ハウツーが満載のコラム
文字サイズを変更する

意味のある偶然は表計算ソフトで語れるか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

2015年7月24日。石川県立野球場。夏の甲子園石川県予選準々決勝の顔合わせは、小松大谷高校対星稜高校。8回まで0点に抑えられ、3点のリードを許していた小松大谷高校が9回裏に一挙4点を奪い、派手なサヨナラ勝ちでゲームをものにした。しかしこの劇的勝利も、小松大谷ナインにとっては必然だったのかもしれない。約1年の時間をかけて結実した必然だ。

〝ほぼ〟リアル・ルーズヴェルト・ゲーム

2014年7月27日に行われた石川県予選大会決勝での話。小松大谷は星稜を相手に8点という大量リードを保ちながら9回裏の守りについた。誰が考えても楽勝パターンだ。
ところが星稜高校は、9回裏に13人の打者を送り込む猛攻で9点を奪ってサヨナラ勝ちしてしまった。定義通りの8対7ではないものの、〝ルーズヴェルト・ゲーム〟と呼ぶにふさわしい試合が本当に存在することを多くの人々に知らしめるには十分な出来事だった。
敗戦の悔しさを忘れないため、小松大谷高校の監督は翌日のスポーツ新聞の紙面をアクリルパネルにはさんで練習グラウンドのベンチに置き、いやでも選手たちの目に入るようにしておいた。
バッティング練習の時も守備練習の時も、選手たちは毎日紙面を見ていたはずだ。同じ思いで厳しい練習に打ち込んだ部員全員の間に集団的無意識のようなものが生まれ、その想念がリベンジの素地を作ったのかもしれない。

シンクロニシティという現象

同じ県の同じ大会、しかも同じ組み合わせの対戦でそれぞれのチームがサヨナラゲームで勝利するということが2年続いた事実を偶然と呼べるのか。統計学の概念から考えれば、説明できないことではないようだ。『「偶然」の統計学』(デイヴィッド・J・ハンド・ 著/早川書房・刊)のまえがきに、次のような文章がある。

到底起こりそうもない出来事にも法則があるのだ。「ありえなさの原理」とは偶然に関する法則一式に私が付けた呼び名で、それらは総体として、思わぬ出来事は起こるものであること、そしてそれはなぜなのかを教えてくれる。
 (『「偶然」の統計学』より引用)

こんな体験はないだろうか。電話をかけようと思っていた相手から、まさにその瞬間に電話がかかってきた。かなり昔に流行っていた歌を口ずさんでいたら、それがラジオから流れてきた。満車の駐車場に入った瞬間、すぐ横の車が出ていった。すべて〝意味のある偶然〟と定義されているシンクロニシティという現象だ。

意味のある偶然に魅入られた男

7という数字はよくラッキーナンバーと言われるが、アメリカ、ワシントンDCにあるシェナンドー国立公園でパークレンジャーを務めていたロイ・サリバンさんは、1936年から1977年までに実に7回も雷に打たれ、その都度命が助かった。ただ、7回目は相当やばかった。頭に雷が落ち、胸と胃のあたりに大やけどを負って、片耳を失ってしまった。さらに、森の中を全力で走って車に戻ろうとする途中、熊に襲われそうになった。
ちなみに、ごく普通に生活している人間が雷に打たれる確率は2億8千万分の1程度、それが7回続く確率は10の32乗(1溝=こう)分の4という想像すらできない領域になる。しかし、とあるテレビのインタビューで「7回も雷に打たれるなんて不幸でしたね」と言われたサリバンさんは、こう答えたという。
「いやいや。7回も打たれて死ななかったんだから、世界一ツイてる男でしょう」

1カ月で3回宝くじを当てたカップル

バージニア州ポーツマスに住むスペンサー夫妻は、2014年3月12日にパワーボール(本数字5種類とボーナスナンバー1種類を指定する方式)という宝くじで100万ドルを当てた。十分すぎる大当たりだが、スペンサー夫妻にとっては人生で最高にラッキーな月の始まりに過ぎなかった。26日にはバージニア州宝くじで5万ドルをゲット。翌27日にはバージニア州スクラッチくじで再び100万ドルを手にした。こちらの確率は1/5,153,633という数字が出されている。バージニア州宝くじ運営機構のスポークスマンは、次のように語った。
「この仕事を始めて12年になりますが、これだけの短期間で3連続の大当たりは初めてです」

意味のある偶然を統計学で解き明かす

『「偶然」の統計学』は、一見難しそうな統計学理論を、接しやすいトピック―宝くじとか株式相場、聖書の暗号、アメリカ同時多発テロの陰謀論など―に落とし込んで説明してくれるので、敷居の低い入り口から進んで、気がつくと〝ボレルの法則〟なんていう聞いたこともない概念にまで踏み込み、なんとかして理解しようとしている自分に気づく。
約20年前、筆者は初めて買ったノートパソコンに標準搭載されていた『ロータス1-2-3』を駆使してNFL(アメリカのプロアメリカンフットボールリーグ)全チームのデータを打ち込み、試合ごとの勝敗をスコアまで含めて予想していた。あの頃の、数字に対するおそらく無駄で非生産的な情熱が甦ってきた。また、ちょっとやってみるか。

(文:宇佐和通)

「偶然」の統計学

著者:デイヴィッド・J・ハンド
出版社:早川書房
ロトで連続大当たり。2回連続で雷に打たれる。3大会連続でホールインワン達成。暗殺の夢を見たあとに暗殺されたリンカーン。10万年に1度しかないはずの金融危機……到底ありえないと思われ、実際に起こると新聞記事になるまれな出来事だ。しかし、統計学者に言わせると、こうした「ありえない」出来事は、じつはけっこう頻繁に起こっているという。どうしてそういうことになるのだろう――ハンド先生がそこの事情を〈ありえなさの原理〉の名のもとに、実例をふんだんに盛り込んで解説してくれます。統計的な考え方は直感では理解しにくいから、現代人必携のリテラシーとしてしっかり身に付けて起きたいもの。奇跡なんてうさんくさい。あるいはカモられたくない・騙されたくないあなたに捧げる確率・統計解説。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事