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中堅くらいのマンガ家が悩んでいること

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カラスヤサトシ・カレー沢薫・福満しげゆき。わたしのマンガ史観では、これらの面々を「2010年代における自虐マンガの御三家」と位置づけている。かれらに共通するのは、同時代を屈託もなく生きる「リア充」たちに対する敵対心ならびに劣等感だ。

カワイイは作れる。そう、カレー沢薫ならね(http://fum2.jp/5799/)

なかでも福満しげゆきは、対人関係の悩みをかかえて高校を中退したのち、女性関係において鬱屈した青春時代を送らざるをえなかった無念をいまだに忘れておらず、いわゆる「こじらせ」を原動力にして面白い作品を生み出している。いま注目すべきマンガ家のひとりだ。

不安を「妻」に相談してみたら……

とにかく朝起きたときの不安感がひどくて、その理由は、要は「将来などの先行き不安」なのですが……。だってですね、なんとか頑張って40歳のときにマンガを描いているというのは、さすがに頑張り次第では、まだ可能性もあるように思います。しかし40歳のときなんとか現役でいれても、長男はまだそのとき7歳ですよ? 僕的なジャンルの人が50歳まで現役でマンガ家でいられる可能性は、どれくらいあるんでしょうか……。

(『僕の小規模なコラム集』から引用)

これは、福満しげゆきの書き下ろしコラム集『僕の小規模なコラム集』(福満しげゆき・著/イースト・プレス・刊)に収録されている一文だ。絵心だけでなく文才もあるカレー沢薫と同様に、福満しげゆきの書く文章はおもしろい。

福満しげゆきは既婚者であり二児の父親でもある。溺愛と言ってよいほどの愛妻家で、あるとき奥様に「将来が不安であること」を打ち明けたという。かえってきた答えは「みんな今は不安さ。先行きがわからないのも、今はみんな同じさ」というものだった。しかし、福満さんの気持ちはおさまらない。

異才・福満しげゆき

みんなが不安だからといって僕の不安が解決するわけでもないですし、「みんなの不安」と「僕の不安」になんの関係があるんだ

(『僕の小規模なコラム集』から引用)

じつは、こういう「おとなげない」「身もフタもない」言動ならびに作風が、福満しげゆきの最大の魅力だ。わたしたちが社会性や常識という建前によってみずから抑圧している「心情」を代弁してくれるのだ。福満しげゆきのマンガを読めばカタルシスを得られる、と言っても大げさではない。大好きだ。

福満しげゆき。1976年東京生まれ。月刊漫画ガロに投稿した『娘味』が入選してプロデビューする。ガロ版元である青林堂の内紛騒動に巻き込まれるが、後継誌「アックス」に連載していた『僕の小規模な失敗』が好評を得る。(コラム集の題名は、この出世作のタイトルを踏まえている)

『失敗』の内容は、福満しげゆきの自伝的漫画だ。おなじガロ系のつげ義春作品群や有名な『まんが道』などは、一世を風靡した人気漫画家の秘話やプライベートを明かしたものだった。しかし『失敗』連載当時の福満しげゆきは、ほとんど無名であったにもかかわらず人気を博した。若くして入籍した「肉感ボディの美人妻」との同居生活がユーモアまじりに活写されていたからだ。

正統派ガロ系マンガ家の活躍

快進撃がはじまる。日本一のマイナー漫画誌に掲載されていた『僕の小規模な失敗』の続編が、日本で1、2を争うメジャー漫画誌である「週刊モーニング」誌上で連載されることになったのだ。新たに『僕の小規模な生活』というタイトルで、連載は2006年から2012年までの約6年間つづいた。(2016年2月現在は休載中。既刊6巻)

『僕の小規模な生活』連載開始の翌年である2007年からは、双葉社の「漫画アクション」誌上において『うちの妻ってどうでしょう?』の連載がスタートする。『~生活』と同様にコミックエッセイ形式の作品であり、おもに「福満妻の奇妙な生態」を描いている。多くの読者を得て、第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門奨励賞を受賞している。全7巻。

ふたつの作品に共通するのは「いま読者が読んでいる漫画を描いている漫画家とその妻の生活を描いているコミックエッセイ」という点であり、桜玉吉の『漫玉日記』と同じ系譜ということもできる。(福満作品においては妻の存在が救いとなっている)

さらに付け加えるならば、おなじガロ出身の漫画家でありロッテ「小梅ちゃん」のパッケージデザインでおなじみ林静一が描いた同棲ものマンガ『赤色エレジー』のテーマと味わいを隔世遺伝しているようでもある。

ブレイクの日は近い!?

毎日が不安でいっぱいの福満しげゆき先生だが、現在も連載を数本抱えているほどの人気マンガ家だ。出世作は「日常雑記マンガ」だったが、すぐれたストーリーマンガの作り手でもある。

「Dモーニング」連載『就職難!! ゾンビ取りガール』、「週刊ヤングマガジン」連載『中2の男子と第6感』では、作者同様にこじらせた登場人物たちが活躍する。特に『中2の男子と第6感』は、あたかも『ジョジョの奇妙な冒険』のバトルシーンのような緊張感と「次話の展開をはやく読みたい!」という、わたしたち読者を渇望させる面白さがみなぎっているマンガだ。まさしく作者にとっての新境地であり、当コラム冒頭で引用した「僕的なジャンルの人が50歳まで現役でマンガ家でいられる可能性は、どれくらいあるんでしょうか……」という悩みなんて杞憂だと言い切れるほど、いまの福満作品は脂がのりきっている。

実力を証明するかのように、2015年には、福満しげゆきの過去作品である『娘味』が映画化された。『生活【完全版】』も今年の5月に公開が予定されている。個人的には『中2の男子と第6感』の斬新な設定やストーリー展開はとても魅力的なので、もしも映像化するならば、連続テレビドラマ(アニメ)に向いた作品だと思う。1~2年以内には観てみたいという願望まじりの予言をここに残しておきたい。

(文:忌川タツヤ)

僕の小規模なコラム集

著者:福満しげゆき
出版社:イースト・プレス
『僕の小規模な生活』『うちの妻ってどうでしょう?』などで人気の漫画家・福満しげゆきが、すべてのコラムを書籍用に書き下ろし! 童貞、AV、恋愛、いじめ、体罰、就活、原発、ネトウヨ、生活保護、そして漫画……さまざまな問題を不思議な視点で綴る「福満節」全開の一冊!

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