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「よかれと思って…」は〝ハラッサー〟の決めゼリフ

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ハラスメントという言葉がやたら繁殖している気がする。辞書的な意味は〝嫌がらせ〟とか〝苦しめること〟だ。 セクハラ、パワハラから始まって、ごく最近ではスメル・ハラスメント―自らが発するにおいによって周囲に不快感を与えること―という新しいバリエーションも生まれた。数あるハラスメントの中でも、現在最も認知度が高まっているのはモラル・ハラスメントだろう。

死ぬほど自分が好きな人たち

モラル・ハラスメントという言葉を生み出したのは、マリー・フランス・イルゴイエンヌというフランス人精神科医だ。イルゴイエンヌ女史は、次のように定義している。
「加害者のパーソナリティによる嫌がらせ行為で、自己愛がきわめて高い人が加害者になりやすく、ターゲットに決めた人間に対する攻撃は執拗で、対処法を簡単に見つけることはできない」
自己愛という言葉の取り扱いがちょっと難しいかもしれない。いくら自分が大好きでも、誰に対しても訴え続ける人はそうそういないだろうし、かと言って、心の底から自分が嫌いで、早く死んじゃいたいなんて思い続ける人も多くはないだろう。
ただ、自己愛が異常なほど高い人は、自己愛性パーソナリティ障害と診断される可能性があるようだ。ならば、〝異常なほど高い〟ことを見極める具体的な指標はあるのか。

危険なサイン

自己愛性パーソナリティ障害の第一の特徴として挙げられるのは、他人に見下されたような態度を取られたり、馬鹿にされたりするのに耐えられないことだという。周囲の人たちと自分を同一線上に並べることができず、常に自分との比較対象にしてしまう。
『サイク・セントラル・ドット・コム』というウェブサイトによれば、具体的な例として以下のような特徴が挙げられる。

・自分の才能や業績についてはなはだしく脚色した話を伝え、優位に立ちたがる
・成功や権力、美しさ、優秀さなどについての妄想が無限に広がる
・自分は特別な存在であると信じて疑わない
・必要以上の尊敬や称賛を強いる
・自分の利益のために他者を利用する
・嫉妬心が異常に強い
・誰に対しても傲慢な態度が目立つ

ソシオパス(社会病質者)やサイコパス(精神病質者)とクロスオーバーする部分がかなり多い。
『モラル・ハラスメントの心理的構造』(加藤諦三・著/大和書房・刊)では、周囲の人々に害毒を与える〝ハラッサー〟たちの詳細なプロファイリングが展開される。ごく普通の人間であるわれわれが一番気を付けるべきは、ハラッサーがよく使う「あなたのためを思って」とか「よかれと思って」という言葉遣いだ。

彼らが持ち出してくる言葉は、つねに「あなたのため」というモラルである。この「あなたのため」という言葉は相手の心を縛り、相手を支配するための言葉である。それは相手の心にかける手錠である。

『モラル・ハラスメントの心理的構造』より引用

やつらはどこにでもいる

相手のためにというニュアンスを込めた巧妙な言葉遣いで罠を仕掛けるハラッサーは、ありとあらゆる場所にいる。親やパートナー、あるいは同僚や上司が、何気ないひと言で豹変するかもしれないのだ。
家庭でも職場でも、何も考えないまま言葉を発するのは控えた方がいいかもしれない。何気ないひと言で「見下された」とか「馬鹿にされた」と少しでも感じたら、そこを起点にハラスメントが一気に加速していく。そして一度始まったハラスメントは簡単には終わらない。基本的にハラッサーとハラッシー(ハラスメントを受ける人)しかいない閉鎖空間でしか起きない出来事だからだ。
少し前、フレネミーという言葉が流行した。表面的には心優しい友人を装いながら、相手を傷つけるような言動をやめないフレネミーもまた、自己愛性パーソナリティ障害の一形態だ。
ハラッサーもフレネミーも、〝宿主〟を見つけては取りつき、徹底的に疲弊させる。共感性とか思いやりの気持ちが細胞レベルから欠如しているので、普通の人間が普通に導き出すロジックなど通用するわけがない。

サソリの本性とカエルの同情

こんな話を思い出した。
川を渡りたいサソリがいた。サソリは、たまたま通りかかったカエルに、僕を背中に乗せてくれないかと頼む。カエルは躊躇する。刺されたら死んでしまうからだ。サソリは言う。そんなことはしないよ。だって、君が死んだら僕も溺れてしまうだろ?
もっともだと思ったカエルはサソリを背に乗せ、泳ぎ出した。ところが、川の真ん中にさしかかったあたりで、サソリはカエルの背中に深々と毒針を突き立てた。もうろうとする意識の中、カエルは尋ねた。なんでこんなことをするんだ?
サソリは答えた。「だって、それがサソリというものなんだよ」

歪んだ支配欲を〝よかれと思う気持ち〟という聞こえのよい言葉にくるんで押し付けてくる人たちの病的なメンタリティー。『モラル・ハラスメントの心理的構造』は、シーンやタイプ、そしてシチュエーションに分類しながら、きわめて冷静な語り口でハラッサーの心理をつまびらかにしてくれる。

(文:宇佐和通)

モラル・ハラスメントの心理構造

著者:加藤諦三
出版社:大和書房
あなたは誰かに、巧妙に心を傷つけられていないだろうか。愛の言葉を持ち出し、相手を縛るモラル・ハラスメントは、人の心を弱くして、生きるエネルギーを奪う―その恐ろしい実態を解明し、自分を取り戻すための一冊!

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