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酒場の一期一会。立ち飲み店の変人列伝

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個性的な人、いわゆる変人と知り合いたければ、居酒屋の立ち飲み店がオススメだ。ひとり客でも入店しやすいせいなのか、ユニークなさみしがり屋さんが集う傾向がある。せまい店内で肩寄せ合って酔っ払うのは、じつに楽しいものだ。

変人に会いたければ酒場へ向かえ

変人に会いたければ今すぐ東京都北区赤羽に行けばいい。それを教えてくれたのは、日本屈指の変人遭遇率をほこる漫画家・清野とおるだ。路上全身アーティストのペイティさん、「ちから」のマスター、悦子ママ、ウロウロ男などを紹介している『東京都北区赤羽』は清野とおるの出世作だが、それ以外にも面白いマンガを発表している。週刊モーニング連載『その「おこだわり」、俺にもくれよ!』や、週刊SPA!連載『ゴハンスキー』だ。

特に『ゴハンスキー1』(清野とおる・著/扶桑社・刊)には、『東京都北区赤羽』の登場人物たちに負けないほど強烈な「酒場の変人」が登場する。

池袋駅ちかくの酒屋。そもそも店主が居眠りをしているという衝撃的な店内にある飲酒コーナー、いわゆる「角打ち」にて出会った初対面のおじさんにおごってもらい、そのうえフィリピンパブにも「全おごり」で連れて行ってもらったというエピソードが収録されている。

酒場の恥はかき捨てだ。その相手が見知らぬ相手ならばなおさらだ。特に「角打ち」や「立ち呑み店」では、見知らぬ者同士であっても店の主人やおかみさんを仲介して会話が成立することが多い。

ある立ち飲み店の思い出

とある地方都市の郊外にたたずむ住宅兼店舗の1階にある立ち飲み店が、わたしの行きつけだった。店名は秘す。リストラされた旦那さんが労働意欲をなくしたので、子育てを終えたのちに専業主婦をしていた奥さんが一念発起。いままで飲食店で働いた経験はなかったそうだが、わたしが初めて訪れたときには立派に開店2周年目をむかえていた。

ビール中ジョッキは発泡酒ならば1杯350円。サッポロビールなら430円。焼酎のロックや水割りが1杯200円。もちろんボトルキープOK。料理は、肉じゃがや小魚の南蛮漬けといった日替わり惣菜や、揚げ物、お刺身などを150~300円前後で提供している。おかみさんの気分しだいでは、柿ピーや他の客が持ち込んだ「おすそわけ」が振る舞われることもあった。いわゆる「家庭的」な立ち呑み屋だ。

料理や酒が安いのは、商売っ気に欠けるからではない。おかみさんいわく周りの店に対抗するためだという。その戦略がうまくいって、大通りから離れた立地にもかかわらず、この立ち飲み店は連日のように常連客でにぎわっていた。

極道を自称する男性常連客

たしかに立ち飲み店には個性的な人が集まりやすいが、お客全員が変人というわではない。だが、わたしは初来店で変な人に出会ってしまった。

おそるおそる店内に足を踏み入れると、巨体の男性がカウンター席を陣取っていた。焼酎グラスを片手に、白髪まじりの角刈りで顔を真っ赤にして、大きなダミ声でおかみさんと会話していた。地元のなまりが強かったので、ほとんど意味を聞き取ることができなかった。

巨体の男性は強面であったものの、よそもの&新顔であるわたしに話しかけてくれた。気をきかせたおかみさんが、意味を聞き取れないわたしのために翻訳してくれたので、かろうじて会話が成立した。ある職業を連想させる面相や口調だったが、やっぱり「それ」だった。

わたしがひたすら下手(したて)な態度に徹していたら、今度うちに遊びに来いと誘われた。どうやら気に入られたようで、一方的に電話番号のメモを押しつけられる。舎弟にしてやろうというわけだ。親分は、まもなく帰った。

わたしがガクガク震えていると、おかみさんが笑って言う。あの男は「ヤの付く職業」ではない。ふだんは別の町のスナックによく出入りしている、構成員未満の使いっ走りのような者にすぎないという。見た目は強面だがほんとうは気が弱く、むかしの話、行きつけのスナックのホステスにフラレた腹いせに、近所のスーパーマーケットで絹ごし豆腐を大量に買いこんだあと、スナック店内へぶちまけてみせたという「伝説」の持ち主らしい。

その後、親分とは立ち飲み店で何度か顔を合わせたが、のちに出入り禁止になった。

抗がん剤を点滴しながら焼酎をあおる老人

いつものようにカウンター席で酒を飲んでいたら、コスプレイヤーが来店した。足取りがおぼつかないほど年老いた男性で、欧米の軍隊のものらしき制服を身にまとい、帽子もそれに合わせたデザインものをかぶり、なにやら勲章らしきものを大量にぶら下げていた。

珍妙ではあったが、威厳を感じさせる堂々たる雰囲気に飲まれたわたしは、カウンター席からおもわず立ち上がる。おじいさんは「いいから」とわたしを制した。わたしたちは肩を並べて酒を飲むことになった。

話を聞くと、軍服コスプレおじいさんは航空自衛隊の元自衛官だったという。年齢は80代で、先の大戦では通信を担当する仕事をしていた。戦後は、広報担当官として定年まで務めたらしい。軍服についてたずねると、アメリカ空軍のものだそうで、お気に入りの外出着だと言っていた。

数年前に大手術を経験しており、おじいさんが上着をはだけると人工肛門の排出用パウチがぶらさがっていた。そのうえ、自称「抗がん剤」を点滴していた。そんなものを点滴しながら、焼酎をハイペースで5杯も飲み干して帰っていった。

軍服コスプレおじいさんとは顔なじみになった。あるとき飲み足りなかったようで、住まいである団地の一室に誘われた。どうやら下心があったようで……買ったばかりのハードディスクレコーダーの操作がわからないから教えてほしいという依頼だった。その夜はふたりで缶ビールを何本か空けて、現代日本の国防について語りあかした。

その後、立ち呑み店にしばらく姿を見せないと思っていたら、おじいさんは亡くなっていた。あれほど豪快な人が。信じられなかった。またいつか、軍服をさっそうと身にまとって立ち飲み店に現れるような気がしてならない。

(文:忌川タツヤ)

ゴハンスキー1

著者:清野とおる
出版社:扶桑社
珍才マンガ家・清野とおるが、ゴハン愛をつづりにつづった!「トラウマ飯」、「100円ローソンの干しほたるいか」など出てきたお店や食品はネットで炎上&売り切れ続出!?

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