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自分は自分。自信を持ってそう言いたい。

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身長。体重。髪の毛の量や色。家や車その他の持ち物。あるいは収入、学歴。人は何かにつけて、自分と誰かを比べたがる。比べるだけで帰結するなら、それはそれでいい。でも、そうはいかない。優越感を覚えたり、逆にえらくへこんだりする。

ヘルメス哲学

幸福感に関しても、相対評価で考える人の数が圧倒的に多い気がする。人間は、自分と誰かを比べることでアイデンティティを強く感じる唯一の動物かもしれない。比べた結果が自分にとってポジティブなものであっても、ネガティブなものであっても。
1908年、『キバリオン』という本が出版された。古代エジプトの思想家ヘルメス・トリスメギストスが拓いたヘルメス哲学について詳しく触れた内容だ。
ヘルメス哲学は7種類の原則を軸に展開する。その中に〝極性の原則〟というのがあって、エッセンスを短く表現するなら、「正反対に位置するふたつのものの違いは、度合いに過ぎない」という言い方になる。
たとえば、熱いと冷たいは温度という尺度の両極端に位置している。ところが、二つの極の間には数えきれないほどの細かい目盛りが存在し、どちらかの極に立って考えることによって、より冷たいとか、より暖かいという点が決まる。

お金を尺度にして考えてみる

お金という尺度で言えば、性質がまったく異なる二つの極は、裕福と貧困だ。もちろん、その間に数えきれない目盛りが存在する。自分の状態はどの点と重なるか。あるいは、ほかの誰かと比べる時、自分と相手の差はどのくらいあるか。差があるなら、それをどう解釈するか。そして、自分なりに納得できるようにするためには何をしたらいいか。
貧困という一端だけに意識を向けていると、基準がより貧困に近い一点に置かれてしまう。裕福よりの一点に意識を据えれば、そこが基準となる。そして、どこに基準を置くにせよ、二つの極はそれぞれの方向にどこまでも延びていく。キバリオンはこう説く。
「意識の変化は、両極にはさまれた目盛りの度合いを少し変えるだけで起きる」

EQ=心の知能指数

1990年代の終わりあたりから、EQ(Emotional Intelligence Quotient)というワードが注目を集め始めた。対極という言葉とはややニュアンスが違うが、IQ(知能指数)に対抗する指数として発表されたEQは、人間関係のスキルや自分自身の感情をコントロールする能力の指標として用いられる。
理論構築を行ったピーター・サロベイとジョン・D・メイヤーはEQを「自分と他人の感情を観察し、区別し、それを自分の考え方と行いを方向づける情報とする」と定義づけ、これを行うため、4つの領域を設けた。
(1)Identity=感情の識別:自分と相手の感情をそれぞれ認識して区別する
(2)Use=問題解決の手法として感情を用いる
(3)Understand=感情発生のプロセスと変化を理解する
(4)Manage=感情をツールとして望ましい行動を模索する
すべきは比較ではなく、自分の感情を認識し、区別することなのだ。

ゆとりからさとりへ

1980年から2010年代はじめまで実施されたゆとり教育により、学校教育のカリキュラムから競争的要素が大幅に削られた。それ以前の世代の人たちは、生きる限り大小さまざまな競争があるのは当たり前というメンタリティーの中で育ったので、職場でもコミュニケーションギャップが絶えなかったようだ。
ゆとり教育で培われた〝欲も競争心もない〟といわれるスタンスの人たちには、その後〝さとり世代〟というキャッチフレーズがあてがわれ、この言葉は2013年の新語・流行語大賞にもノミネートされた。堅実に生き、決して高望みをしない。それがこの世代のステレオタイプとされている。
ただ、この世代の人たちだって、競争という行いには進んで打って出ないものの、その前段階である比較もまったくしたことがないというわけではないはずだ。

比べちゃうよ。人間だもの。

人間が、自分と誰かを比べることでアイデンティティを強く感じる唯一の動物なら、それはそれで受け容れて、自分なりに納得できる方法を模索すれば楽になる。
『比べずにはいられない症候群』(香山リカ・著/すばる舎・刊)は、比較という人間の性を受け容れた上で、結婚や恋愛、見た目、人間関係、ライフスタイルにまつわる比較心への対処法をさまざまな角度から紹介してくれる。
香山さんは、以下のような「比べあいの法則」を紹介している。

・常に自分より恵まれている人、幸せな人と比べる
・自分が恵まれているかも、幸せかも、ということは目に入らない
・相手は「幸せに見える」というだけで、本当は違うかもしれないなどとは考えられなくなる
・自分がいまの生活に満足していても、「あの人のほうが上」という相手が見つかるとすぐに比べあいをしてしまう。

『比べずにはいられない症候群』(香山リカ・著/すばる舎・刊)より引用

この間見たバラエティ番組で、マツコ・デラックスさんが「望むから苦しい」という旨のコメントをしていた。誰かと自分を比べ続け、「あの人みたいになりたい」、「ああならなければ」と望みながら生きるのは、確かにきつい。
比べるけど、望まない。だから、競わない。さとり世代の生き方は、まさにヘルメス哲学を体現しているように思える。

(文:宇佐和通)

比べずにはいられない症候群

著者:香山リカ
出版社:すばる舎
「あの人は幸せそうなのに、自分は……」「私の人生、こんなはずじゃなかったのに……」――自分にないものを他人が不自由なく持っているように見えたときに襲われる、「みじめ」「悔しい」「私ってダメだ」の感情。さらに、嫉妬している自分にも嫌悪感。そして、鬱々とした状態へ……。そんなスパイラルにハマっていませんか? 結婚・恋愛、子ども、友人・親子関係、お金、仕事、向上心、メンタルの強さなどなど、日常で巻き起こるさまざまな「比べあい」を考察。周りの雰囲気や他人の基準に振り回されずに、肩の力を抜いていろいろな視点から考えてみましょう。必要以上に「自分のせい」だと思わされる〈比べあい地獄〉から脱出するだけで、あなたのココロもきっとラクになりますよ。

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