ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

あなたは、自分のことを「優秀な人間」だと思っていないだろうか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

あなたは、自分のことを「優秀な人間」だと思っているだろうか?

 

世の中には、いつも自信に満ち溢れていて、自信を持って発言をし、行動をしている人たちがいる。一方で、常に不安で、謙虚で、発言や行動も慎重な人たちが存在するのも事実だ。

ここに一つの興味深い理論がある。

デビッド・ダニングとジャスティン・クルーガーが提唱した、「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれる理論は、平たく言うと「能力のない人間ほど自信にあふれ、能力のある人間ほど自身の能力を疑い、思い悩む」というものだ。職場で、他人の言動に対して違和感を覚えたり、不快に感じたりすることがある場合、それは、その人の自己評価と他者からの評価に乖離があることから説明がつくことが少なくないだろう。会議で自信満々にとんちんかんな発言をする人を私たちはよく目にする。

しかし、問題もある。自分が「自信にあふれた能力のない人間」になっているかどうかは、自分では非常に気がつきにくい。

このような状況に陥らないためにはどうしたらいいのだろうか。もちろん、常に謙虚でいようと心掛けたり、自分を客観的に見ようと気をつけたりすることは大事だ。また、自身の自信のよりどころとなる勉強を欠かさないようにすることも重要だろう。

だが、一番大切なことは、そのような(能力がないのに自信に満ち溢れた)状態に陥った人間とはどのようなものなのかをよく知ることではないだろうか。

実は、この「自分のことを過大評価している人間」というのは、古今東西文学のモチーフになることもしばしば。この文章を書いている私(芥川)の大好きな作家の一人で、“パスティーシュの名手”と呼ばれる清水義範も「人材発見システム」(「昭和御前試合」ほかに所収)の中で、自分を優秀だと勘違いしたサラリーマンが、会社から特別な試験を受けさせられ、それを出世する人間だけが受けることのできる特別な試験だと思ったが、実はそれは「本当に優秀な人間と、自分を優秀だと勘違いしている人間を選別する」試験だった、という内容の小説を書いている。

自分を優秀だと勘違いした人間が追い詰められる

そんな「勘違い人間」を表現した小説の中でも最高峰といえるのが、ロシアの大作家・ドストエフスキーの「罪と罰」だろう。

19世紀のロシア帝国の、当時の首都であり、ドストエフスキーの出身地でもあるサンクトペテルブルグが小説の舞台。貧困で大学を辞めた頭脳明晰な青年、ラスコリニコフが主人公だ。

彼が在学中に書いた論文は「選ばれた天才には法律なんてカンケーない」という内容。

“天才とはナポレオンやマホメットのような世界に新しい革命を起こす独創的な人間で、新世界を作るためなら人を殺してもいいし新たな法律を作る権利も持っている”

ラスコリニコフは、貧困に追い詰められ、自分のいる境遇を呪い、理不尽に感じ、金貸しの老婆を暗殺して金を奪うことを計画する。

「自分は天才だから許される」という自分勝手な論理だけを免罪符に。

 

ふと入った酒場で知り合った元役人が、娘を娼婦にしてまで酒を飲むところを見てラスコリニコフは元役人を軽蔑するが、妹が自分の学費を得るために金持ちと結婚させられると聞き、その元役人と自分は一緒ではないかと自己嫌悪し、さらに老婆を殺す意を強くする。

 

そしてついに殺人を犯す。しかし、その場に偶然居合わせた老婆の妹も殺すことになってしまう。

 

ラスコリニコフは、良心の呵責や、雑誌に掲載された彼の論文に興味を持ち、彼を追い詰めていく判事ポルフィーリからのプレッシャーに襲われ、徐々に平静を保つことができなくなっていく。

 

悪夢にうなされる日々。夢の中で、一緒に殺してしまった金貸しの妹に言われた台詞が次のようなものだった。

“(あんたの正体は)自分以外の人間を軽蔑して……自分の考えだけを正しいと勘違いし、自分が将来英雄になれると思い込んでいる、世界中にごまんといる凡人の中のひとりさ!”

このように、自分が優秀なのかどうなのかや、殺人を犯したことに対する自己弁護(いいわけ)と犯してしまった罪に対する後悔など、複雑に行きつ戻りつするラスコリニコフの心象風景を描きながら物語は進んでいく。

世界中の名作をカジュアルに楽しむ

ところで、「罪と罰」といえば、新潮文庫版で上下巻1000ページ以上にもなる大作。いざ読もうと思ってもおいそれと手に取ってみようと思えるものではないかもしれない。実は私(芥川)も中学生の時に上巻だけ買ったものの途中で挫折したクチだ。そんな時は今回紹介するこの「罪と罰 まんがで読破」が手軽で便利だろう。このシリーズ、文学作品のみならず、マルクスの「資本論」やフロイトの「夢判断」など、「名前は聞いたことあるけど内容はよく知らない、でも、もしかしたら知っておいた方がいいかもしれない」という作品が100以上ラインアップされている。難しい内容でもマンガならスッと入ってくるということもあるので、興味のある作品があるかチェックしてみることをオススメしたい。

(文・芥川順哉)

罪と罰 ~まんがで読破~

著者:ドストエフスキー(著) バラエティ・アートワークス(著)
出版社名:イースト・プレス
これほど自分だけが絶対と信じる人々はかつていなかった。 ロシアの国民的作家、ドストエフスキーが描いた、「現代の預言書」とも呼ばれる文学の最高峰を漫画化! 頭脳明晰な青年ラスコリニコフは独自の倫理観に基づき、強欲な金貸しの老婆を殺害し、目撃者のその妹まで殺してしまう。想定外の事故、良心の阿責、警察の捜査の影に怯え始めるラスコリニコフ。自首か、逃亡か。娼婦ソーニャの生き方に心を打たれた彼の選んだ結末は……? ドストエフスキー(1821~1881) モスクワ出身。処女作『貧しき人々』で文壇の寵児となるが、空想社会主義サークルとの関与で逮捕され、シベリアに投獄される。出獄後は持病の癲癇に苦しみながら締め切りに追われる作家生活を送った。ロシア文学の最高峰、国民的作家である。その他の作品に『カラマーゾフの兄弟』などがある。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事