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知らぬ間に罪を犯してしまう「闇ネット」の世界

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2020年東京オリンピックのエンブレムが取り下げられた際、「ネットが勝利した」という形容を何度か見聞きした。或いは、ネット住民、という言われ方もある。いずれも違和感がある。一体それは、誰なのだろうか。

前FRB議長暗殺を予言すれば約5万6000ドル

ジェイミー・バートレット『闇ネットの住人たち デジタル裏世界の内幕』(CCCメディアハウス・刊)は、ネットの世界に潜む危うい取り組みを事細かに探究する一冊。「ネットが……」という主語はいつだって曖昧で、だからこそ没頭する人にとっては、甘い蜜であり続ける。その一方で、暴徒と化せば誰にも止められない。「インターネットの闇」や「オンラインの悪」といったフレーズに慣れてしまった人は多いが、そういった手垢まみれの認識で済ませておくだけでは危ういのだと、本書が改めて教えてくれる。

日々、伸縮を繰り返すネットを、自分なりに把握した気になるのは、いつだって危険だ。たとえば「暗殺市場」なる場がある。検索するだけでは辿り着けないサイトだ。「暗号化されて隠されたところ」にあり、このサイトでは「リストに名前を追加する」「その名前の人の懸賞金を追加する」「その人の死亡時期を予言する」「その予言が当たれば懸賞金がもらえる」との文言が並ぶ。一例としては、前FRB(米連邦準備制度理事会)議長が死ぬ日を予言できれば、約5万6000ドルを受け取れるという。

なぜ、オンラインでは無視できてしまうのか

筆者は、本書の存在を「オンライン社会に蔓延するさまざまな闇のサブカルチャーの包括的な記録と見なされても困る」と記す。オンラインには「破壊的なサブカルチャー」と同様に、「ポジティブで、役に立つ、建設的なサブカルチャー」も存在する。そんな中で、闇だけを成敗することはもはや不可能。使用する人間にしたって、善人・悪人がくっきり分かれているはずもない。なぜ人は、オフラインでのルールや規範を、オンラインでは無視できてしまうのか。ジョン・スラーの「オンライン脱抑制効果」が例示されている。

その効果とは、解離性匿名性、不可視性、異時性、唯我論的摂取、解離性想像力、権威の最小化の6つ。難儀な言葉ばかりだが、字面からなんとなく意味を汲み取ってもらえるだろう。要約するならば、「コミュニケーションがお手軽すぎて規則や責任がないように見える」ということになる。自分の中で身勝手に規則や責任を放棄することで、罪の意識を持たない犯罪者が生まれる事になる。

闇のままではないからこそ恐ろしい

50代のイギリス人男性・マイケルは、「自分のコンピューターの中に3千枚もの児童のわいせつ画像を所蔵していた罪で有罪判決を受けた」が、彼は「どうしてこんなことになったか、私には全然わからないんです」「実際、私には自分自身のことすら完全にわかってない」と語る。イギリスでは18歳未満が登場するポルノは違法とされているが、10代女性のポルノへの需要は増え続けている。そこで生まれるのが「擬似児童ポルノ」。10代かのように見せるポルノだが、その手のサイトを覗いていれば、ポップアップ広告などで巧妙に違法サイトへ導かれる。逮捕されたマイケルは、自分が一線を越えてしまったことを認めつつも「それが正確にいつかは、自分でもわからないんです」と漏らす。

自傷行為を比べ合うサイトがあれば、自殺を補助するサイトもある。自分とは縁遠いところでなんて恐ろしいことが行なわれているのだろうと、インターネットの「闇」を怖がるのは、一見正しい。しかしながら、その正しさだけで処理をしていると、その闇とやらが、徐々に忍び寄ってくる存在であることを忘れてしまう。極めて曖昧なグラデーションを作り出したうえで迫ってくるので、先述のマイケルのように「自分でもわからない」状態が生まれる。「闇」が、ちっとも闇のままではないからこそ恐ろしいのだ。

(文:武田砂鉄)

闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏社会の内幕

著者:ジェイミー・バートレット
出版社:CCCメディアハウス
グーグル、ホットメール、フェイスブック、アマゾンなどおなじみのオンライン世界の向こう側には、自由が限界まで追求され、人々がなりたいものになり、したいことができる、サイト、コミュニティ、カルチャーの、あまり表に現れない巨大なネットワークが存在する。創造的で複雑、かつ、危険で不穏な世界。あなたが考えるより、はるかに身近な世界。本書は、現在のインターネット、そして、その最も革新的で危険なサブカルチャーである、荒らし、ポルノ作家、麻薬の売人、ハッカー、政治的過激派、コンピュータ科学者、ビットコインプログラマー、自傷行為者、リバタリアン、自警団員などに関する、啓発的な研究だ。さまざまな直接体験、独占インタビュー、そして衝撃的な文献証拠に基づき、自由と匿名の条件下における人間性の驚くべき一面を垣間見せ、変わり続ける謎の世界に光を当てる。

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