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前職が「歯科技工士」だった漫画家といえば?

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伊藤潤二(いとう・じゅんじ)は、ホラー漫画『富江』の作者として知られている。

わたしが初めて『富江』を読んだのは、つい最近のことだ。ヒロインである富江の美しさと、面白いストーリーの虜(とりこ)になってしまい、ほかの伊藤潤二作品も買い集めた。

いままで世間並みに漫画を読んできたつもりだったが、なぜか伊藤潤二のコミックを手に取る機会がなかった。そもそも、伊藤潤二がおもに作品を発表していたのは「少女向けホラー漫画誌」なので、わたしにとって「死角」だったのかもしれない。

「ホラー漫画界の貴公子」誕生秘話

伊藤潤二の漫画家デビューにまつわる経緯については、『怪奇まんが道』(宮崎克・原作/あだちつよし・漫画/集英社・刊)に詳しいので、ぜひとも紹介したい。本家『まんが道』のように、有名なホラー漫画家(古賀新一・日野日出志・伊藤潤二・犬木加奈子)の知られざる人生秘話をコミカライズしている。

『月刊ハロウィン』という雑誌をご存じだろうか。朝日ソノラマ社が発行していた「ホラー・オカルト少女マンガ誌」だ。(1995年に休刊)

1986年に創刊された『月刊ハロウィン』が募集していた「第1回楳図かずお賞」の入選作こそが『富江(第1話)』だった。

当時、歯科技工士として働いてた伊藤潤二は「楳図かずおに自分の書いたホラー漫画を見てもらいたい!」と思い立ち、はじめて本格的に原稿を仕上げて応募したという。いわば「記念受験」のようなものであり、漫画家になりたいとは思っていなかったようだ。伊藤潤二は、初投稿で即デビューすることになった。

訓練したわけではないのに、生まれながらにして「斬新なアイデア」と「すぐれた画力」をあわせもつホラー漫画を描くことができたので、かつて伊藤潤二は「ホラー漫画界の貴公子」と呼ばれていたことがある。

伊藤潤二の代表作は『富江』だけじゃない!

事情は知らないが、ホラー漫画には読み切りの短編作品が多いようだ。1話だけで読者を楽しませて納得させる必要があるので、インパクトのあるアイデアを求められる。内容が過激になりがちで、読んだあとには強く印象に残りやすい。

『富江』は代表作のひとつにすぎない。伊藤潤二の真髄を味わいたければ「読み切り短編」を読んでほしい。

伊藤潤二自選傑作集』(伊藤潤二・著/朝日新聞出版・刊)は、作者にとって愛着がある10本の読み切り短編ホラー漫画を集めた1冊だ。インターネット上で定期的に話題になる「首吊り気球」や「グリセリド」をはじめ、富江シリーズである「画家」、伊藤潤二の複数作品をまたいで登場するダークヒロインでおなじみ「ファッションモデル」などが収録されている。

中古レコード
寒気
ファッションモデル
首吊り気球
あやつり屋敷
画家
長い夢
ご先祖様
グリセリド
ファッションモデル・呪われたフレーミング
あとがき

(『伊藤潤二自選傑作集』の目次)

特に「首吊り気球」と「ご先祖様」は、2012年にTVバラエティ番組『マツコ&有吉の怒り新党』にて《新・3大『ホラー漫画家・伊藤潤二』の映像を超えている恐怖》として紹介されたことがある。

当時、テレビ放送をご覧になった方がいて、そのときに面白そうと感じたなら……伊藤潤二作品には同じくらい秀逸な読み切り短編が少なくとも「30編以上」あると考えてもらってかまわない。

伊藤潤二の「読み切り短編」ブックガイド

本書『伊藤潤二自選傑作集』の収録作については、あえてストーリーを紹介しない。『富江』しか知らない人や、はじめて伊藤潤二作品に触れる人に、驚愕する喜びを味わってもらいたいからだ。

この『自選傑作集』を読んで、きっと満足するであろうあなたのために、伊藤潤二の「読み切り短編」ブックガイドを記しておきたい。2016年1月現在、伊藤潤二の既刊は、ほとんどが電子書籍化されている。

まずは、朝日新聞出版の『伊藤潤二自選傑作集』(全11巻)から手をつけると良いだろう。全巻オトナ買いするのが理想だが、とりあえず絶対に押さえておきたいマストエピソードのみを厳選してオススメする。

第1巻と第2巻は『富江』シリーズをまとめたもので、なにをおいても通読するべし。第3巻の『双一の勝手な呪い』は代表的な連作短編であり、ズバリ言えば『魔太郎がくる!!』をギャグ風味にしたパロディ作品だ。第5巻『脱走兵のいる家』と第8巻『うめく排水管』は、1話で完結する名作短編の宝庫だ。たしか、エッセイ漫画家のカラスヤサトシさんが伊藤潤二のマニアであり、対談したときに『うめく排水管』の元ネタエピソードを聞いて感激していた。

傑作集の第11巻は、電子書籍版では『闇の声』と『新・闇の声 潰談』に分冊されている。これら2冊も名作短編の宝庫であり、後者には『双一シリーズ』の続編2話、テレビでも紹介された『幽霊になりたくない』が収録されている。

伊藤潤二は、ホラーではないエッセイ漫画にも挑戦している。『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』(講談社・刊)であり、いつもの緻密かつホラーな作画で飼い猫を溺愛する日常が描かれている。飛びちる血しぶきや人体欠損描写に疲れたときの箸休めにどうぞ。

(文:忌川タツヤ)

伊藤潤二自選傑作集

著者:伊藤潤二
出版社:朝日新聞出版
厳選したお気に入りの読み切り9編を収録した自選傑作集。各作品の創作秘話的な解説と執筆当時のアイデアノートから抜粋したメモやラフも収録。さらに描き下ろしの新作ショートストーリーも収録。伊藤潤二ファン必携の一冊。

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