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大人だって、魔法に頼りたい時がある

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約40年ぶりに再会したその本は、まんだらけ中野店4階の一角で眠っていた。『西洋呪い術秘伝―禁書トロルドムの魔力』。筆者が初めてこの本を手に取ったのは、中学に入ったばかりの頃だった。
おどろおどろしいタイトルの本には、〝いかなる種類の勝負事にも効力を発揮する護符〟とか〝意中の異性を思いどおりにする方法〟といった、中学生の心をかきたてる文言が並んでいた。目次だけ見てすぐに買って、儀式に必要な道具を揃え、親が寝静まった後にさまざまな秘術を執り行った。

アグロ・ボルニの護符

まず紹介したいのは、ギャンブルや勝負事に抜群の効力を発揮するこのアグロ・ボルニの護符だ。
アグロボルニもちろん作って身に付けていたが、中学生レベルの勝負事なんておよそ想像がつくものばかりだ。ただ、ものすごく苦手だった数学の中間テストで初めて80点も取れたから、それなりの効力は発揮されたのかもしれない。あるいは、魔法の護符を持っているという自信もあって、いつもより勉強したからだけだったのか。

意中の異性を思いどおりにする方法

当然のことながら、これに関してはものすごく力が入った。儀式に必要なもののひとつにジャコウのエキスがあったので、あちこちに電話をかけて探してみたが、なかなか見つからない。最終的に横浜にある漢方薬のお店で見つけて値段を尋ねると、5グラム1万円と言われた。中学生にとってはものすごく大きな金額だ。しばらくはジャコウエキス貯金をしていたが、半年くらいで心が折れてしまった。
そこで〝異性がいやでも寄って来る秘法〟に方向転換し、説明通り満月と新月の夜に儀式を執り行ったが、効き目はまったくなかった。アグロ・ボルニの護符である程度の手応えを感じていたので、それなりにへこんだ。

カオスな世界への入り口

筆者の場合、中二病の具体的な症状は魔法という変わったベクトルで出たわけだ。『西洋呪い術秘伝』で魔法デビューして以来、アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』を読み込んだり、タロットカードを何種類か買ってきてただ眺めたり、さまざまな種類のキャンドルを集めたりして、カオスな世界へのめり込んでいった。
当時は『木曜スペシャル』的な番組でオカルティズムが大きく取り上げられ、少し前に始まっていたノストラダムスブームもまだまだ勢いがあり、筆者のカオス指数は上昇の一途を辿ることになる。

護符の威力を再認識した高校時代

高校に入った頃から『ムー』と『週刊プレイボーイ』が愛読書になり、カオスとエロスのバランスが整った時代を迎える。そして、ハイスクールライフにもうひとつの要素が加わった。麻雀だ。古い世代の人間と思われても仕方がない。でも、少なくとも筆者が通っていた高校では、麻雀が打てることがイケてるグループの条件だったのだ。アグロ・ボルニの護符が真の効力を発揮し始めたのはこの頃だ。連戦連勝とはいかないまでも、負けた記憶がほとんどない。年賀状にも〝雀聖〟なんていうハンコを作って押していた。バカ丸出し。
やがて受験を迎えるわけだが、大学の入試にもアグロ・ボルニの護符を持っていったことは言うまでもない。中学校の数学の中間テストと同じく、この時も効いた。

〝グリモワール〟って、知ってますか?

そして2010年、とある出版社からグリモワール―魔導書と訳されることが多い―に関する研究書の翻訳のお仕事をいただいた。まさに筆者の方向性ぴったりのタイトルだ。中学校時代の思い出もあって、楽しみながらこなすことができた。ただ、テーマパークまでできたにもかかわらず、『ハリー・ポッター』シリーズも全盛期の引きの強さを失い始めた頃で、魔法というキーワードも勢いを欠き、あまり売れなかったようだ。
ごく最近グリモワールという言葉を目にしたのは、スマホゲーム、パズドラ関連のサイトだ。これをきっかけにさまざまなサイトを渡り歩く過程で『決定版 西洋の魔術書』(ヘイズ中村・著/学研プラス・刊)という本を見つけた。

怪しい古書店、あるいは魔術書の迷宮

これはスゴい。日本語に訳されていないものまで含め、ありとあらゆるグリモワールについて、歴史的背景まで含め、きめ細かく解説されている。魔術書の回廊に迷い込んだような内容で、知るべきすべてが網羅されている。こんな本が中学生の時に出ていたら、大変だった。お腹いっぱいで動けないような読後感。リファレンス本としても機能性抜群。
魔法とか魔術書について少しでも興味がある人には、魔法実践者として自信を持ってお勧めする。ただ、興味がない人にはまったくアピールしないだろう。
想像してみてください。たそがれ時、裏通りの建物の片隅にひっそりとある古本屋。店主はダンブルドア校長みたいなおじいさん。店の中には怪しげな本が山積みになっている。そんな世界を垣間見てみたい人、そして大人なのに魔法に頼ってみたい気持ちになっている人は、ぜひ手に取っていただきたい。

(文:宇佐和通)

決定版 西洋の魔術書

著者:ヘイズ中村
出版社:学研プラス
魔術、占星術、錬金術、さらには「聖書にならなかった聖書」まで、ヨーロッパにはあまたの「秘された書」が伝わる。その中から特に重要な書をピックアップ。一冊一冊の内容を豊富な図版と分かりやすい文章でダイジェストする。

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