ、その生活ぶりをリポートしようというものだ。
高齢化社会を迎える今、皆の関心を集めるに違いない。
「いいじゃない。それ。是非、実現させてよ。視聴率稼げるわよ、きっと」
よくわかりもしなくせに、私は安請け合いし、はっぱをかけた。

すがすがしい話になるはずが

しばらくして、私は彼に尋ねた。
「あの企画、どうなった?」と。
すると、彼は嬉しいような困ったような顔をして、「もうオン・エアされてるんだけどさ、なんというか、考えたのと違う番組になっちゃったんだよね」と、答えるではないか。
なんでも、お年寄りのところへ行き、健康法やすがすがしい生活の一端を紹介し、長寿を讃える番組にする予定だった。
ところが・・・。

長寿の秘訣はわがままか?

実際にインタビューに出向くと、元気なお年寄りの多くが、健康に良いことなどたいしてしていないのだという。
ひどい偏食で野菜は食べず、3食すべて肉ばかり食べているおじいさんがいるかと思うと、家の中にひきこもってテレビばかり見ているおばあさんもいた。
朝からお酒を飲んでろれつがまわらず、番組にならなかったり、チェーンスモーカーで禁煙などという言葉は考えたこともないような人もいた。
枯れるどころか、異性への関心が高まる一方だとのたまうおじいさんも多かったらしい。
結局、元気な年寄りでいる秘訣は、勝手気まま、それにつきるという結論に達し、最初の計画とは異なる番組ができあがった。
元気だから勝手きままでいられるのか、勝手気ままにしているから元気なのか、よくわからないが、ストレスは少なそうだ。

唖然、それしかない

シルバーアート ―老人芸術』(鞆ノ津ミュージアム・監修/朝日出版社・刊)にも、奔放に、我が道をいくご老人12人登場する。
そのわがままさというか、周囲をなぎ倒すような生き方に、私は度肝を抜かれた。
一人だけでもすごいのに、1ダースとなると、もう何をどうしてよいやらわからない。
とてもすべては紹介しきれないが、氏名と創っているものについて、書いてみたい。
箇条書きするのもどうかと思ったのだが、箇条書き以外に書き方が見つからない。
唖然とするようなその生き方にきっと度肝を抜かれるだろう。

12人のものすごい人たち

長恵(段ボール箱に舞う天子が天国の扉を開く)
榊原一男(90歳過ぎて増殖を始めた負けん気の王国)
蛭子能収(空気を読まない言動の裏に秘められた宝)
糸井貫二(裸身で最前衛を走り抜ける伝説の芸術家)
堀内辰男(エクセルを駆使して描く現代の浮世絵師)
木下将之将軍(美しく歪む世界を司る妖精のような将軍)
沼博志(謎すぎるオブジェで田園に亀裂を入れる)
ドクター・中松(生死をかけた発明に挑むインベントール)
城田貞夫(エロ仕掛けの水商売でカラクリ芸道をゆく)
大野博司(ドローン技術を自学で先取した空撮の達人)
小川卓一(石に美意識を刻み奉納する私設殿堂の主)
堀尾貞冶(色を塗り重ねて日常の中を無限に突き進む)
(『シルバーアート ー老人芸術』より抜粋)

創作に必要なもの

年齢を考えることなど馬鹿らしくなるような迫力だ。
仙人のように枯れていない。生々しく、におうように猛烈な生き方をしている。
考えてみると、ピカソも老いてなお創作意欲は旺盛で、生きる事への情熱も衰えなかったという。
『シルバーアート ー老人芸術』に登場する12人の「じいさんたち」も、それぞれひたすらに何かを創っている、もしくは創ろうとしている。
創らないではいられないという感じだ。
12人の中には、有名な人も無名な人もいる。
蛭子能収のようにテレビでしょっちゅうお顔を見る人もいれば、私が初めて知った人もいる。
おそらく、自分が有名か無名かなど気にしていないだろう。
彼らはただ突き進む。
どこに行くかもわからないまま、ただ創る。創って創って創りまくる。

心も裸も真っ裸

心を素っ裸にして、作品として画用紙の上に叩きつける人もいる。
パンツを脱いで、椅子の上に素っ裸で倒立し「裸儀」と言われるパフォーマンスを見せる芸術家もいる。逆立ちしたまま、脚を開いたり閉じたりすると、壁に貼ってある男根図が扇形に姿を表すのだという。
すごい・・・。
見てみたい。
卒倒しそうだけれど見たい。
不思議なパワーを受け取ることができるに違いない。

私、びっくりしたままです

今は亡き父は、年を取るというのは悲しいことだと教えてくれた。
昨日できたことが、今日はできない。
それが年を取るということだと・・・。
さらには、「死ぬのも、簡単なようで大変だ」とも言っていた。
死ぬのにも体力が必要なのだと・・・。
そのときは「何を言ってるの」と、答えたが、今はわかる気がする。
12人の芸術家もやがて自分に死が訪れると知っていながら、いや、知っているからこそ、わがままに奔放に、やりたいことをやっているのだろう。
シルバーアート、それは死の気配を感じつつ生きようとする「じいさんたち」の情熱のほとばしりなのだと思う。
いや~~、すごい。
本当にびっくりした。

(文・三浦暁子)

シルバーアート ―老人芸術

著者:鞆の津ミュージアム
出版社:朝日出版社
「あの世に行くまでヒトは創り出し壊し続ける」……谷川俊太郎
超高齢化社会とともに、アートにも「老人の時代」がやってきた。若者よりも奔放に我が道をゆく、じいちゃん12人の自由すぎる創造。挑戦的な企画で注目を集める「鞆の津ミュージアム」での展示を基に取材・撮影して制作された、未来の芸術=シルバーアート(老人芸術)入門。谷川俊太郎、伊藤比呂美、福住廉、櫛野展正の四氏より寄稿。

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