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「新型うつ」急増の一因!? SNSに潜む危険

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最近、テレビや新聞でよく目にする「新型うつ」

仕事や学業という、いわゆる”本業”となるとうつ症状が現れるけれど、趣味やレジャーとなると以前と変わらず楽しめるという、一見すると単なる怠け者のようなこの病が近年急増しているという。

2000年代から降って湧いたかに見えるこの病の出現の背景には、SNSの普及があるのではないかと、精神科医の香山リカ氏は著書『ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか』の中で指摘する。

もはや、本音と建前の文化ではない!?

インフルエンザで1週間の自宅療養となったけれど、最初の3日で体調が回復してしまった場合、あなたはどうするだろうか? つい、マスクをして映画館や温泉に行ってしまった人もいるのではないだろうか。

日本人は責任感が強く、マジメで几帳面であるとよく言われるが(自分たちもそう思っている節があるが)、その建前の裏にある本音の部分では、けっこういいかげんであることが古典落語の中でも描かれている、と香山氏。

ただ、最近は本音を隠さなくなっているという。

従来のうつ病の場合、2ヶ月間療養と言われても早く治った場合、遊びに行きたいなと思いつつも、公園で散歩するくらいにとどめていたのが、新型うつの場合はスカイダイビングに行くなど、あくまで自分の基準でなんでも行ってしまう。

その自分本位な主義・主張の一方向性が、SNSにおける人々の振る舞いに重なるものがあるという。

匿名の悪意と実名の自慢

SNSは双方向のメディアだ。しかし、実は、「一方的な発信を双方向的なコミュニケーションだとカン違いさせる、世にも気持ち悪い装置」なのではないか、と香山氏は指摘する。

誰もが発信力を得られるようになり、Twitterなどの匿名のメディアでは自分の主義・主張を自由に発信できるようになった。しかしその匿名性非抑制性となって、誹謗中傷や”炎上“につながる攻撃性、嫉妬や憎悪などの、人の心の奥にある悪意を解放してしまう、と香山氏。

一方、Facebookのような実名のメディアになるとまた様相が異なってくる。ここでは、リアルな生活と同じような、あるいはそれ以上の比べ合い、自慢し合いがはびこり、それがユーザーを負の一人相撲へと追い込んでいるという。

今年の春頃、女性ファッション誌の以下のコピーが、誌面のキャプチャ画像と共にSNS上に拡散され、ネットユーザーに衝撃を与えたことも記憶に新しい。

「三連休初日。最近ネタ切れで「いいね!」不足な私のfacebookのために、車で1時間かけて話題のバケットを買いに。恭子にも分けてあげよう」(『STORY 4月号』より)

 「ネタ消費」と「ネットde真実」

ただ「いいね!」をもらいたいだけなら、そのパン屋のURLを貼り付けて、「ここに行ったよ!」と投稿すればいいところを、わざわざそのお店へ行く。

ネタのためにお金と時間を消費するこのような現象を、香山氏は"ネタ消費"と呼ぶ。

少し前までは、ネットにはファクト(事実)はないと揶揄されていた。しかし今、ネットはファクトでないと許されない時代へと移行しつつあるという。

ファクトではあれど、少し盛ったり、ウソをつくにしても、限りなくファクトに近いウソをついたり。それを忠実に守っていたのが木嶋佳苗被告であると、香山氏は言う。

結婚詐欺で騙していた男性たちに自らのプロフィールを偽っていたが、それは事実を少し変えたものであったり、また、そのプロフールをファクトにするために、実際に料理学校などに通ったり、セレブな生活をしたりしていたのである。
その結婚詐欺のためにネタ消費をし、ネタ消費のせいでお金がなくなり、ターゲットとなる男性がどんどん増えていく…というスパイラルが生まれていたのだ。

また、ネットにはファクトがあると信じすぎたゆえに起きている現象もあるという。それが、"ネットde真実"だ。これは、テレビや新聞では報じられていない情報をネットで初めて知ることを指している。そしてその情報の多くは、陰謀論で占められている。

冷戦終了後に米ソの対立といった"大きな物語"がなくなり、グローバル経済によってフラット化した"物語なき世界"を生きる私たち。しかし、物語のない世界を生きる若者は、今度は自分自身に人生の意味や価値を問わなければいけなくなった。自己実現できる人にとっては良い社会だが、そうでない人にとっては苦しい。

そのストレスから、大きな物語を求める人が、ネット上に転がる大きな物語である陰謀論を、それが真実であると信じきってしまうのだという。

つながりの功罪

人間関係が希薄になりがちな現代社会においては、特に2011年3月11日に東日本大震災という"新たな大きな物語"が誕生して以降は、絆とつながりを生むツールとしてさらに爆発的に普及しているSNS。

しかし、この絆とつながりがもたらす、強くて濃い人間関係にも注意が必要だと香山氏は言う。

「心を病む人が多いのは、人間関係が希薄になったから」と言う人がいるが、実際はその逆で、診察室に来る人の多くは濃すぎる人との関係や家族からの過剰な介入、支配がストレスとなって、うつ病や摂食障害を発症させるのだ。
「絆やつながりがないという孤独感から心の病になった」という人は、これまで30年近い精神科医生活のなかで、おそらく数例だったと思う。(本著より)

だったら、独りでいた方が簡単で楽なのではないか。筆者の頭の中に、都築響一氏の著書『独居老人スタイル』の中の次の一節が浮かんだ。

統計によれば、高齢者の自殺率で、いちばん多いのが三世帯同居、いちばん低いのがひとり暮らしだという。
ひとりで生きることの寂しさやつらさより、家族関係のもつれのような、ひととひとのごちゃごちゃのほうが、はるかにひとのこころを壊すのだ。

独りでいるか、誰かとつながるか。きっと、人生のどこかで選択する時がくるのかもしれない。
しかし、最初から独りでいることを選択したくない。できれば、誰かと上手くつながる努力をしてからにしたい。

地震や津波を前に手を強く握り過ぎた私たちは今、手を離さない程度の柔らかな握り方に変える段階にきているのかもしれない。

(文:ツジコ エリコ)

ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか

著者:香山リカ
出版社:朝日新聞出版
ツイッター、フェイスブック、LINE……。今やSNSは生活に深く浸透しているが、それに息苦しさを感じている人も多い。ネット上でのつながり、賞賛やその反対にある悪意や炎上。SNSへの違和感の正体と、SNSが変えつつある人間について鋭く迫る。

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