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嫁入り道具に春画ですって?

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中学生の頃、祖母に「お婿さんにしたいと思う人ができたら、すぐに教えるんだよ。みんなには内緒にしておいてあげるから、真っ先にね」と、言われた。
「うん、いいけど。でも、なぜそんなことを言うの?」と、尋ねると、「あげたいものがあるんだよ」と、笑う。
待ちきれずに「えっ!実は、もう好きな人、いるの。それ、ちょうだい」と、嘘をついたが、祖母は「駄目、駄目、だまされないよ」と、首を振り、「いくらなんでもまだ早いんだよ」と、釘を刺す。
話を聞いて、確かにそうだと思った。中学生には早すぎる。
祖母からの贈り物、それは「春画」だったからだ。

祖母のお宝

祖母は見た目は立派な年寄りだったが、中身は「それでもおばあちゃんなの?」と、聞きたくなるほど、感覚が若々しく、とんでもないことを言う人だった。
あれはそう、私が中学に入学してすぐの頃だ。
「暁子、制服のスカート、もっと短くしてあげるよ。あんたは膝小僧が可愛いから、見せた方がいいよ。少しずつ少しずつ丈をつめていけば、先生も気づかないよ」と、言って、にやりと笑った。そして、翌日には、「先生が気がつかない」程度に、スカートは短くなっていた。私が寝ている間に、勝手に丈をつめたのだ。
高校になると、スカートはつめなかったが、とうとう、桐のタンスに隠してある春画を見せてくれた。
「な、なぜ? ど、どうして、こんなもの持ってるの、おばあちゃん」と、聞くと、
「お床入りは大事なことだよ。でも、教えてやることはできないだろ? だから、絵を渡そうかと思ってたんだよ」などと、真面目な顔で言うのだった。
「お床入り? 大奥じゃないんだからさ」と、私は答え、恥ずかしくて鼻血が出そうだと思った。それなのに、祖母は「そうかねぇ。ま、まだ早いか。それに、見つからないんでしょ?お婿さん候補。待ちきれないね。何をグズグズしてんだか」と、ため息をついていた。

鼻血が出そうな迫力

祖母は見せるでもなく、隠すでもなく、私の目の前で春画をヒラヒラさせながら、「本物だよ、江戸時代のもの」と、威張っていた。
なんでも鑑定団に出展したわけではないので、本物だったかどうかわからない。
今からでも遅くはないから、本物かどうか確かめたいところだが、それはできない。結局、その春画は私の元にはやってこなかったからだ。
大学に入って、結婚を考えるボーイフレンドができたよ報告に行った私に、祖母は「あぁ、あの春画ねぇ、ごめんね。もうないんだよ。まあ、何とかなるよ。暁子なら大丈夫」と太鼓判を押した。
なぜ春画がなくなったのか、何が何とかなるのか、わからないままだったが、私は気にしなかった。わけのわからない格好で、しっかりからみつく男女の姿を覚えていたからだ。

永青文庫で日本初の春画展、開催中です。

ところで、今、東京の永青文庫で、「SHUNGA 春画展」が行われている。日本で初めての大規模な春画の展覧会だ。
2013年から2014年にかけて、イギリスの大英博物館で開催され、大好評だった作品が公開されており、極めて魅力的な展覧会だといえよう。それなのに、日本では当初、開催が危ぶまれていたという。
実行委員会の努力にもかかわらず、数多くの美術館や博物館が公開を躊躇し、実現に至らなかったからだ。
唖然とするほどの直截な表現に、たじろぐ人が多かったのだろうか。
永青文庫で行うことができたのは、理事長である細川護熙氏の尽力があったからだという。
開催は2015年9月19日から12月23日までで、途中、絵の入れ替えもある。私も是非行きたいのだが、神戸住まいのため、まだ果たせていない。とりあえずは、電子ブック『江戸の春画を知りたい。』(学研パブリッシング・編/学研プラス・刊)で、春画入門をしているところだ。

春画は家の宝か?

春画の中の男女を見ていると、江戸時代の寝間にタイムトリップして、見てはならぬものを見ているような気持になる。それもライブで。
有名な浮世絵画家達が、情熱をこめて描き出した男女のからみあいは、もちろんエロティックで、鼻血が出そうではあるが、なんだか笑ってしまうおかしさに満ちてもいる。
江戸時代の人々も、恥ずかしい、でも、見たい、見ないではいられない、やっぱり見ねばならぬと、春画ににじり寄ったのだろうか。
作品の中には、家の蔵に入れておくことで火事の類焼がまぬがれるという噂が広まったものまである。春画はまさしく家の「お宝」であったのだろう。
私も孫ができたら、結婚祝いに春画の本を贈るようなおばあちゃんになりたい。
「おばあちゃんもまだまだ現役だよ。馬鹿にしたもんじゃないよ」などと、威張りながら、ね。

(文:三浦暁子)

江戸の春画を知りたい

著者学研:パブリッシング(編)
出版社:学研プラス
13年10月にイギリス・大英博物館で行われる江戸春画展。海外で高く評価される日本のアートを再発見できるムックが登場! 江戸の浮世絵ジャンルで大きな位置を占める春画の名作・秀作をたっぷり収録した、芸術としての春画入門に最適な一冊です。

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