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英語社内公用語化のプロス・アンド・コンズ

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「今年の終わり、遅くとも来年の初めまでに650!」
飲み干した大ジョッキをどんとテーブルに置きながら、目の前に座る男が言った。彼は大学の時の筆者の同級生。インターネットを中心にさまざまな分野に事業を拡大している超有名企業の証券部門で働いている。
営業拠点の店舗数増加ノルマの話かと思ったら、そうではなかった。650というのは、管理職クラスの全社員に課せられているTOEICのスコアだという。

英語社内公用語化の波

TOEICを主催するETS(Educational Testing Service)によれば、650というスコアは「自分宛てに書かれた簡単な仕事上のメモを読んで理解できる。ゆっくりと配慮して話してもらえば、目的地までの順路を理解できる」レベルだ。
ファーストリテイリングと楽天をはじめとして、大企業の〝英語公用語化〟宣言の波が止まらない。アサヒビール、シャープ、三菱地所、三井住友銀行、三井不動産、日立製作所、武田薬品…ざっと挙げただけでも、これだけの企業が具体的な計画を持っている。
英語社内公用語化のパイオニア、楽天の三木谷浩史社長は、『東洋経済ONLINE』の2010年6月16日付のインタビューで次のように語った。

「英語化をやる理由はふたつある。一つは、楽天を世界一のインターネットサービス企業にするため。もうひとつは、楽天が変われば他の会社にも影響を与える。日本の企業や一般家庭にも、やっぱりやらなきゃいけないという意識が広がるきっかけになればいいと思っている」

早い時点で名乗りを上げているファーストリテイリングの柳井正社長も、次のような主旨のコメントを残している。

「英語社内公用語化の究極の目的は、自分の会社の人間だけに限定したものではなくて、日本が国際社会の中で生き残っていくためにも自分の思いを発信し、違う国の人たちの共感を得ることができる日本人を一人でも多く作ることだと思っている」

公用語化前夜の実情

2011年2月24日付の日本経済新聞電子版に、日本企業が英語を社内公用語にすることの是非についてのアンケート調査の結果が公表された。全体的に見れば賛成が45.5%、反対が54.5%だが、50~60代は反対が60%であるのに対し、30代は賛成が57%に上り、年齢層によって差が出る結果となった。 反対派がやや優位にあり、年齢が高くなるにつれて拒否反応が強くなるという傾向が読み取れる。
もうひとつ、ちょっと面白いデータを見つけた。ETSが発表している『TOEICプログラムDATA & ANALYSIS 2014』というレポートに含まれている、受験者の社歴と平均スコアのグラフだ。各グループの平均スコアは内定者:552、新入社員:507、入社2~5年目:504、入社6~10年目:480、入社11年目以上:453という分布で、内定者と入社11年目以上のグループではスコアに100点という大差が出た。実務スキルが上がるにつれ、英語力が落ちていくという皮肉な状況が見え隠れしている。

警鐘を鳴らす専門家

「英語支配論」および「言語政策」を専門とする筑波大学大学院の津田幸雄教授は2010年10月、楽天の三木谷浩史社長とファーストリテイリングの柳井正社長に向け、注意喚起を促す手紙を送ったという。 英語支配が各国言語や文化に与える影響の専門家として、日本を代表する優良企業である両社が英語公用語化という思いきった施策をとることは大きな問題であると考えたからだ。『PRESIDENT Online』2011年4月18日付に掲載された記事の中に、以下のような文章がある。

英語を母国語として育った「特権表現階級」であるネイティブ・スピーカーの下に、英米の植民地だった国や大陸、ヨーロッパの人々(「中流表現階級」)が位置し、裾野に近い部分に日本人を始め英語を外国語として使う「労働者表現階級」の人たちがいます。一番下に位置する「沈黙階級」とは、中東の一部や北朝鮮の国民のように、英語圏との接触がきわめて少なく、ほとんど英語を学ぶことのない人たちです。

『PRESIDENT Online』2011年4月18日付 楽天・ユニクロ社長に「英語公用語化」反対の手紙を送った理由 から引用

やはり、日本企業の英語公用語化には無理があるのか。

英語は言語として理論的ではない?

『英会話ができないのはあなたが悪いんじゃない! 英語が悪いんです!!』(英語欠陥問題研究会・著/インプレス・刊)は、今の風潮に対し、まず〝英語そのものが、他国民にとって極めて習得しにくい構造を持っている〟とぶちかまし、〝英語はオタクが好む言語である〟という方向で話を展開していく。できなくて当たり前というところから始まり、最終的に英語マスター法に落とし込む構成の立脚点となるのは、序章に示されている以下のような考え方だ。

英語というものを支えている理論はほよどに精緻であるか、さもなくば最初から理論など存在せず、ないものをあたかもあるかのように見せかけて学習者に遠回りをさせているかのどちらかでしかない。

『英会話ができないのはあなたが悪いんじゃない! 英語が悪いんです!!』より引用

だから英会話ができないのは学習者が悪いんじゃなく、英語という言語そのものが悪いのだ、というわけだ。英語に対する構造的コンプレックスの存在には、津田教授も言及している。こうしたものに触れながら展開される理論に、冷水を浴びせかけられる思いをする〝英語ファン〟―本書による定義では、不思議なことに英語に対して単なる道具以上の愛着を感じてしまっている人たち―は決して少なくないだろう。そして、確信犯的かつ煽情的な物言いで時代に逆行する姿勢は、方向性こそ正反対だが、三木谷社長や柳井社長と同じく潔い。たとえ英語ファンであっても、こうした見方は視野に入れておくべきだと思う。

(文:宇佐和通)

英会話ができないのはあなたが悪いんじゃない! 英語が悪いんです!!

著者:英語欠陥問題研究会
出版社:インプレス
<本文より> しかしそれでも、日本人の英語力は、劇的に変化することはなかったのです。なぜでしょう? 国際語たる英語すら理解できないほど、日本人の知的能力は劣っているからでしょうか。そうではないでしょう。さまざまな努力を重ねたにもかかわらず、成果が出ない。この場合、考えられる原因は一つです。「英語そのものが、他国民にとって極めて習得しにくい構造を持っている」そうとしか、考えられませんね。そして実際にその通りなのです。

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