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誰もが毎日のように耳にしている「駅メロ」の世界

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私たちがもっとも多くの人と共有しているメロディとは、ヒットチャートの上位に食い込んでいる歌手の曲、ではない。電車の発車を知らせるメロディ、通称「駅メロ」ではないか。

駅メロに「転調」が多い理由

塩塚博『駅メロ!』(扶桑社・刊)は、数々の路線の駅メロを手掛けてきた作編曲家がその仕組みを明かす1冊。JR東日本や東急、東京メトロなどの駅メロを担当してきた著者は、自分が手掛ける駅メロには「転調が多い」「偽終止が多い」ことを特徴に挙げる。途中でキーを変える転調、「完全終止するようにみせかけておいて、主和音でない和音で終止する」偽終止、これらを盛り込む理由は、「ちょっと違和感や緊張感を盛り込んで、刺激や覚醒効果」を狙うため。「そろそろ発車します」と伝えて乗り込んでもらうように促す音楽なのだから、ただただ安らぎを与える音楽ではいけない。かといって、不安感を高めるような音楽でもいけない。

駅メロが始まったのは、1971年京阪電鉄の淀屋橋駅で使われたのが最初だという。モーツァルト作曲のオペラを社員の1人がエレクトーンで弾いたものだった。駅メロの導入が本格化するのは1989年にJR新宿駅と渋谷駅で導入してから。国鉄が分割・民営化されたことを受けて、顧客サービスの一環として駅メロが導入されていく。1990年代後半からは「ご当地駅メロ」も増える。蒲田駅の「蒲田行進曲」、手塚治虫の虫プロがあった高田馬場駅の「鉄腕アトム」など、その地域ならではの選曲がいくつも生まれ、地元民に愛される、そしてマニア心をくすぐるメロディが広まっていく。

タイアップ駅メロ、40秒を超える駅メロ

「タイアップ駅メロ」もある。近くに「ヱビスビール」の工場がある恵比寿駅では、そのCMで使われてきた「第三の男」を駅メロに採用した。これは駅名との繋がりもありタイアップではないが、やがて、広告代理店がこの駅メロの存在に注目し始める。2010年には新橋駅でサントリーのCM「ウイスキーが、お好きでしょ」のメロディが流された。乗降客の多くが耳にする駅メロは、広告効果としても絶大なのだろう。

発車メロディに規定の秒数はないようだが、著者が制作したものはおおよそ9秒か10秒が多いという。なかには尺が長いものもあり、「駅メロ草創期に使われていた宗次郎氏の作品には『雲を友として』など20秒を超える」作品もあったし、「常磐線には40秒を超えるもの」も存在するという。

駅メロは主張しすぎずに生活に溶け込む

地下鉄を中心にホームドアの設置が進んでいるが、あれは、「ドアの開閉と発車メロディ演奏がリンクしており、メロディが鳴り終えた時点でドアも閉まり、発車が可能」になる仕組みになっている。当初、サービス精神で始めた駅メロは、少しの遅れも許されない鉄道網を守り抜く為の、重要なシグナルになってきたわけだ。

発車メロだけではなく、接近メロもある。次の電車がある地点を越えたことを合図に、ホームに20秒ほどのメロディが流れる。例えば椅子に座っている高齢者などに、ゆっくりと移動してもらうことが目的だ。遅延を知らせる駅員のアナウンスは、時に過剰でイライラするが、あれだけ過剰にしなければ憤る声がおさまらないという事情もあるのだろう。その一方で、静かなホームに、控えめな駅メロが流れる瞬間は心地良い。駅メロは乗客を動かす役割を果たす為に、主張しすぎずに生活に溶け込んでいる。時たま、割れんばかりにうるさいものもあるけれど。

(文:武田砂鉄)

駅メロ!

著者:塩塚博
出版社:扶桑社
東京駅・新橋駅・中野駅・有楽町駅・御茶ノ水駅など…JRほか京急、メトロなど200駅で使用中。JRでもっとも親しまれている駅メロ「SHシリーズ」作者で駅メロの第一人者、塩塚博が解説する駅メロのすべて。ココだけのディープな駅メロ話が満載。※CDと楽譜は付属されておりません。ご了承ください。

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