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カワイイは作れる。そう、カレー沢薫ならね

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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)という漫画家をご存じだろうか。作風は「自虐ネタのギャグマンガ」であり、「(´ω`)」←こんな顔の小動物キャラクターが登場する。デビュー当初は、絵がヘタクソで有名だった。

ヘタウマを継ぐもの

漫画やイラストには「ヘタウマ」というジャンルがある。「ヘタ」だけど「旨(ウマ)み」があるという意味だ。ヘタウマな絵は、未習熟な描き手によって生み出されることが多く、美術の専門教育では再現できない「奇妙な味わい」をそなえている。

ヘタウマで有名なのは「えびすさん」こと蛭子能収のマンガだ。ほかにも、はげオヤジとアフロヘアー青年のコンビでおなじみ「花くまゆうさく」も雑誌の挿絵でよく見かける。

カレー沢薫もヘタウマの系譜に連なると言えなくもない。しかし、味わいを感じるのは、各作品に必ず登場する「(´ω`)」←こんな顔の小動物キャラクターのみだ。人物や背景は「単なるヘタクソな絵」としか言いようがないにもかかわらず、2009年にデビューしてから2015年現在に至るまで、講談社や小学館などの有名出版社が発行するマンガ誌に新作を発表し続けている。なぜか?

稀代のエッセイスト・カレー沢薫

たしかに「(´ω`)」←こいつはカワイイけれど、カレー沢薫が描くマンガの魅力は「(´ω`)」だけではないからだ。けっして少なくない読者の支持を得ている要因は、完成度の高い「自虐ギャグ」や「自虐レトリック」にある。

自虐レトリックは、カレー沢薫の作品に欠かせない。それはマンガだけではなく文章においても発揮されている。カレー沢薫による100本以上のエッセイをまとめた『負ける技術』(講談社文庫・刊)は、珠玉の自虐レトリックを満載した1冊だ。

自分はデザイン専門学校卒だ。実は人にそれを言うのがけっこう苦痛なのである。

(中略)

卒業後、印刷会社に就職するもデザインには一切係わらなかったうえ、そこを8ヵ月で辞めるという好調なスタートダッシュを決め、デザインとまったく関係ない職を転々とするという安定した走りをみせた。

そして一身上の都合の数なら誰にも負けなくなったころ、奇跡的に漫画の仕事を得、親のカネをドブに捨て続けた人間にしか描けない絵を描いている。

(『負ける技術』から引用)

カレー沢薫の作品に『ブスだけどマカロン作るよ』(芳文社・刊)という題名のコミックエッセイ集がある。不美人に育ってしまったことで世間並みの感受性を育めなかった著者の自虐的視点から導き出される問題提起は、現代に生きるおなじ境遇の女性たちからの共感を得ているのかもしれない。

漫画家よりも向いている?

エッセイストとしてのカレー沢薫には、並ならぬ潜在性を感じる。かつて3000隻以上の通商破壊を果たしたが、のちに連合軍にフルボッコにされて華麗に轟沈しまくった旧ドイツ海軍の潜水艦Uボート並の潜在性だ。

ひんしゅくを買いながらも女性の本音を書いて直木賞作家にまでのぼりつめた林真理子や、自立した女性の悲哀を著した『負け犬の遠吠え』の酒井順子、最近ならば山内マリコや能町みね子からのリレーを引きつぐアラサー女性のオピニオンリーダーとして、週刊文春あたりで連載がはじまるのは時間の問題かもしれない。

漫画家であるにもかかわらずエッセイ連載が2014年に単行本化、翌2015年10月に文庫版が発売されたばかりのエッセイ集『負ける技術』は好評のようだ。このままいけば、愛嬌のあるイラスト→「(´ω`)」も描けるエッセイストとして大成するかもしれないが、じつをいうと本来の肩書きである「漫画家としての評価」も高まっている。にわかに絵が上達しはじめたのだ。

漫画家として「ひと皮むけた」きっかけがあったように思う。2012年に発表した『アンモラル・カスタマイズZ』(カレー沢薫・著/太田出版・刊)という連載マンガだ。

『アンモラル・カスタマイズZ』のあらすじ

『アンモラルカスタマイズZ』は、おもに風俗雑誌を発行している出版社が、思いつきでアラサー女性向けファッション誌を創刊することになったドタバタを描いたマンガだ。全1巻。

グリズリー出版は、もともと風俗情報メインの出版社なので男性編集者しかいない。やむをえず既存の女性向けファッション誌を参考にするのだが、「2時間かけてナチュラルメイク」や「16アイテム30日間着回しコーデ(総額20万円以上)」などの特集に対して、男性編集者たちがツッコミをいれていく。忘れてはいけないのが、これを描いているのはカレー沢薫というアラサー女性漫画家であるということだ。いわば同性からの告発ということになる。

作画という観点からみれば、このときデビューから2~3年が経っていたこともあり、ヘタクソながらも男性キャラクターの絵柄は安定している。ただし、あいかわらず女性キャラに可愛げがなく、しかも男顔と女顔の見分けがつかない。カワイイ成分が足りないことに危機感をおぼえた担当編集者によって、予定外に「(´ω`)←こんな顔のムササビ」がレギュラーメンバーに加えられたという裏事情がある。

カレー沢薫をレベルアップさせた要因とは

ここからが本題である。男性編集者だけで作っている女性向けファッション誌なんて売れるはずがなく、テコ入れのために女性の編集者を雇うことになる。沢尻小雪(さわじり・こゆき)という登場人物だ。

小雪の見た目は、作品内の男性編集者いわく「ドブス」「一番リアクションに困るタイプ」だという。素朴そうに見えるが「化粧などしたことがないと言わんばかりの未開拓フェイス……の割に肌が汚い。中途半端なクセ毛。平均的な体型と思わせてよく見たら太めな油断しまくりボディ。面接なのにフリースを着てくる」つまり女子力ゼロだ。

いちおう採用された小雪は、ドブスをモテ女にする「女子力向上日記」という企画のモデルを務めることになる。毎月の誌面でメイクの仕方を学んだり、体型をスリムアップして、ファッションセンスを磨いていくという内容だ。

すなわちカレー沢薫は、商業デビュー以来初めて「ストーリー上、読者の大半がカワイイと思える女顔を書かなければならない必然性」に遭遇したわけで、本編では回を重ねるごとに、小雪がどんどん可愛くなっていくのがわかる。

ちなみに、『アンモラルカスタマイズZ』における小雪(女子力完全体)の絵柄は、月刊スピリッツ連載の『ニコニコはんしょくアクマ』に受け継がれているし、小雪そっくりのキャラクターがDモーニング連載の『やわらかい。課長 起田総司』に登場する。いずれのマンガも評判が良いようだ。

(文:忌川タツヤ)

アンモラル・カスタマイズZ

著者:カレー沢薫
出版社:太田出版
日々、砂を噛みながらマンガとステマに励む新鋭・カレー沢薫が描く、普通の女性誌では満足できないア・ナ・タに捧げる気軽に読めてトレンドがわかっちゃうかもしれないギャグマンガなんだビー! (ビッチ)風俗情報誌『風俗大王』や牛丼雑誌『月刊牛丼』で知られるグリズリー出版が、社長の思いつきで女性ファッション誌『カスタマイズ』を創刊!男しかいない編集部は途方に暮れるが、そこに現れたムササビのビッチ! 残念な紅一点・沢尻小雪も加わって、女性誌『カスタマイズ』は部数を伸ばすことができるのか??!?

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