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「因幡の白兎」のお話だけではない古事記

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2月11日は建国記念の日。
国が建てられたことを記念し、国を思う日である。
この日が来る度に思う。
「古事記を読まなくちゃ」と。
日本で生まれ、日本で育ち、日本を好きだと思って暮らしている私である。
日本が誇る最古の歴史書『古事記』を読んだことがないのは、もったいないし、怠慢だし、恥ずかしいことだと思う。思ってはいる。
今までも古事記を手に取り、厳かに読み進めようとした。したことはしたのだ。
が、しかし・・・。

のっけから挫折する理由

今までとっつきにくい本も読んできたつもりだが、『古事記』は、最初の段階で挫折してしまう。そして、「ま、来年の建国記念の日までは読破しよう」と、呟きながら、パタンと閉じるを繰り返してきた。
書き出しから、挫折する理由はいくつかあるが、 とにかく、名前が難しい。
登場人物の名前さえ読むことができないようでは、理解するのはもちろん、楽しんで読むなんて夢のまた夢だと、しょんぼりしてしまう。

『古事記』の上巻、宇宙の初め、まだ天も地も混沌としていた時に、登場するのは以下の三神。

初めに、天御中主神(アメノミナカヌシノカミ)
次に、高御産巣日神(タカミムスビノカミ)
および、神産巣日神(カミムスビノカミ)

この三柱の神は、みな獨神と成りまして、身を隠したまいき

・・・めげる。
最初から、よくわからない。

古事記、漫画で読めばこわくない

それでも、「今年こそは古事記を楽しもう」と、私は決心し、まずは漫画で読 むことにした。
漫画だと、登場人物の顔がはっきり描かれているから、いちいち悩まなくてす む。
ロシア文学のカラマーゾフの兄弟も、名前を覚えるのが大変だったが、1人1人の顔を想像しながら読むようになってからは、楽しめるようになった。
だったら、登場人物の顔が特徴的に描かれ、なおかつ、学生達が古事記につい て勉強していくといった形の『古事記 ~まんがで読破~』(太安万侶、バラエティ・アート ワークス・著/イーストプレス・刊)がいい。
挫折すること なく、読み進むことができる。

こわいのは最初だけ

で、わかったのだが、『古事記』は最初が一番、とっつきにくい。
日本人の祖先は、西洋人の多くがそうであったように、最初から唯一の神がいて、世界を意のままに創造したとは考えなかった。
神が出現する以前に「無の時間」と呼ぶべき時間があったとしているのだ。
あ、なるほどね。
私はカトリックの家に生まれ、聖書が身近にある環境だったので、とくに理解しにくかったのかもしれない。
しかし、難しいからと言って、逃げ腰でいるのはもったいない。古事記は抜群に面白い読みものだ。
それだけではない。
あまたの登場人物がまぐわい、はらみ、子を増やしていく。
そこにあるのは、激しい愛情であり、憎しみであり、圧倒的な肉欲だ。

黄泉の国へのストーカー

まぐわいの話に興味津々となれば、古事記はひたすらに面白い書物だ。
最初の関門さえ通過すれば、私達にもなじみのあるお話が待っている。
人類の祖先であるイザナギ・イザナミのシーン。
女性であるイザナミから誘ってまぐわったために、最初は失敗に終わった国生み神話。
後に、無事、子供を生むことができたイザナミだったが、火の神であるヒノカグツチを出産したとき、火傷をして死んでしまう。
妻を喪ったイザナギは、妻の死の原因となった我が子を殺害し、それでも、あきらめきれず、イザナミを黄泉の国まで追いかける。
そして、見てしまうのだ。見てはならないものを・・・
それは妻の腐乱した姿だった。
イザナギは驚き、自分の身が穢れたと感じ、みそぎ払いを行う。
妻恋しさに、禁じられても無理矢理追いかけていったはずなのに、である。
「それってどうなの?ストーカーまがいのことしておきながら」と、言いたくなる。

ネバーエンディング・ストーリー

その後も次々と物語が連なる。ネバーエンディング・ストーリーと呼びたくなるほど、八百万の神々が縦横無尽に暴れまくる。
古事記と言えば、オオクニヌシの尊がウサギを助ける「因幡の白兎」の話が有名だ。
他にも、姉のアマテラスと弟のスサノオの間に起こるもめごとや、八俣の大蛇との戦いなどもよく知られている。
私はこれまで八俣の大蛇の話を荒唐無稽なおとぎ話として楽しんでいたが、実は自然と深く結びついた物語だとも考えられるという。
八俣の大蛇は川の氾濫を象徴していて、スサノオが灌漑の技術を駆使して、毎年、田畑を襲う氾濫を解決した物語としても読み取れるのだそうだ。

読破なるか?

日本最古の歴書として名高い古事記。
そんな大切な書を、私はこれまで「読み始めてすぐにめげてしまう書」と、感じてきた。
けれども、実は、『古事記』とは、ものすごい数の神様のカタログであり、日本というものを理解するための優れたガイドブックでもあった。
何よりも、人間の持つ欲を隠すことなく描いた一級のエンターテイメントだったのだ。
やはり、古事記は読んで損はない書物だ。
勉強のためでもなく、建国に思いを馳せるためでもない。
ただただ面白いから読む、それが古事記であったのだと、今回、気づいた。
こうなったら、全話読破を目指したい。

(文・三浦暁子)

古事記~まんがで読破~

著者:太安万侶、バラエティ・アートワークス
出版社:イースト・プレス
1300年前から読み継がれる日本の原点! もはや教育の現場から姿を消した「神話」。なぜ神話が存在し、人々は神を崇めるのか?古来より人々は歴史を神話に例えて語り継いできた。それを日本で初めて文字として書き記したのが文官・太安万侶である。有史以来、長い日本の歴史を紐解くべく、数世紀にわたる編纂を経て伝えられてきた日本最古の歴史書のひとつを漫画化! 太 安万侶 奈良時代の文官。天明天皇の勅をうけ、稗田阿礼が暗誦していた『帝紀』『旧辞』を基に『古事記』を筆録したことで名高く、『日本書記』の編纂にも関わっていたとも言われている。1979年に奈良市此瀬町の茶畑から墓が発見されるも詳細はわかっておらず、現在も研究が進められている

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