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1990年代はテレビ時代劇の黄金期だった

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子どものころ、学校をサボった覚えはないだろうか。わたしの場合、小学生のころからサボり癖があった。お目当ては、ゲームの続きでもなければ漫画でもない、午前中に放映されていた「テレビ時代劇」の再放送だった。

心の支えになったテレビ時代劇

昭和55年(1980年)生まれのわたしが小学生のときだから、1990年代の話だ。わたしが住んでいた某県では、すくなくとも3つの地上波チャンネルで、午前中に時代劇ドラマの再放送があった。TBS系列では『水戸黄門』、テレビ朝日系列では『三匹が斬る!』や『暴れん坊将軍』、フジテレビ系列では『鬼平犯科帳』というラインナップだった。

当時のわたしは、親元ではなく、ワケあって祖父母のもとで育てられていた。よそから転校してきたばかりのころ、新しいクラスメイトたちと仲良くなれそうもないと感じたわたしは、数ヶ月のあいだとはいえ「登校拒否」になってしまう。

まだ50代だった祖父母たちは働きに出ていたので、小学校に行かないわたしは夕方までひとりで過ごさなければならなかった。あの頃のわたしにとって、テレビが唯一の友達だったのかもしれない。

じいちゃんと水戸黄門をよく観ていた

わたしが時代劇ドラマを愛好するようになったのは、祖父の影響だ。ふたりで毎週月曜日の夜8時を楽しみにしており、祖父のヒザの上に乗りながら一緒に『水戸黄門』を観ていたことをよく覚えている。シベリア抑留経験をおくびにも出さず、80歳で亡くなる直前まで毎日はたらき続けた、いつも頼りになる優しいじいちゃんだった。

2015年現在、NHKやBS・CS放送以外では、ほとんど新作の時代劇ドラマを見かけなくなった。わたしが少年期をすごした1990年代は、民放各局が競うようにして時代劇の新作ドラマを制作していたものだ。特に、フジテレビ系列の「水曜夜8時枠」で毎週放映されていた時代劇ドラマは、他局の追随を許さないクオリティを誇っていたように思う。

主な番組名を挙げるならば、北大路欣也『銭形平次』、渡辺謙『仕掛人・藤枝梅安』『御家人斬九郎』、藤田まこと『剣客商売』、中村吉右衛門『鬼平犯科帳』の新作ドラマが、1989年から2000年までの約10年間にわたってローテーションで放映されていた。まさにテレビ時代劇の黄金期であり、これを豊穣と言わずして何と言おうか。

最近の『鬼平犯科帳』が気にくわない理由

なかでも、フジテレビ版の『鬼平犯科帳』と『剣客商売』は、わたしにとってかけがえのない作品だ。どちらも池波正太郎の原作だが、テレビドラマ版が面白かったから小説にも興味をもったという人は案外多いのではないか。わたしもそのうちの一人だ。

往年の『鬼平犯科帳』ならば、いまでも観返したくなることがあるので、定期的にレンタルビデオ店でDVDを借りている。通算で第9シリーズもあるので見ごたえがある。中村吉右衛門の『鬼平』は人気があるようで、2015年1月9日には「密告」という題の2時間スペシャルドラマが放映されていた。

『鬼平』の新作(といっても既出エピソードを撮り直したもの)を観られるのはありがたい……が、10分ほど観たあと、テレビを消してしまった。じつは、もとより期待などしていなかった。なぜなら、いまの『鬼平』は抜け殻のようなものであるからだ。

あくまでも個人の感想として述べさせてもらうならば、主演の中村吉右衛門は老いすぎてしまった。第1シリーズの1989年当時は40代半ばだった吉右衛門も、いまでは70代で人間国宝のおじいちゃんだ。鬼平みずからが鉄火場に乗りこんで凶悪な盗賊たちと繰り広げる殺陣が見どころなのに、ひいき目に見たとしても、火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官はつとまりそうにない。

そもそも、2001年に主要な登場人物のひとり「相模の彦十」役の江戸家猫八が亡くなったときから、わたしはそれ以降の『鬼平』新作ドラマスペシャルを冷ややかな目で観ていた。きわめつけは「小房の粂八」役の蟹江敬三が2014年に亡くなったときだ。蟹江さんの訃報を目にしたとき「もう鬼平は作れないな」と、プロデューサーでもない分際で悟ってしまったくらいだ。(佐嶋こと高橋悦史が1996年にすい臓がんで亡くなったときも、わたしは数日のあいだ落胆した)(ああ! 今年2015年に交通事故死した萩原流行も悪徳同心役を好演していた……なぜ良い役者にかぎって早すぎる死を迎えるのだろう。合掌)

「さいとう・たかを」は時代劇マンガもスゴイ!

フジテレビとしては、主役の吉右衛門をはじめ、梶芽衣子や尾美としのりなどの主要メンバーが健在なので制作できると踏んだのかもしれないが、いち鬼平ファンとしては「これ以上は正視に耐えない」と申し上げざるをえない。

おなじ理由により、これまでのわたしは「テレビドラマ版」と「原作小説」以外のものを『鬼平』であると認めてはいなかった。じつを言えば、漫画『ワイド版鬼平犯科帳』(さいとう・たかを・著/リイド社・刊)も同様であり、中村吉右衛門でなければ「長谷川平蔵」にあらずという意識だったので、鬼平ファンでありながらコミカライズ版にはいっさい手をつけないできた。

しかし、先述したようにテレビドラマ版の新作はあてにできず、過去の全9シーズンは繰りかえし観たせいで飽きている。そんなとき「さいとう・たかを版」を読んでみると……わるくない。単なる食わず嫌いだった。原作小説に忠実でありながら、連載マンガのノウハウによって次回が気になるよう再構成されている。テレビドラマ版では省略されているエピソードが描き起こされているので、読んでいると新たな発見があった。いままで50巻以上を刊行している。わたしの「鬼平ライフ」がはかどりそうだ。

(文:忌川タツヤ)

ワイド版鬼平犯科帳 1

著者:さいとう・たかを(著)
出版社:リイド社
池波正太郎の名作小説を巨匠がコミック化した傑作時代劇画が、ついに文庫サイズで登場。火盗改長官・長谷川平蔵の活躍を描いたシリーズ第1巻。

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