ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

カラスが人を襲うのには、いつだって理由がある

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

人は押し並べてカラスが嫌いだが、なかでもカラスを嫌っていたのが、元・東京都知事の石原慎太郎である。2001年にカラス対策プロジェクトをスタートさせ、トラップによる捕獲と巣の撤去を繰り返し、わずか数年で4万羽近く確認されていたカラスを、半減させてしまった。

「カラスのミートパイ」を東京名物に?

このプロジェクトが発足した当時、「日本野鳥の会」が石原都知事に対して要望書を提出している。「東京においてカラスと人との軋轢を減らすための都知事への提言」というもの。人と鳥の関係性を説明するのに「軋轢」とは、いかにカラスが嫌われているのかを教えてくれるが、この提言の骨子は「カラスを減らすには捕獲ではなく餌となる生ゴミを減らすほうが先決ではないか」という内容。野鳥の会は「莫大な費用と労力をかけて、毎年、駆除しつづけても、食料を減らさなければ、実際に個体数を削減することには結びつきません」と真っ当な指摘をしたのだが、石原の気はおさまらなかった。TOKYO MXの番組でカラス料理を作って試食するという試みを行い、唐揚げに黒コショウ炒めにミートパイと、カラス料理を食べ尽くし、「カラスのミートパイを東京名物として売り出したらどうか」と提案した。

東京の朝は、カラスに餌やりをしているようなもの

と、以前、石原慎太郎について調べた時に知った上記のエピソードを思い出しながら『うち、カラスいるんだけど来る? カラスの生態完全読本』を読むと、野鳥の会の要望書にあった「カラスを減らすためには駆除ではなく生ゴミを減らすべき」という指摘はまったく正しかった事がわかる。

カラスが東京に住みつくのはエサの確保が容易だから。毎日のようにエサがこれだけ新入荷(=生ゴミ)される繁華街も珍しい。大阪では夜のうちに生ゴミを回収し、カラスの被害を最小限に食い止めているが、わざわざ中身の見える半透明のゴミ袋で生ゴミを大量に出し続ける東京の朝は、カラスに餌やりをしているようなもの。

目が合うと襲ってくる、という勝手なイメージ

意外と知られていないが、カラスは広い森をねぐらにしており、たとえエサが豊富にあろうとも、ただそれだけで大都会に住みつくことは出来ない。その点、東京には広い森が点在しており、本書で紹介されている調査(2011年)によれば、カラスの三大ねぐらとして、明治神宮に3481羽、国立科学博物館付属自然教育公園に2169羽、豊島岡墓地に2078羽の個体が確認されている。2020年の東京五輪の招致資料には「自然環境と共生する快適な都市環境」が打ち出されているが、カラスがこれだけ街中にいる、というのは、近場に豊かな環境が約束されている、という証しでもあるのだ。

とはいえ、カラスは嫌われる。主な理由は「ズル賢さ」と「人に対する攻撃」だろう。カラスは賢い採食活動を行っており、「レバー式の水道の蛇口を、クチバシで開けて水を飲む」こともあれば、「木の枝を使って倒れた幹の奥深くにいる虫を捕獲する」こともあれば、「クルミを道路におき、車に踏ませて割らせる」こともある。なんと賢い鳥なのだろう。人に対する攻撃は理由があり、なにも無差別に攻撃してくるわけではない。人を襲うのは「巣に興味を持たれた」と判断した場合のみ。ヒナの近くや、巣より高い場所から巣を覗き込んでいると誤解されなければ襲われることはない。ゴミ箱をあさっている最中のカラスと目が合うと襲ってくる、というような勝手なイメージも先行するが、そこまで好戦的な鳥ではない。

カラスが嫌われるのは、セールスポイントが無いから

平和の象徴とされるハトの死骸を食べる光景(時として生きたハトを襲う事も)が残虐な鳥とのイメージを高めさせてしまうが、動物が動物を食べるという食物連鎖をカラスの場合にのみ嫌悪するのは酷だ。著者も書いているが、カラスが嫌われるのは、セールスポイントが無いから。「ココがキュート」と売り出すポイントを持たずに、人間の生活にずけずけと踏み込んでくるから、どこまでも嫌われてしまうカラスの苦難。むしろ「カラスは現代人の写し鏡」なんだと言い切る著者の主張は、どこまでも理に適っている。カラスを見る目がすっかり変わってしまう一冊だ。

(文:武田砂鉄)

うち、カラスいるんだけど来る? カラスの生態完全読本

著者:柴田佳秀(著) 中川学(著)
出版社:実業之日本社
カラス越しに消えた恋…。涙と笑いの物語を通して、カラスの暮らしぶりがよ~くわかる! 収入はそこそこ、だけど住まいはワンルーム。脂っこいものが大好きで野菜は苦手…。都会に住む若いサラリーマンとほぼ同じライフスタイル。そんなカラスたちは日々何を考え、何を目ざしているのか…。科学ジャーナリストであり、鳥類学全般、特に都市鳥・カラス類について詳しい柴田佳秀先生が監修。理論解説ページも読みやすくて楽しい文章で、まだ謎の多いカラスの本当の生態を解説します。漫画は中川学先生の渾身の作品。都会に住む独身のサラリーマン・鈴木つよしの住まいに突然やってきたカラスの藤岡ユマと拓との交流を軸に、出会いと別れ、そしてカラスの本当の姿を描いたストーリーに仕上がっています。 ※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、予めご了承ください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事