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「たられば」が広げるバーチャルな世界

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アメリカでは、インターネットを舞台にファンタジー・ベースボールやファンタジー・フットボール、そしてファンタジー・バスケットボールといった遊びが盛んにおこなわれている。 実在するプロスポーツの実在選手を組み合わせてオリジナルチームを作り、選手が本物のシーズンで残す記録を基に成績を競う。実在選手を主役にしたバーチャルリアリティを楽しむという趣の遊びだ。

『ウィニングイレブン』と『ベースボールライブ』

以前、フムフムの別のコラムでも触れたが、筆者はサッカーゲームの『ウィニングイレブン』シリーズをこよなく愛している。ファンタジー・サッカー以上のものをごく気軽に楽しめるからだ。自分なりの日本代表、そして古今東西大好きな選手ばかりを集めたドリームチームを作り、ワールドカップはもちろん、セリエAやプレミアリーグで大暴れできる。
『ベースボールライブ2005』という野球ゲームを相当やり込んでいるのも、同じ理由だ。発売されたのは約11年前だが、さまざまなモードのやり込み要素が強く、まったく飽きない。 いずれのゲームも、絶対に実現しない対決を楽しんだり、あり得ない組み合わせの選手で最強チームを作ったりできる。筆者と同じ思いで、どちらかあるいは両方のゲームをいまだに捨てられないでいる人も多いのではないだろうか。

猛獣もし戦わば

ファミコンが発売されるはるか昔の話。媒体こそ違うものの、筆者のバーチャルリアリティ的妄想をかき立ててくれる『猛獣もし戦わば』という本に出会った。1970年出版の初版だから、まだ小学生の時だ。 内容は〝ライオンvsトラ〟というメインイベント級から〝ホッキョクグマvsセイウチ〟という海洋対決、そして〝ピューマvsジャガー〟という同門対決的な戦いまで22試合を網羅した一冊だ。 後になって見ることになる1976年のアントニオ猪木vsモハメド・アリの異種格闘技対決、そして1994年に行われた日本プロボクシング史上最高のドリームマッチと言われた辰吉vs薬師寺戦にも似た高揚感を覚えたのは、この本を読んだ時が初めてだった。

〝たられば〟はほんとうにタブーなのか

この言い回しは、およそすべての勝負事においてタブー視される。あの1球がど真ん中に入っていなければ。あの場面でシュートが決まっていれば。あの時4六銀を打っていなかったら。自模った九萬をそのまま切っていたら…。 確かに、歴然として出ている結果に対して後悔するような、ネガティブな気を発するキーワードとして使うなら間違いだ。
でも、自分が成し遂げられたかもしれないことの可能性についてポジティブに顧みるためなら、あるいは同じ過ちを犯さないためのキーワードとして意識するなら、タブー視するのはむしろおかしい気がする。
「たられば」は勝負の世界に限ったものではない。これまで誰もがしてきたどの選択にも別のオプションがあったはずだ。実現しなかった別のオプションのその先に、バーチャルリアリティな世界が広がっている。

〝たられば〟が生むもうひとつの世界

ポジティブだとかネガティブだと区別したり、いろいろな理由を付ける前に、〝たらればの世界〟は単純に楽しい。『猛獣もし戦わば』以来の興奮を字面で感じさせてくれたのが『プロ野球「もしも」読本』(手束仁・著/イースト・プレス・刊)だ。

・もし金本知憲が阪神に来なかったら
・もし巨人が星野仙一を指名していたら
・もし清原和博が即巨人入りしていたら
・もし野村克也が南海監督を続けていたら
・もし江夏豊が「伝統の試合」で負けていたら

彦摩呂さんほどたとえがうまくないのはわかっている。でも、あえて言う。プロ野球というお重に「たられば」というレシピを活かしたさまざまなおかずを詰め込んだ花見弁当だ。日本プロスポーツの代表格であるプロ野球のタブーを取り扱う姿勢については、まえがきに次のように示してある。

そう、起きてしまった結果に対しては、なんだっていえるのである。しかし、私たち野球ファンにとっては、あえていけないはずの「たら、れば」の話がおもしろくて楽しいのも、またたしかである。 『プロ野球「もしも」読本』より引用

手束仁さんは、起きたこととは異なる選択肢を当てはめるシミュレーションのキーワードとして「たられば」を選び、話を進めていく。シミュレーションという行いについても、次のように定義している。

だからといって、なにがどうなるというものではない。むしろファンの戯言(ざれごと)である。だけど、戯言だからこそ面白いということがあるのだ。

名選手や名監督と呼ばれるプロ野球のスーパースターたちの、ひょっとしたら、な姿。自分の世代を代表する選手たちに関するシミュレーション、いや戯言を自分が重ねてきた選択にオーバーラップしてみるプロセスも、筆者はとても楽しめた。改めて見ると、表紙写真の南海のユニフォーム姿の長嶋茂雄氏、意外に違和感ないと思いませんか?

(文:宇佐和通)

プロ野球「もしも」読本 もし長嶋茂雄が南海に入団していたら

著者:手束仁
出版社:イースト・プレス
もし長嶋茂雄が南海に入団していたら? もし松井秀喜が阪神に入団していたら? もし金本知憲が広島に残っていたら? もし巨人が星野仙一を指名していたら? もし清原和博が即巨人入りをしていたら? もし野村克也が南海監督を続けていたら? もし江夏豊が「伝説の試合」で負けていたら? ドラフト取材歴30年、球界の表もウラも知り尽くした著者が “スポーツのタブー「たら、れば」に初めて挑む!”

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