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エロ漫画はなぜ廃れてしまったのか?

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スタンダードなエロ本がコンビニから消えた。

このところ、コンビニの雑誌コーナーに立ち寄ると、週刊誌までもが成人誌コーナーに追いやられている店が少なくない。コンパクトな雑誌売り場であれば、おおよそ一緒くたに陳列されている。見た目からしてひとまず同化できる写真週刊誌ならまだしも「成人向け雑誌」のつい立ての奥に週刊誌の姿が散見される。

その週刊誌と並存するエロ本に目をやれば、昨今の潮流はおおよそ2つだ。まずは「DVD付き」。サンプル動画等を詰め込んだ数百分ものDVD付きを売りにして、その内容説明的に雑誌が用意される。つまり、雑誌というよりブックレット付きDVDとでも呼ぶべき存在。そして根強いのは「熟女系」。三十路、四十路は序の口で、最近では五十路、六十路と続いていく。こうしてコンビニの成人本コーナーを久方ぶりに見渡すと、いわゆるスタンダードなエロ本とエロ漫画雑誌がほとんど見当たらなくなった事に気づく。

エロ漫画系編プロがこの世の春を謳歌した時代

とりわけエロ漫画雑誌の市場は壊滅的だ。エロ漫画編集プロダクション社長にして、エロ漫画編纂歴数十年の塩山芳明は『出版奈落の断末魔 エロ漫画の黄金時代』で、エロ漫画の黄金期は70年代末から95〜96年の約20年間だったと振り返る。97年に消費税が5%あがったことに端を発し返品がおさまらず、版元がこぞって部数を下げ始める。そうなると、版元は社員編集者を使わず、雑誌作りを外注で済ますことになり、編プロの需要が高まる。

塩山は言う。「こういう時のために、使い捨てガスライター以下の、編集プロダクションは存在する。赤信号が完全にピカともり出した90年代後半、エロ漫画系編プロはこの世の春を謳歌した」。編プロの総収入をわざわざグラフにしてひけらかす。98年5月には519万円あった収入を10年後に比べてみれば、08年5月は124万円とガタ落ち。なぜこれほどの落ち込みをみせたのか。

青少年健全育成条例による悪書指定とは

この激変に横たわるのが、官公庁の規制強化。80年代には「警視庁保安課詣で」を繰り返すも、それは毎度の慣例的な呼び出しに過ぎなかった。始末書執筆にすっかり慣れてしまい、「警視庁詣では全エロ本編集者の日常業務の一環」とまで書く。が、2000年に入ると「詣で」は無くなり、電話警告を数度続けられては発禁、版元も従順に修整方針に従うようになった。

成人誌規制はかねてから「警視庁保安課」と「都条例」の2本立て。都条例(青少年健全育成条例)による悪書(不健全図書)指定が経営に重しをかける。悪書指定は、「1回指定なら大した影響はない」。しかし、「同一雑誌で2号連続で来たら、かなりまずい」。「3号目はムチャクチャ修整しなければ」。なぜならば「3号連続指定されると、審議会の自主規制措置として、誌名を改題するか、表紙に『この雑誌は18歳未満の方には販売できません』との、腰巻を付けねばならない」という。一度指定されてしまうと、改題しても取次を説得しても雑誌の売れ行きを元に戻すのは難しい。

「そうはいってもダメでしょ」という正義気取り

ただでさえ売れ行きが落ちているエロ漫画の世界で、どこまでも強まっていく規制をすり抜けて商売を安定化させることは難しくなる。聞くところによれば、ある週刊誌では反響の少なかった「エロ動画入門」の特集記事を、ほぼ同じ内容で「60歳からのエロ動画入門」と打ち出し直したら、雑誌の売り上げが跳ね上がったという。成人誌コーナーに追いやられた週刊誌を買うのはもはや定年後の世代、そしてその世代が週刊誌でエロ動画の見方を学ぶ時代なのである。わずかに残るエロ漫画にはますます手を出すまい。

塩山の舌禍炸裂の本書、「馬の糞でも表現の自由」と吼えた竹中労のごとし。「<臓器が商品化>されてる今、<性の商品化>なる訳のわからんポルノ批判、マジでやる連中のオツムの中身が理解不能。当人が未成年だったり、強制でなければどこに問題が?」と苛烈に問う。不健全なものは残らず排せよ、との声は、閲覧する側の年齢を問わずにあらゆる卑猥画像/映像を易々と提供するネットに向かうが、真っ先に規制されるのは出版物。低迷する売り上げと規制のアンバランスがかけ合わさって、作り手の首がひたすらに絞めつけられていく。自ら出版業界の「最底辺」を名乗る塩山の咆哮。「そうはいってもダメでしょ」という正義気取りの印象論だけで捌く前に本書を読んで欲しい。

(文:武田砂鉄)

出版奈落の断末魔 エロ漫画の黄金時代

著者:塩山芳明
出版社:アストラ
『出版業界最底辺日記』(ちくま文庫)から早2年半。稀代の毒舌エロ漫画編集者が暴露するのは、「エロ漫画の黄金時代」。ささやかなバブルに沸いた頃の業界裏話を惜しみなくさらけ出す。著名マンガ編集者列伝・漫画家の知られざる性癖・エロ漫画誌投稿者の個性溢れる顔ぶれ・当局との死闘・印刷関係業者との攻防戦……漫画読みのみならず、表現規制に関心のある人、業界内部の方々、誰でも楽しめる内容。注、索引付き。

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