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真実の愛は、どこにある?

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異質の存在が主人公の物語がある。たとえば映画『A.I.』は幼いアンドロイドが人間のママを求めてやまない話だった。魂を持ったアンドロイドは人間の子どものようにママの愛情を求める。それは人間ではないだけに純粋で真っ直ぐすぎるものだった。2016年1月期のTBSドラマ『わたしを離さないで』の原作の同名小説も、とある"特別な子ども"として育てられた若者達が愛を求める物語である。これもまた普通とは違う状態であるからこそ、私たちは彼らの生きる姿に深い衝撃を受けてしまうのだと思う。

アンドロイドとしての愛。

私が今年観て一番印象に残った映画は『A.I.』(公開は2001年)だった。主人公のアンドロイドは、とある母親に息子代わりにと与えられたもの だった。やがてその母親の前には実の息子が現れ、アンドロイドのことを忘れがちになる。深い哀しみに襲われたアンドロイドは母の愛を取り戻すべく旅に出る。仲良しのテディベアロボットと一緒に……。

私がどうしてこの映画を観ようと思ったか。それは"女性のお相手をするために造られたイケメンロボット"が出てくると聞いたからだった。そんなロボットあるなら観てみなくっちゃ♪というミーハー根性だけしかなかったので、観賞終了後に、話の深さ、壮大さに大変な衝撃を受けてしまった。私はこの映画の原案が『「時計じかけのオレンジ』のスタンリー・キューブリックで、監督はスティーヴン・スピルバーグだということを観終わってから知ったのだ。あまりにも色々考えさせられたものだから、原作小説(『スーパートイズ』ブライアン・レイ著)まで買ってしまった。

ニセモノの愛。

アンドロイドは目的が達せられるまで、何度も何度も愛を求め続ける。ママが愛してくれる事を願って、それこそ何年でも。あまりの真っ直ぐさに観ているほうはせつなくて胸が締めつけられそうになる。人間じゃなかったら本気で愛してはもらえないんだろうか、と苦しくなる。そしてせつなさを倍増させているのが、アンドロイドのそばにいつでも寄り添っている可愛いぬいぐるみロボットの、テディ。どんなことがあっても決してアンドロイドを見捨てない。そこにもアンドロイドならではのひたむきすぎる友情があって、私はテディが何かするたびに涙腺がゆるみまくっていた。

なぜアンドロイドがこんなにもママを追うかというと生まれて初めて見た人間がママで、それを愛するようにプログラムで仕組まれているかららしい。そこで思い出したのが、心理学者のハーロウが行った実験である。生後間もない赤ちゃんザルを母猿から引き離し、棒に毛布を巻き付けたものを与えた。すると子ザルはその毛布にずっとしがみついて過ごしたのだ。まるで毛布を母親の温もりだと錯覚しているかのように。そしてアンドロイドにとっても、人間の女性は真実の母親ではない。けれど可愛がられ、温かさをすりこまれた心地良い記憶が忘れられず、ママを追い求めてしまったのかもしれない。

特別な存在としての愛。

イギリスの作家カズオ・イシグロさんが書いた小説『わたしを離さないで』(早川書房・刊)はイギリスで100万部を超えるベストセラーとなった外国小説で、すでにイギリスで2010年に映画化されている。2016年1月期のTBSでドラマ化もされる。三浦春馬さんが2年ぶりにドラマ出演されるというので、まずは映画版を観てみた。この映画も『A.I.』同様、普通とは違う存在についての物語で、私はまたまた衝撃を受けた。物語の登場人物達は「あなたがたは特別」と教えられて育ったので"そういうものだ"と何の疑いも抱かずに、特別扱いを受け容れている。これもまた、ひとつのすり込みなのだろう。

この小説も真実の愛を求め続ける物語であり、古いレコードが何度も何度も同じフレーズを奏で続ける時のように、繰り返し繰り返し、愛ってなんだろう、と胸の奥深くに問いかけてくる。私たちは登場人物と一緒に真実の愛を探し続ける。まるで愛が、すべての答を持っているかのように。

私たちは大人になったら誰かと結婚して平凡ながらも温かな家庭を営み穏やかに暮らすのが真っ当な生きかただ、良く勉強して良い会社に就職し、良い街に良い家を買うのが幸せなんだ、と教えられて育つ。けれどこのような生きかたを日本人が目指し始めてから、まだ百年も経っていないのではないだろうか。もしかして私たちも幸せという概念をすり込まされているだけなのかもしれない。幸せも愛も、人がなんと言おうと自分が真実だと感じるのであれば、それでいいはずなのに。せつなすぎる"異質なものたち"の物語を味わった後は、自分なりの真実の愛とは何か、改めて考えてみたくなるはずだ。

(文・内藤みか)

わたしを離さないで

著者:カズオ・イシグロ・著、 土屋政雄・訳
出版社:早川書房
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度……。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。解説:柴田元幸

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