ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

鬼の性別は、女だった!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

私たちがよく知る鬼の格好といえば、頭に角が生え、虎のパンツをはいているというものである。しかし、そのイメージは、戦国時代にできたもので、それよりもっと前は、鬼には、はっきりとした形はなかったらしい。虎パンツいっちょの姿を見れば、多くの人は鬼の性別は男だろう、と思ってしまうだろうけれど、元々は、女の鬼が多かったようなのだ。

「心の鬼」という存在

鬼とは、中国の言葉では亡霊を意味するものだったし、日本でも、鬼という記述は、戦国時代以前は怨霊を意味することが多かったようだ。『枕草子』や『源氏物語』などにも「心の鬼」という記述が見られる。自らの心の中のおそろしい部分のことを、鬼と指していたのかもしれない。源氏物語の中には、嫉妬のあまり怨霊となって呪い殺すというシーンが出てくるし、その怨念を抱いた者は、確かに女性である。

以前、歌舞伎の『紅葉狩』を観たことがある。平惟茂が山で美しいお姫様に出会うのだけど、実はその姫は、鬼女が化けていたものだった、という話で、確かにこの鬼の性別も、女性である! それなのになぜ鬼は虎のパンツをはくようになったかというと、鬼門に位置するのが寅なので、その象徴としてつけているという説がある。方角に関する考えかたが、元々の鬼の性別をも変えてしまったのかもしれない。

鬼がテーマの作品

鬼がテーマの漫画をいくつか知っている。特に山岸凉子さんの『鬼来迎』は、私の中で忘れられない作品だ。ヒロインが住み込みで働き始めた家には、美しく優しい奥様がいる。ある日、ヒロインは、その優しい奥様に10歳くらいの息子がいることを知る。障害がある子どもだからとその存在はずっと伏せられていた。そして、ヒロインはその美しい奥様がその子をいじめ抜くさまを目撃してしまう。

子どもをいためつける母親。そんな姿を見たら「鬼!」と思わず叫びたくなってしまう。それから新藤兼人監督の映画『鬼婆』も怖い。息子と嫁の仲に嫉妬した姑が、鬼のお面を付けて彼らを脅そうとするが、そのお面がはがれなくなり、あまりの痛さ苦しさにのたうち回るものだ。そしてこの2つの作品も、共に「鬼」とされている存在の性別は、確かに女性である。

人は誰でも鬼になる!?

今回読んだ『鬼が来る!』(曽祢まさこ・著/朝日新聞出版・刊)はどうなのかというと、やはり、鬼は、とある女性の心の中に潜んでいると言わざるをえない。主人公の男の子は、小学校にあがるまで、一日のほとんどを家の中で暮らしていた。友達もいないし、遊び相手も家の召使いである。なぜ外に行ってはいけないの? と尋ねる坊やに、祖母が言う。「鬼がお前をさらいに来るからだよ」と……。

男の子の両親は亡くなっていて今はいない。いったい、誰が、彼を迎えに来るのだろう。やがて小学校に進学した男の子は、真実を知ることになる。自分の母親は、生きているのだと……。この話では、ひたすら鬼という存在を持ち出し、男の子を恐ろしがらせている。身体を痛めつけてはいないけれど、明らかに男の子の心に恐怖を与えているし子どもの行動の自由も奪っているので、これは児童を虐待しているといえるだろう。

児童虐待のニュースは今日も後を絶たないし、闇を抱える日本の家庭は少なくないだろう。戦国時代以前の日本人はこうしたドロドロした感情を「鬼」と言って恐れたり戒めたりしていたのだと思う。にしても、もともとの鬼の考えかたは、とても興味深い。人は誰でも心の中に鬼を持っていて、何かのきっかけでそれが顔を出す、というのは、深いところを突いている気がする。現代に生きる私たちも、時には自分の心の中の「鬼」について考えてみるのもいいかもしれない。

(内藤みか)

鬼が来る!

著者:曽祢まさこ
出版社:朝日新聞出版
何気ない日常が、一転して恐怖に変わる!あなたは思いもかけない恐怖と真実を見ることになる! 現代の恐怖の霊媒師・曽祢まさこが贈る傑作ホラーの数々。今、日本ホラーが一番怖いのだ!!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事