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極限状況で人間はどこまで耐えられるのか?

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寒いときに息を吐けば、白い湯気が立ちのぼる。体内の水蒸気が冷たい外気に触れることによって凝結するからだ。わたしたちは水蒸気を含んだ空気を吸ったり吐いたりしている。

地上で暮らしているときには、肺のなかの水蒸気と酸素の圧力はバランスを保っている。だから苦もなく呼吸ができる。

山登りで「空気がうすい」と感じるのは、高度が上がる(気圧が低くなる)と肺のなかの水蒸気の圧力が高まるからだ。そのせいで肺が酸素を取りこみにくくなる。すると肺のなかの酸素濃度が低くなってしまう。息苦しくなる。

なぜ酸素マスクが必要なのか

民間旅客機は高度1万メートル地点を飛行している。エベレスト山頂よりも高いのに、乗客が苦もなく呼吸できるのは、機内の空気を地上と同じになるよう加圧しているからだ。

もしも飛行機の窓が割れたり機体が裂けるようなことが起きれば、急激に気圧が下がってしまう。すると肺が酸素を取りこみにくくなる。酸素マスクが役に立つ。

民間航空機は一般に高度一万四〇〇メートル付近を飛行する。この高度で機体の窓が吹き飛ばされると、客室内の空気が轟音をたてて一気に外へ噴き出し、外気と同じ気圧まで下がるだろう。
(中略)
すぐに酸素マスクを着用しなければ命にかかわり、肺の中の酸素が急激に減少して、三〇秒で意識を失うはずだ。

(『人間はどこまで耐えられるのか』から引用)

人間はどこまで耐えられるのか』(フランセス・アッシュクロフト・著/河出書房新社・刊)によれば、飛行機事故のときに酸素マスクが必要な理由は、肺のなかを占めようとする水蒸気を押しのけて、加圧された「純粋酸素」を肺に取りこむためだという。

無事に酸素マスクを着用できたとしても、なるべく動かないほうが良い。筋肉を動かすときにも酸素を消費するからだ。航空機事故では、わずかな酸素が生死を分ける。

あるパイロットはコックピットが急減圧したはずみで眼鏡を落とし、酸素マスクを着用する前に眼鏡を拾おうとかがみ込んだため、そのまま意識を失った。

(『人間はどこまで耐えられるのか』から引用)

水の中でどこまで耐えられるのか

墜落する航空機に乗り合わせたとしても、あきらめないでほしい。海や運河などの水面上にソフトランディング(軟着陸)すれば、もしかして生還できるかもしれない。

確実に泳いでたどりつけそうな場所が近くに見えればラッキーだ。ただし、海のなかで服を脱ぎ捨ててはいけない。

なにもかも脱ぎ捨てて、身を軽くして泳ぐスピードを上げようと考えるのは誤りだ。あっというまに体温がうばわれてしまうからだ。

水中では体の熱がかなり急激に奪われる。水は熱伝導率がとても高く(空気の二五倍)、二〇℃以下の水に浸かっていると体から熱がどんどん放出され、低体温症で死ぬのだ。

イギリスでは七月でも海の平均水温は一五℃で、裸なら二、三時間が限界である。一月には水温が五℃まで下がり、三〇分ももたない。ほぼ氷点に近い温度では一五分で低体温症になり、三〇~九〇分で死ぬだろう。

(『人間はどこまで耐えられるのか』から引用)

海に投げ出されたときには、救命胴衣を身につけて、じっと浮かびながら救助を待つのが賢いやり方だ。低体温症になるのを遅らせることができる。もがいたり泳いだりすれば、そのぶんだけエネルギー消費が増えて、生命維持に必要な体温が保てなくなる。

宇宙ではくしゃみが止まらなくなる

飛行機が墜落しても、生還できる可能性はゼロではない。しかし、宇宙航行中に外へ投げ出されたら命は助からない。内臓と鼓膜が破裂して、全身が凍りついて、15秒ほどで絶命するらしい。

たとえ事故にあわなくても、宇宙船のなかで過ごすだけで一苦労だという。

スペースシャトル内は無重力なので、空気が対流しない。オナラは「かたまり」のまま留まり続けるらしく、まるで透明な爆弾のようなものだ。吐いた息にふくまれる二酸化炭素も同様であり、顔のまわりに溜まっていることに気づかなければ、いきなり窒息するおそれもある。

意外に知られていないのが「くしゃみ」についてだ。

人間の皮膚は一日に一〇〇億個のかすをばらまく。
(中略)
宇宙空間では、呼吸する空気の中をごみの粒子が漂っている。宇宙飛行士は頻繁にくしゃみをして、ときには一時間に三〇回も出るという。汚れた空気のせいで目の痛みを訴える人も多い。

(『人間はどこまで耐えられるのか』から引用)

NASAは空気清浄機を研究しているらしいが、もっと良いものがある。テレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』に登場する「コスモクリーナーD」だ。放射能を除去できるくらい高性能な空気清浄機なので、宇宙飛行士たちを悩ませているくしゃみを完全に止めることができるはずだ。人類よ、イスカンダルへ急げ!

(文:忌川タツヤ)

人間はどこまで耐えられるのか

著者:フランセス・アッシュクロフト(著) 矢羽野薫(訳)
出版社:河出書房新社
死ぬか生きるかの極限状況を科学する!どのくらい高く登れるか、どのくらい深く潜れるか、暑さと寒さ、速さなど、肉体的な「人間の限界」を著者自身も体を張って果敢に調べ抜いた驚異の生理学。

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