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実はある、ペンネームに深い意味。

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作家のペンネームの由来はさまざまである。有名なところでいえば江戸川乱歩は、敬愛する作家のエドガー・アラン・ポーの名を日本語風にもじったものだという。二葉亭四迷は「くたばってしまえ」をもじったものだとも言われている。彼の父親にその言葉を投げつけられたことから由来するのだとか。では樋口一葉や夏目漱石の筆名には、どういう意味がこめられているのだろうか。今までこの名前が本名だと思っていた人も、少なくないのではないだろうか。

作家の本名を辿る旅

『教科書では教えてくれない日本文学のススメ』(関根尚・著/学研プラス・刊)は、アパートの住人が全員文豪という設定で、それぞれの部屋を訪れ、彼らの生き様を知る。表札が全員本名なのも興味深い。そしてこの一葉と漱石のペンネームの由来なども、このコミックで紹介されている。詩人の中原中也さんは、本名だったのは、意外だった。

夏目漱石の本名は夏目金之助。22歳の時に初めて漱石という名を使い始めた。中国の故事を間違えた「漱石枕流」という言葉があり、これは、石で口をすすぎ、川の流れを枕にする、という意味である。本来は川で口をすすぎ、石を枕にするという意味(枕石漱流)なのに、そう書いた人は決して自分の誤りを認めなかった。この負けず嫌いっぷりを漱石はいたく気に入って、ペンネームにしたのだという。それは本人が負けず嫌いだったかららしい。

こめられている、深い意味

樋口一葉の本名は樋口奈津(ひぐち・なつ)。一葉という名前は、20歳の時に初めて名乗った。見た通り一枚の葉っぱという意味ではあるが、達磨大師が揚子江を渡る時、乗って行った蘆の葉なのだという。彼女の一家は生活に困窮しており、一葉はお金を稼ぐために、原稿を書かねばならなかった。そのため「達磨も私もお足(お金)がない」という意味なのだという。家族の生活を背負って辛抱強くせっせと働いた彼女が、ペンネームには自分の本音を秘めていたというのは、せつない話である。

一葉が21歳の時に作った和歌にも、達磨大師が出てくるものがある。
「我こそはだるま大師に成にけれ とぶらはんにもあしなしにして」
とぷらはんというのは、弔い、つまり葬式のことである。友達が亡くなったので葬式に出ていきたいが、足(お金、つまりお香典)がなくて行くことができない、と嘆いているのだ。今も昔も小説で生計を立てるのはなかなか難しいことであるが、一葉は24歳に結核で亡くなる直前に「たけくらべ」などで高い評価を得ていたので、もう少ししたらお金持ちになっていたかもしれない。お金に苦しんだ彼女が五千円札紙幣になっているのだから、複雑な気持ちになってしまう。

名前へのこだわり

さて知りたい人はあまりいないかもしれないけれど、私、内藤みかのペンネームは元々は内藤美果だった。官能的な小説を書くこともあり、作品がみずみずしく美しい果実として在りたい、という願いを込めている。後に姓名判断をしたら、ひらがなにしたらものすごく運気が良くなるというので、変更してしまったけれど。きっと多くの作家さんも、ペンネームにはさまざまな思いを入れていると思う。

ペンネームだけではない。作品の登場人物も、きっと様々な理由があって命名されているに違いないのだ。例えば夏目漱石の「こころ」に出てくる友人の名前は「K」である。普通ならば勝彦などと、名前で書くところをわざと「K」としている。その不気味さ、クライマックスに近づくにつれてこのイニシャルがどんどん圧迫感を帯びて迫ってくる感じ。これは狙ってつけているのだ。

私は最近、脚本を書く。先日「バニーボーイズ」という脚本で、お坊ちゃんキャラに望巳、子分キャラに葵、と、綺麗な名前を付けたら演出家にダメ出しを食らった。名前だけ見てもそのキャラがどんな人物かわかるくらい、わかりやすい名前にするようにと言われたのだ。どんな風にすればいいのかと迷った末に、お坊ちゃんキャラには育之助、子分キャラには浩と付けたらOKだった。名は人を現す。登場人物の名前や作者の名前の由来も考えながら物語を読むと、新たな一面が見えてくるかもしれない。

(文・内藤みか)

教科書では教えてくれない日本文学のススメ

著者:関根 尚
出版社:学研プラス
楽しく読んで教養が身につくコミック。「夏目漱石は自分の間違いを認めない」「森鴎外は元祖キラキラネームの名付け親」「太宰治は芥川龍之介が好きすぎ」など、文豪のトンデモ話が盛りだくさん。ちょっとためになって、だいぶ笑える日本文学コミック決定版!

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