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「江戸のおいしい食文化がわかる」マンガを紹介します

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ハロウィンの時期になると「お月見どろぼう」が話題になる。お供えの月見団子を、子どもたちにわざと盗み食いさせる日本の風習だ。現代にあるものは、たいてい江戸時代にもあった。「もやしもの」をご存じだろうか?

なんと江戸時代にもビニールハウスがあった

江戸っ子が「初もの」好きだったのはよく知られている。「寿命が延びる」「誰よりも早く食べるのがカッコイイ」等の理由から、家具や衣服を換金してまで、江戸っ子が初鰹(はつがつお)を買い求めたのは有名な話だ。

江戸中期には、初鰹1本が現代の十数万円相当の価格で取引されることもあった。しかも、いちばん良いやつは将軍家が買い取っていたというから、お膝元で暮らしている江戸っ子たちも負けてはいられない。

需要が高まれば、売価は上昇する。カツオだけではなく、野菜も同様だった。たとえば、初茄子(はつなす)は、とても野菜とは思えない価格で取引されていた。

「初もの」を高く売りたければ、どこよりも早く仕入れる必要がある。カツオなどの魚介類の成長は自然にまかせるしかない。しかし、野菜ならば人工的に成長を早めることができる。促成栽培だ。

大江戸美味草紙』(ラズウェル細木・著/リイド社・刊)によれば、江戸時代にはビニールハウスに相当するものがあったという。太陽の光を通すけれど雨水は弾くことができる「油障子」で全面を囲った小屋だ。室内をほどよい炭火で暖かくして、成長を早めることによって「初もの」を人工的に栽培した。江戸時代には、促成野菜のことを「もやしもの」と称したのだ。

どこよりも早い「初もの」である「もやしもの」は高値をつけたが、市場経済に悪影響をもたらすという理由から、のちに幕府が禁止令を発したという記録が残っている。

江戸の上水道は世界一チイイイイ!!

江戸時代を題材にしたテレビドラマで、長屋住まいのお母さんたちが大根を洗いながら「井戸端会議」をしているシーンをよく見かける。じつをいうと、あれは「井戸」ではない。当時の「水道」だ。

『大江戸生活事情』(石川英輔・著/講談社・刊)によれば、三代将軍家光の治世には、すでに神田上水や玉川上水が完成していた。なぜなら、徳川家康が江戸入府(1590年)してすぐに水道工事を始めていたからだ。

当時の水道システムは、地形の傾きを利用した「自然流下式」の上水道であり、数十キロメートルにおよぶ木製の管(くだ)・樋(とい)を地中に埋めて、江戸の隅々にまで上水道網を張りめぐらしていた。神田川を横切るための水道管である「水道橋」が、いまも東京都の駅名として残っている。

世界的にみれば、ロンドン市内と同時期の完成であり、江戸の上水道整備はパリ市内よりもずっと早かった。江戸は埋立地が多かったので、掘っても出るのは海水ばかりだった。時代劇ドラマを見ているだけでは、長屋の井戸が、まさか「底抜けの大きな桶(おけ)を縦に積みかさねて地中に埋め込んだ」水道設備であると気づくことはできないだろう。

これであなたも江戸文化のツウになれる!

先にご紹介した『大江戸美味草紙』は、『酒のほそ道』でおなじみ、漫画家であるラズウェル細木さんの作品だ。

じつは、同名の書籍がある。杉浦日向子さんの『大江戸美味草紙』(新潮社・刊)だ。著者は、NHKの『コメディーお江戸でござる』にも出演していた、いつも着物姿がよく似合う江戸風俗研究家だ。たいへん残念なことに、杉浦さんは2005年に咽頭癌のため亡くなっている。46歳という若さだった。

2冊の『大江戸美味草紙』に直接的な関連はない。おなじ歴史文献を参考にしているかもしれないが、驚くほどに内容のネタかぶりが無い。江戸の食文化をあつかった本のタイトルを案出しようとすれば「大江戸」「美味」「草紙」は避けられないので、おそらく偶然の一致だと思われる。どちらも読んで満足できる逸品だった。

杉浦版『大江戸美味草紙』には、「どぜう」と「どじやう」の違いや、「二本差しが怖くて田楽が食えるか!」という啖呵は関東と関西どちらの「田楽(でんがく)」を指しているのか、という興味ぶかい江戸文化考証が掲載されている。この2つの答えを正しく知っていれば、ちょっとした江戸通を名乗ることができるだろう。

ラズウェル細木の『大江戸美味草紙』は、全39話の読み切りエピソードと全10話のコラムを掲載しているマンガだ。電子書籍版は500円台とは思えない充実した内容がうれしい。落語のような軽妙なストーリー仕立てになっているので、楽しみながら江戸庶民の暮らしを学ぶことができる。

(文:忌川タツヤ)

大江戸美味草紙

著者:ラズウェル細木
出版社:リイド社
江戸に華咲く「食」「酒」「遊び」! 大人気グルメコミック。春夏秋冬の食材や行事、旦那衆との粋で豪快な遊興など江戸の文化をショートストーリーで楽しめる至極の一冊。

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