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なぜ外国人研修生による殺人事件が相継ぐのか?

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いわゆるブラック企業と呼ばれる企業は、構造的に労働を搾取し尽くしておきながらも、労働者から告発されると、ひとまず「一部ではこうでしたが、全体的には押し並べて大丈夫ですので」と、苦い言い訳をする。

「ほとんどの工場では大丈夫」ではいけない

中国にあるユニクロの下請け工場で、劣悪な作業環境で働かされている事実が発覚した問題、ユニクロの柳井社長は「非常にびっくりしているし、残念だ。事実かどうか確認しなければいけない。(中略)中国のほとんどの工場は近代的で最新の設備だ。若い労働者が時間通りに仕事をしている」(ANN News)と発言しているが、この発言の最たる問題点は、「ほとんどの工場では大丈夫」と真っ先に主張してしまったことにある。

海外生産に切り替える日本企業の下請けの現場だけでなく、劣悪な労働環境が日本の隅々にまで広がってきていることは言うまでもない。なかでも、改めて制度の弊害が指摘されているのが、日本で働いて技能を高める目的で3年を最長に外国人が働く制度「外国人技能実習制度」。アジア人を中心に約15万人がこの制度を活用して働いているが、残業代の未払い、長時間労働、仲介業者による高額の保証金など、様々な問題が指摘されている。

月にわずか3万6000円で働かされていた

井口泰『外国人労働者新時代』は2001年に刊行された本だが、この制度の問題点について現在に通ずる手厳しい指摘をしている。外国人技能実習制度は「単純作業ではないこと」が条件とされているが、「専門的・技術的分野の労働者」と「いわゆる単純労働者」の二分法に分けてしまうのではなく、「中間職種」を育成しなければ日本とアジア諸国の両生産拠点を担う人材は成長しないとしている。あくまでも理想型の提示であり、今や現実を楽観視した見解にも聞こえるが、刊行から10数年経とうとも頻出するこの手の問題を見るにつけ、根本からの改善がすっかり放っておかれた事実に改めて気づく。

この本の中で挙げられている具体例は、1999年に千葉県銚子市にある食品組合が、中国人技能実習生の賃金を搾取していた「ロジスティックス事件」。研修手当や給与から税金や保険料だけではなく管理費などの名目を一方的に搾取し、月に14万円程度受け取れるはずだったところを、わずか3万6000円で働かせていた。この本の刊行以降にも、2006年には千葉県木更津市の養豚場で殺人事件が発生、犯人の中国人研修生は週40時間を超える労働で月額6万円程度の給料だったという。2013年には、広島のカキ養殖加工工場で働く中国人研修生が工場の経営者を殺害するという事件が起き、研修生の男は、低賃金や自由が一切認められない拘束された生活を余儀なくされた事を犯行理由に挙げていた。

約8割の事業所で違反があった

これらの研修制度の悪用は、〝ほとんどの〟会社や工場では行われていないはず、とされていた。しかし、厚生労働省が2013年に調査したところによれば、「実習生を受け入れている2318事業所に監督や指導をしたところ、このうち約8割にあたる1844事業所で、残業代の未払いや長時間労働といった労働関連法違反があった」(朝日新聞・1月16日)という。ほとんど大丈夫、ではなく、ほとんどが違法性を持って研修生を働かせていたのである。

これからますます労働者人口が減少する日本社会、外国人労働者をどのようにして受け入れる態勢を作るかは喫緊の課題と言える。しかしながら、10年以上前の著作が今現在の問題点を言い当ててしまうほど、外国人労働者に向ける眼差しは一向に改まらない。

ずっと後回しにされてきた

完全失業率だけを見れば、2011年から2013年にかけて4.6%→4.3%→4.0%と減少しているものの(総務省発表)、派遣社員の増大・正社員の減少に代表されるように、その内訳を見れば諸問題は山積されている。労働問題を考える上で、外国人技能実習制度の見直しについては「それより日本人の労働環境」と政府は後回しを続けてきたが、その後回しの中で相継ぐ事件、そして約8割という違法性を考えれば、真っ先に取り組むべき問題に違いない。

政府の有識者懇談会の報告書では、不正行為のあった団体や企業名を公表する方針が打ち出されており、こういった諸政策が具体的に動き出すことで、井口氏が本書で指摘していた問題意識が、ようやく改善に向かうことを願いたい。

(文:武田砂鉄)

外国人労働者新時代

著者:井口泰
出版社:筑摩書房
本格的な少子・高齢化の時代を迎え、外国人労働者・移民受入れをめぐる議論がいま、注目を集めている。人口問題を移民受入れで解決することは可能なのか?外国人労働者とその家族に、定住への道は開かれるのか?スキャンダルにゆれる外国人研修・技能実習制度を、真に意味のあるものにしていくことはできるのか?欧米諸国の経験もふまえて論点を整理しつつ、アジア諸国と連動した人材開発という新たな視点から、人材国際化への道筋を示す。

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