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霊は、人を選ぶのか。

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真夜中のラヴ・レター』(つのだじろう・著/ゴマブックス・刊)。このタイトルからして、これはつのだじろう先生のおとなの純愛漫画だな、セクシーな絵に期待だなと思ってワクワク読み始めたら、いきなりベクトルはあの世に向かっていた。雑誌読者から寄せられた「霊体験」の謎を、主人公の巻き髪霊能者七条絵夢が解き明かすドキュメンタリー(多分)、「霊界からの」ラヴ・レター本だった。

男性と一線を超える瞬間に怪現象が起こる女、カマイタチのような謎の傷が夜な夜な体に刻まれる女、80年代に小学生の間で一世風靡したおきつね様にちなんだあの占い(活字にはあえてしない。怖いから)によって、低俗な霊が取り憑いた女の話など。

読み進めるうち、ある不思議体験を思い出した。

あれは中学1年生の時。当時、私は大阪から福島に父の急な転勤で引っ越すことになった。注文制服がなかなか出来ず、学校から支給されたのはどう見てもヤンキーから没収した超長い違反スカートだった。全校生徒必須のネームプレートも間に合わず、袖をまくり上げたジャケットを着たわしは、一見して不良少女志願者風になってしまった。

 

同級生おかもっちゃんの恐怖の秘技

完全な誤解だが、不良女子グループから呼び出しもされた。しかしその理由が、「おめえの顔がおもしろいから」だったのに、違った衝撃を受け、初めて本気で親を恨み心は事実グレそうになった。

転校生というのは、ちやほやされる天国と地獄の孤独の両方を味わう。やっつけられたりもしたが、やっつけ返したりもした。平和に過ごしたいという日和見チキンと、負けてなるものかという荒野のオオカミの両方を行き来するメンタル分裂気味な日々。

クラスにおかもっちゃんという女子がいた。ソフトボール部でも一緒だったが、おかもっちゃんは田舎臭く、運動神経も鈍くボールも暴投ばかりで、地味な冴えないグループに属していた。性格は明るく誰とでも分け隔てなくつき合う典型的な善人だったが、わしとはギャグとおしゃれセンスが合わないなと、親睦を深めることはしなかった(こちらはクラスでも部活でも垢抜けたグループに参画しようと鋭意営業中だった)。

ある日の放課後、「おかもとが、へんなこと始めた」と教室に男子生徒が駆け込んできた。へんなこと、見たさについていくと、彼女は廊下に立ち、向かい合わせに立つ同級生(仮にA)に何やら手を動かしている。Aは目を閉じているが、その手はおかもっちゃんの手の動きに見事にシンクロして動いている。透明の糸で操られている人間人形のように。

なにこれ……! “儀式”が終わると、Aは魂が抜けた目で、ふぁあっ!と謎の声を上げて走り去った。

「俺も」「私も」と見物客が、つぎつぎと操り人形に志願した。ある者は、おかもっちゃんの思うままとなり、ある者は「別になんともないけど」と首をすくめて立ち去った。ついに、わしの番が来た。うっかり列に並んでいたのだ。

「目を閉じてください」とおかもっちゃんがいつもの明るい顔で言った。閉じた。「今からタオルで目隠しします」。おかもっちゃんは何の道具も持っていない。なのに、目をタオルで覆いぎゅっと後頭部で硬くしばられるリアルな感覚があった。

そのあと、右手と左手が順番にロープのようなものでくくられる感触があり、己の意志とは関係なく腕がぐんぐん上に引き上げられていくのだ。正確には、手が下からすごい圧力で持ち上げられる感じ。下ろそうとしても、まったく手は自由にならない。

 

霊力は人を選ぶ

「はいッ!」とおかもっちゃんの高い声がした時、目が開いた。両手はちょうど、キョンシーのように前に習えの間抜けな格好になっていた。シャッとおかもっちゃんがロープを手刀で切るような所作をした瞬間、手はぶらんと自由になった。

おかもっちゃんは、呆然と立ち尽くすわしにそっと耳打ちした。

「純粋な人にしか、かからないんだよ」

ふぁああああ!!!!

それから、おかもっちゃんは一部からは神格化され、一部からはペテン師扱いされた。当方はもちろん前者だった。おかもっちゃんが、なぜあのような秘技を突然つまびらかにしたかは謎だったし、一体それがどんな意味のまじないなのかはもっとわからなかった。

彼女は部活では相変わらず明るく暴投ばかりしていた。そして当方はどこのグループにも入ることが出来ず浮いていた。間もなくわしは決意した。もう華やかで垢抜けた1軍グループに参入を試みるのはやめよう、気取ったメンバーに媚びるのはもうやめよう。自分には良き理解者のおかもっちゃんがいるじゃないか。

「おかもっちゃん、今日私とキャッチボールやらない」とふっきれた笑顔で誘ってみた。

しかし、おかもっちゃんは、「え……」と言った瞬間、微妙に戸惑いの表情を浮かべた。その傍らには、おかもっちゃんを取り巻く冴えないグループの面々が、ぬっとわしを見ていた。おかもっちゃんはそのグループ内で一番人気だった。心優しいおかもっちゃんは、キャッチボールにわしを加えてくれた。でもそれは通常の1対1の投げ合いではなく、1対2(おかもっちゃん対わしと取り巻き1名)という、明らかに無理くり食い込んだヤカラの格好となった。

その後、おかもっちゃんと私は補欠ユニフォームをめぐりライバルとなるのだが、一度だけ「あの手をしばる(魔)術はなんだったの」と聞いたら、「家族でやってみたら出来たから、学校でも試してみたんだよ!」と朗らかに答えた。わけがわからなかった。どんな家庭環境なのか、想像できなかった。

あれから四半世紀。わしはことあるごとに、「自分は純粋な人間なんだ。だから人と衝突もするし失敗もする」と思ってきた。純、という思い込みは、すべてはおかもっちゃんの操り人形魔術の日に植え付けられたのか。しかし。当方に、今宵時空を超えてよみがえった真夜中のラヴ・レターは、おかもっちゃんが、そもそもわしには手の届かない人気者だったという真実である。

(さくらいよしえ)

真夜中のラヴ・レター 1

著者:つのだじろう
出版社:ゴマブックス
何度も、何度も婚約を破棄され結婚できない裕美に憑いた先祖のタタリ……。外国の魔女まで日本に上陸していた!マカ不思議な戦慄をよぶ霊の世界が次々と展開される!!

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