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エベレスト登山で生還率を上げる方法

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エベレスト山頂(標高8848メートル)への道のりはデスゾーンの連続と言われている。たとえ頂上に到達しても、そのあと下山途中で命を落とすケースが多いというから油断できない。

美しくも恐ろしいヒマラヤ山脈から生還するためにはコツがあるらしい。紹介しよう。

雪山で遭難した2人の生死を分けたもの

遭難するのは、未熟な登山者ばかりとは限らない。ベテラン登山家といえども、思わぬアクシデントのせいで行動不能におちいることがある。つぎに紹介するのは、エベレストで生死を分けることになった2人の登山家の実体験だ。

イギリス人登山家《デイヴィッド・シャープ》は、3度目の挑戦でエベレスト単独登頂を達成した。並の登山家ではない。しかし、下山の途中で無酸素状態におちいって、まもなく死亡した。

じつは当時、行動不能になっていたシャープの近くを、何組ものエベレスト登山グループが通り過ぎている。あきらかに異変を感じさせる状況にもかかわらず、死地からシャープを救おうという者はいなかった。「腰をおろして休んでいるかと思った」「10年前からそこにある登山家の死体と見間違えた」「もう助からないと判断した」という証言が残されている。

シャープの悲劇と対照的なのは、アメリカ人登山家《アイディン・イルマク》の救出劇だ。イルマクは登山経験のない初心者だったが、ビギナーズラックでエベレスト単独登頂に成功する。しかし、300メートルほど下山したところで力尽き、行動不能におちいってしまう。

美人すぎるエベレスト遠征隊長が学んだこと

そもそもイルマクは、はじめ自転車でエベレストの頂上を目指そうとしていた「身のほど知らず」の「お調子者」だった。未熟で無謀な登山者であるイルマクが、なぜ生還できたのか? ちょうど通りかかった登山家に救われたからだ。

イルマクが助かったのは「幸運」のおかげではない。エベレストで他の登山家とすれちがうことは珍しくないからだ。しかし、先に紹介したデイヴィッドの事例が示すとおり、必ずしも他の登山者が手を差し伸べてくれるとは限らない。

死が目前に迫っていた《お調子者のイルマク》を救ったのは、通りすがりの《ナダフ・ベン・イェフダ》というイスラエル人登山家だった。かれらはベースキャンプで知り合い、短い交流のあいだに「兄弟(ブラザー)」と呼び合うほど意気投合していた。

上記のエピソードについては『エゴがチームを強くする』(アリソン・レヴァイン・著/CCCメディアハウス・刊)に詳しい。原題は『On the edge』であり、エベレスト登頂をはじめとした極限状況における体験談が大部分を占めている。

著者のアリソン・レヴァインは、2002年にアメリカ人初の女性エベレスト遠征隊を率いた経験がある。さらに、七大陸最高峰登頂と北極南極に到達した「アドベンチャー・グランドスラム」記録の保持者だ。

美人すぎる登山家レヴァインは、ビジネスでもエベレスト登山でも「人脈」と「順化」をおろそかにすべきではないと言う。「人脈」については、先に述べたとおりだ。八方美人と言われようとも、日程が重なっている登山グループのメンバーには片っ端から声をかけておいたほうが良い。エベレストで置き去りにされないためには。

「順化」は登山用語だが、人生やビジネスにおいては「急がばまわれ」と言い換えることができる。

エベレストを「逆方向に登る」という常識

進歩というのは同じ方向に進み続けること、と誤解されがちだ。皆、一歩でも逆方向に進めばゴールが遠ざかると考える。でも、実はそんなことはない。特に高地など極端な環境では、問題もそれに伴う難題もとりわけ厄介だ。

たとえばエベレスト山頂を目指す場合は、逆方向に登る──つまり山頂から遠ざかる時間がかなり必要になるのが普通だ。

(『エゴがチームを強くする』から引用)

エベレストのベースキャンプは標高5360メートルに位置する。その後、さらなる高みにある3つの中継キャンプを経て、ようやく山頂(標高8848メートル)の雪を踏むことができる。ただし、一気に駆け上がれるわけではない。頂上に近づくほど「酸素濃度が低い」わけで、順応しながら登山しなければ高山病になってしまう。医学的には体内の赤血球を一時的に増やすわけだが、そのための作業を「順化」という。

わたしたちが思っている以上に「順化」は長期間にわたる。たとえば以下のとおり。

【ベースキャンプ】→キャンプ1→【ベースキャンプ】→キャンプ1→キャンプ2→キャンプ1→【ベースキャンプ】→キャンプ1→キャンプ2→キャンプ3→キャンプ2→キャンプ1→【ベースキャンプ】→キャンプ1→キャンプ2→キャンプ3→ようやく頂上へ

※各キャンプでは、低酸素状態に慣れるために、一泊~三泊する

ちなみに、キャンプ間にはいくつものクレバスが存在する。滑落すれば即死をまねく場所を何度も往復することによって、気圧だけでなく精神的にも「順化」する効果があるようだ。忍耐強く「逆方向」に登ることによって、より確実にエベレスト山頂を目指すことができる。

人生においても後退せざるをえない時期がある。たとえ逆境であっても、敗北感や屈辱感に「順化」しながら、新たな目標を達成するためには歩みを止めるべきではない。

(文:忌川タツヤ)

エゴがチームを強くする 登山家に学ぶ究極の組織論

著者:アリソン・レヴァイン
出版社:CCCメディアハウス
“エベレストの山頂に立った人のほうが、あと一歩で引き返した人より優れているわけじゃない。大切なのは、あの山頂に立つことではなく、その過程で手に入れた知識と経験をいかに活用して、次の自分につなげることができるかだ”
「あなたは正しいエゴを持っているか?」
*前進しているときは引き返せ
*弱点を克服しようとするな
*睡眠不足の練習をせよ
*成功は問題のもと……etc.
ゴールドマン・サックスに勤めた経験をもちながら、アメリカ初の女性エベレスト遠征隊隊長、七大陸最高峰登頂、北極と南極の両極点にスキーで到達という「アドベンチャー・グランドスラム」を達成した名登山家が説く、ビジネスに応用できる、強いリーダーシップと揺るぎないチームの作り方。

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